第163話、出来る事
話が纏まった後、手続きの為に魔道具の力を教えて欲しいと言われた。
とはいえ出来る事全てを教えろ、という訳ではないらしい。
単純にどんな事が出来る魔道具なのか、という点だけが解れば良いとか。
ただその時、どう説明すれば良いのだろう、と私は悩んでしまった。
だってガライドの能力って、何処まで喋って良いのか解らない。
前に幾つか内緒でと言われているから、下手な事を言うと約束を破ってしまう。
「え、えっと、その・・・」
「あー・・・嬢ちゃん、ちょっと広い部屋に行こうか。口で言うより実際やった方が早そうだ」
口ごもっているとお爺さんがそう提案して、皆で広い部屋に移る事に。
移動した先は彼の言う通り広い部屋で、どうやら鍛練をしている人達が居た。
ただ前に行った広い部屋には沢山人が居けど、こっちには数人程度の様だ。
「おう、爺さん、何だそいつら。見学か?」
「選手候補だ」
「・・・後ろの男か?」
その中の一人がお爺さんに笑顔で話しかけ、答えを聞くと怪訝そうな顔でガンさんを見つめる。
メルさん程ではないけれど、鍛えているのだろうという体躯の男性だ。
「そいつもだな。本命はこっちの嬢ちゃんだ」
「・・・その子、昨日の試合で人気になった子だろ。そっちで出せば良いじゃねえか」
「そうもいかねえ事情があってな」
「ふーん・・・」
男性は少し気に食わなさそうな表情を見せ、けれどそれ以上は何も言わなかった。
お爺さんはそれを確認してから私達に向き直り、やってくれと告げた。
ただそうは言われたものの、どうしたら良いのだろう。何を見せるべきだろうか。
こういう時は素直に聞こう。一人で無駄に悩んでいても仕方ない。
「ガライド、何をしたら、良いと、思いますか?」
『む? そんなに悩む事でもないと思うが・・・彼はグロリアの戦闘面での能力を知りたいと思っている。ならば単純に、紅い力の解放だけを見せてやれば良かろう。打つ必要はないぞ?』
「紅い、力。わかり、ました・・・!」
なら念の為、手袋と靴と靴下は脱いでおこう。そう思い手袋を外す。
すると鍛練をしていた人達は手を止め、私の両腕に目を向けた。
どうかしたのかなと思いつつ靴も脱ぎ、靴下を脱ごうとした所でリズさんに止められた。
「お嬢様、下着が見えてしまいます。私が脱がしますので、そのままで」
「あ、は、はい・・・」
見えた所で特に問題は無い気がしつつも、リズさんの言う通りにする。
私は動かずに少し足を上げるだけで、両足とも靴下を脱いだ。
「成程、確かに生身の手足じゃない訳だ」
「はい、この通り、です」
お爺さんが確認する様に呟いたので、両手を前に出して見せる。
ただ手にガライドを持ったままだから、ガライドを突き出している感じだけど。
遠巻きに見ていた人達も気になったのか、ちょっと近付いて見に来ている様だ。
「じゃあ、やり、ます。危ないので、ちょっと、下がってて、ください」
「・・・解った」
「じゃあ、いき、ます・・・!」
お爺さんが少し下がったのを確認して、全身に力を籠めた。
ギリィっと歯を食いしばり、特に手足に、目に、力を籠め続ける。
段々と自力で意識して出来るようになった、手足の力の解放を見せる為に。
「ぎっ、が、があああああああ!」
あと一歩。もうちょっと足りない。その足りなさを引き寄せる様に叫ぶ。
同時に手足が紅く光り出し、体にも纏わり始める。ちゃんと、出来た。
「ふぅ・・・ぐぅう・・・!」
その状態を維持する為に、力を込めたままその場で足を開いて踏ん張る。
バキンと床が割れたけれど、これはどうしようもない。
下が土なら兎も角、石の床じゃ割らない様に踏ん張るのは難しい。
これでも大分抑えている。この状態で抑えるのは未だ上手く出来ない。
血が沸騰する様な感覚が、今すぐこの力をもっと開放しろと言っている様で。
前は全力で打つ練習をしていたけど、最近はむしろ絞る練習をしていたから何とかなった。
『うむ。上手いぞグロリア。出力も安定している。今は強く開放する必要は無いから、その調子で抑えて行こう。あまり使い過ぎても、補給出来る場所がないからな』
「はい・・・!」
ギリィっと歯を食いしばりつつ答え、荒い呼吸を続ける。
魔力の消費は少ないはずなのに、何時もより疲れる気がするのは何故だろう。
単純に魔力が減り過ぎているのだろうか。それともまだ慣れていないせいだろうか。
「お、おい、大丈夫なのか嬢ちゃん、苦しそうに見えるんだが」
「魔道具を使った時の彼女はあんな感じですよ。特に問題は在りません」
「・・・本当かよ」
お爺さんが私の様子を見て心配になってしまった様だ。けど本当に問題は無い。
リーディッドさんの言う通り、紅い力を使っている時の私は何時もこんな感じだ。
そしてその私を見ている周囲の人達は、皆目を見開いて驚いている様に見えた。
何故かキャスさんが満足気だ。どうだいうちのグロリアちゃんは、って言って胸を張っている。
『グロリア。そろそろ終わりで良いだろう』
「――――――ふぅ・・・はい、ガライド」
ガライドの言う通り光を消し、同時にガクンと力が抜ける感覚を覚える。
これにはもう慣れているからすっと立ち、少し手足をにぎにぎして状態を確かめる。
うん、特に問題は無い。何時も通りの感覚だ。でもちょっと・・・大分お腹が空いたかも。
「こんな感じ、です。これで、大丈夫、ですか?」
「あ、ああ・・・あの光は、もしかして攻撃に使える、のか?」
「はい。でも、人に当てたら、多分、吹き飛び、ます」
「それはやべえな。出来ればそうならねーように抑えて欲しいが」
「解り、ました」
なら試合では紅い光はなるべく使わない様にしよう。ガンさんぐらい強い人だけに打とう。
「マジかよ・・・あれかなりやべえぞ」
「おい見ろよ、見てただけで鳥肌立ってんだけど。何あれ怖い」
「これは次のリーグ戦、大変な事になりそうだな」
その間私の事を見ていた人達は、口々にそんな事を言っていた。
怖いと思う人は、多分ちゃんと強い人なんだろう。何となくそう思う。
「じゃあ、そっちの兄ちゃん、見せてくれるか」
「・・・グロリアの後に見せるのすげー嫌なんすけど」
お爺さんに促されたガンさんは、嫌そうな様子ながら光剣を見せた。
はーん、つまらんなー。とお爺さんに言われ、拗ねた彼に慌ててしまった。
「俺だって光剣が魔道具の中で珍しくない事はしってるよ・・・」
が、ガンさんは強いんですよ。ほんとに、凄く、強いのに!
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