第149話、憧れ
「昨日見て解っていたつもりだったけど・・・これは」
「第三の連中が赤子扱いか。しかも何だアレは、踊っている様じゃないか」
「これがグロリア様の実力ですわ、お兄様方」
「・・・俺が誘ったんだが」
王子様達がそれぞれに感想を口にしているのを聞きながら、振るわれる武器を躱して行く。
槍が三人、剣が二人、短剣が一人。短剣の人は両手に持っている。
この人達は昨日の騎士さん達と違い、他の騎士さんの邪魔にならない様に動いている。
魔獣領の兵士さん達にも負けないぐらいの動きだ。流石に隊長さんには勝てないと思うけど。
隊長の兵士さんはもっと鋭い。もっと速い。もっと重い。もっと読めない。
私は運動能力で勝っているけれど、技量は彼の方が上。
そんな人といっぱい訓練していたおかげか、彼等の動きが何となく読める。
多分こう動くんだろう。多分こう合わせるんだろう。多分こう引くだろう。
以前は反射的にやっていた事が多いけど、今は頭でそれを理解出来る。
おかげで、手加減が、しやすい。
「がっ」
「ぐふっ」
「うぐっ」
合わせて来た三人、短剣と剣の三人を打った。
三人とも鎧を付けていないから、加減には細心の注意を払っている。
訓練で鎧に頼ってどうする、っていう考えらしい。私としてはちょっと怖い。
槍の三人はちょっと距離が遠く、同時に打ちに行く事が出来なかった。
けど私の打撃の動きに合わせて攻撃してきたので、そのうち一つを捕まえて引っ張る。
「なっ!?」
槍を持っていた騎士さんが槍から手を離さなかった事で宙を舞う。
驚いた表情の騎士さんの下に潜り込み、下から打撃を打つ。
そのせいで他の二人は追撃出来ず、それを確認してから片方に騎士さんを投げた。
これで一人は動けない。その間にもう一人の槍持ちの騎士さんに詰める。
騎士さんは引きながら槍で突いたり、薙いだりして来たけれど、引きが遅い。
また槍を掴んで、けれどこの騎士さんは槍を手放した。
その代わり素手で突っ込んできて、その打撃に合わせてこちらも打撃を突き入れる。
騎士さんは崩れ落ちたけれど、彼の目的は打撃で私を倒す事じゃない。
後ろから足音を出来る限り消して近付く気配。もう一人の槍持ちの騎士さん。
油断も容赦もない背中への突きを躱し、驚いた表情の騎士さんの懐に踏み込む。
先の一撃に全力を込めていたのか、後ろに下がる事が出来ない様だ。
その状態も考慮して打撃を突き入れ、騎士さんが倒れた所で周囲を見回す。
最初に倒した三人は立ち上がっているけど、かかってくるつもりは無さそうだ。
ならこれで終わりで良いのだろうか。また終了の合図が無いけど、どうしたら良いんだろう。
「そこまで」
少し悩んでいると、団長さんが終了の言葉を告げた。そこでふうっと気を抜く。
「なあメルヴェルス、止めるのが遅くなかったか?」
「グロリア嬢の反応を見ていたからだ。彼女は終了の合図が来るまで警戒をし続けていたんだ。勝ちを申告されるまで、勝ったと油断せず。それを見てから団長は止めた」
「成程、第三らしい」
第一王子様の疑問のおかげで、止めるのが遅かった理由が私にも解った。
止めるまではまだ勝負は続いている。その意識は私には当たり前の物だ。
けれど普通はそうじゃないって事なんだろう。だからこういう形を取った。
「・・・とはいえ、グロリア嬢に限っては、一切関係無いがな」
「ん、どういう―――――」
メルさんの言葉に第一王子様が問い返そうとして、その言葉が詰まった。
それとほぼ同時に、槍持ちの一人が私に突きを繰り出して来る。
視界の端に捕らえていたそれを掴み、引きつつ彼の懐へ潜った。
「まいった!」
騎士さんは大きな声でそう叫んだので、打撃を途中で止めた。
槍も手放し手を上に上げ、もう何もしないという体勢を取っている。
でもここから攻撃する事も出来る。本当に終わりで良いのかな。
「申し訳ない、グロリア嬢。今のは私の指示だ。本物の戦場に立つ者の力を学ばせて貰えと、最後の不意打ちをする様にと指示を出した。怒りは尤もだ。その怒りは私にぶつけて頂けないか」
「・・・そう、ですか」
『確かにグロリアに不意打ちなど、魔道具使いでもない限り通用はせんな』
本物の戦場、という物が良く解らないけれど、私の力量を知る為にやった事か。
なら別に構わない。これで騎士さん達の糧になるなら、それはきっと良い事だ。
この人達の仕事は弱い人を守る事。これが弱い人の助けになるのはきっと良い。
「怒っては、いないので、気にしないで、下さい」
「そうか。寛大な言葉と、団員に多大な経験をさせて頂いた事に感謝する」
団長さんはそう言って腰を折り、私はちょっとワタワタしてしまった。
でも謝罪じゃなくてお礼だから、慌てる必要は無かったかも。
うん、良かった。喜んで貰えたなら、嬉しいな。
「グロリア嬢、次こそ俺の相手をして頂きたい」
「あ、はい、わかり、ました。よろしくお願いします、メルさん」
「よろしく頼む」
最初はメルさんとする予定だったのだけど、他の団員の経験の為にと後回しにされた。
なので待っている間ウズウズしていたみたいだ。楽し気に槍を手に取っている。
彼に礼をすると礼で返してくれて、油断も隙も無い様子で構えた。
ただ表情が、真剣だけれど、笑顔になっている。思わず私も釣られて笑ってしまう。
「―――――っ」
合図は当然無く、彼から先に動いた。
彼の攻撃は昨日よりも鋭く、そして重そうに感じる。
アレは当たったら痛そうだと、本能的に危険を感じる程に。
『・・・コイツ、昨日の城を破壊した身体強化といい、手合わせの時は加減をしていたな?』
ガライドの呟きに成程と納得できた。道理で今日はちょっと怖い訳だ。
それでも私のやる事は変わらない。躱して、いなして、弾いて、前に出る。
常に前に。前に、前に、前に。私に出来る事はそれだけだ。
「やはり、素晴らしい、いや、美しい・・・!」
けれど彼も簡単には懐に入れてくれず、昨日と同じ様な時間が過ぎる。
その間メルさんはずっと楽しそうで、私も楽しいと感じていた。
兵士さんとの鍛錬も楽しいけれど、メルさんとやるのはまた違う楽しさがある。
「・・・なんだあのメルヴェルスは。俺はやはりあんなあいつは知らんぞ。まるで恋する乙女の様ではないか。アイツはあんな奴だったのか?」
「さて、誰しも憧れを胸に抱けば似た様なものではないですか?」
「憧れか・・・そう考えればメルヴェルスらしいか。アレは・・・どうみても絶対強者だ」
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