第135話、謁見

 王様との謁見。そう王子様に告げられ、彼の誘導に従い皆で付いて行く。

 今度はメルさんも一緒に来るようだ。そうして暫く歩くと、大きな通路に出た。

 他の通路と違って横幅が凄く広い。思わずキョロキョロ見回してしまう。


『基本的には質素というか、質実剛健という感じだが、やはり場所によっては城らしい作りと装飾品が有るのだな。この通路はまさしく城、という感じに見える』

「なる、ほど・・・」


 ふかふかの絨毯が敷かれ、何だか大きなツボや、キラキラした燭台。

 良く解らない像や、魔獣の剥製。大きな鎧とか、色んなものが並んでいる。

 これがお城らしい通路なのか。でもそんなにギラギラした感じはしない。


 やっぱり前のお城と違って、装飾品があっても何処か落ち着いている様に見える。

 とはいえ世間知らずの私の感覚なんて、一切当てにならない気もするけど。


 そうして大きな通路を少し進むと、今度はその通路に見合う様な大きな扉が在った。

 扉の前では兵士さんが数人立っていて、王子様に向けて綺麗な礼を取る。

 王子様がコクリと頷くと、兵士さん達は複数人で扉を押して開いた。


 扉の向こうはとても豪華な部屋で、ふかふかの絨毯が部屋の奥まで続いている。

 そしてその最奥が少しだけ段差になっていて、大きな椅子が置かれていた。

 椅子には見覚えのある男の人が座っていて、その隣の少し小さめの椅子に女性が座っている。


 周囲には武装した兵士さんが沢山居て、他にも綺麗な服を着た人が沢山居る。

 王様の隣に居るお爺さんがやけに厳しい目を向けていて、思わずガンさんの後ろに隠れた。


「グロリアさん、行きますよ?」

「は、はい」


 けどリーディッドさんに声を掛けられ、はっとなって付いて行く。

 確か、えっと、顔を少し伏せて、王様の顔を見ちゃ駄目なんだっけ。

 あ、だから厳しい目で見られてたのかな・・・早速やってしまった・・・。


 しょぼんとしながらも教わった事を思い出し、リーディッドさんに付いて行く。

 そして彼女が足を止めて礼をしたところで、私も彼女と同じ様にした。

 今度こそ間違えてないだろうか。ドキドキと不安になりながら待つ。


「面を上げよ」


 待っているとそんな指示が聞こえたので、言われた通り顔を上げる。

 皆も顔を上げて王様へ視線を向け、けれど隣のお爺さんは目が厳しいままだ。

 私また何か違えただろうか。それとは別の理由で険しい顔なのかな。


 良く解らない事しかなくて、不安だけど兎に角じっと立つ。

 すると王様は私に一瞬視線を向け、それからリーディッドさんに戻した。


「その娘が、件の古代魔道具使いか」

「はい」

「彼女は魔獣領の食客と聞いた。相違はないか」

「はい」

「そうか」


 王様は短く訊ね、リーディッドさんも短く答える。本当に短い問答だった。

 それが終わると王様は私に目を向けると、立ち上がって近付いて来た。

 周りの兵士さんは慌てていたけど、手で制してそのまま歩いて来る。


「グロリア嬢。食客なればどこに仕えるも未だ自由であろう。余に仕える気は無いか。報酬は弾むぞ。貴族位もくれてやる」

『随分ストレートだな・・・』


 王様が私に声をかけて、その内容のせいかざわついた。

 国王様に仕える。それがどういう意味かは、一応は解っているつもりだ。

 いや、良くは解ってないとは思う。でも凄い事だっていうのは解る。


 それに貴族になれる事も、普通はあり得ない事だって、そういうのは解る。

 解るんだけど、そう言われても、頷く気にはなれない。私には、そんな物、どうでも良い。


「ごめん、なさい。私は、魔獣領が、良い、です」


 以前なら、リーディッドさんに会う前なら、きっと指示された通りに頷いたと思う。

 けど私はもうあそこに自分の居場所を見つけてしまった。あそこが良いと思ってしまった。

 少し出かけるぐらいは構わない。けれど魔獣領に帰れなくなるのは・・・嫌だ。


「そうか、ならば仕方ない。お前を手に入れる事は諦めるとしよう」


 王様が私にそう告げると、周囲のざわつきが更に大きくなり始めた。

 ただ反応は様々で、ホッとしている人と、気に食わなさそうな人と、色々分かれている。

 王様はそんな周囲の様子を意に介さず、踵を返して椅子へと戻って腰を下ろした。


「だが先程、城を壊したと聞いた。人命救助の為致し方ない事とは聞いたが、それでも城内での破壊行為だ。我に仕えぬというのであれば、相応の処罰を覚悟してであろうな」

『ふん、流石国王。随分傲慢なやり口だな。処罰が嫌なら仕えろ、とでも言うつもりか』


 処罰? 城を壊したって・・・確かに、壊した。壊してしまった。

 その事実に慌てていると、王女様が一歩前に出た。


「お待ち下さいお父様。処罰というのであれば、下すべきは彼女にではありません」

「破壊したのはその娘だ」

「それは・・・ですが・・・!」

「控えろ。誰が口答えを許した」

「っ・・・申し訳ありません」


 王女様は間違っていると訴えたけど、王様は聞く耳を持ってくれない。

 そしては私は処罰と聞いて、思わず固まってしまう。一体何をされるんだろうか。

 もしかして、帰れなくなるの、かな。それは、嫌だ。絶対に嫌だ。


「さて、話が逸れたが・・・お前は貴重な古代魔道具使いだ。条件次第で処罰は取りやめよう。大した事ではない。お前の力が必要な時、余の要請に応えるだけで良い」

『・・・成程、手に入れるのは諦める代わりに、他の形で力を使える様にしたいと』


 ええと、つまり魔獣領に帰っていいけど、呼んだらここに来いって事、だよね。

 それなら今回王女様に呼ばれた事と同じだし、別に構いはしないんだけど。

 なので返事をしようと思ったら、王様の隣に居たお爺さんが口を開いた。


「陛下、発言をお許し頂けますか」

「言ってみろ」

「彼女は古代魔道具使い。その力は国が管理すべき事かと。本来は魔獣領の者達が、自ら彼女を陛下の前に送り出して捧げるべき事。国に仕える貴族としての職務を放棄しております」

「ほう、それで、どうする」

「古代魔道具使いの娘はこの場で国所有の物とし、魔獣領には罰則を与えるべきでしょう。でなければ国を、ひいては陛下を軽んじる事の肯定になりかねません」

「そうか」


 国王様はどう思っているのか解らない無表情で、お爺さんの言葉に短く答える。

 そして目を瞑って少し思案する様子を見せ、見開いた後ニヤッと笑みを見せた。


「死ぬぞ?」

「・・・どういう意味でございましょう」

「言葉通りだ。貴様の言う事を実行すれば、ここに居る全員が死ぬと言っている。貴様は古代魔道具使いの力を舐めているのか。アレは監督役が居るから大人しいだけだ。貴様の言う通りに実行して見ろ。枷の亡くなったあの娘は強大な魔獣と何ら変わらん」

「ですが、それでは・・・」

「だから力を貸せと、落としどころを作った。不満と言うなら貴様の判断で古代魔道具使いを取り押さえて見せろ。何時爆発するか知らん火薬を上手く扱える自信があるならな」


 王様の言葉にお爺さんは悔しげな表情をして、何故か私の方を睨んだ。

 思わずビクッと後ずさり、そんな私を見てから王様に視線を戻す。


「どう見てもただの小娘ではございませんか。私の視線ごときで怯むなど――――」

「メルヴェルス、見せてやれ」

「はっ」


 お爺さんの言葉を遮り、王様がメルさんへと声をかける。

 するとメルさんは近くの兵士から槍を奪い、私へを構えた。


「グロリア嬢、全力で突くので槍を打ち払ってくれ。壊して構わん。いや、むしろ壊せ」

『力を見せてやれ、という事だな。グロリア、遠慮はいらん。思い切り壊してやれ』

「・・・解り、ました」


 良く解らないけれど、言われた通り突いて来た槍を片手で打ち払った。

 払った部分は粉々になり、折れた槍の先が飛んで行く。

 そしてふかふかの絨毯に突き刺さると、メルさんは槍の持ち手を投げ捨てた。

 周囲の人達は今の光景を見て、驚いている人が多い様に見える。


「見たか。片手で払っただけでアレだ。しかもあれは別に古代魔道具の力を使った訳ではない。車を跡形もなく吹き飛ばした報告もある。貴様はあの娘の力を舐め過ぎだ」

「・・・差し出がましい事を申し上げました」


 お爺さんは静かに、だけど一瞬私に凄く険しい目を向けて、王様に頭を下げた。

 あのお爺さん苦手だな。怖い。私の知る『偉い人』な感じがする。


「話は終わりだ。古代魔道具使いは変わらず魔獣領の食客であれば良い。余も無理にお前を召し抱えようとは言わん。勿論お前の気が向けば何時でも迎えよう。良いな、リーディッド嬢」

「はっ」

『・・・成程。この謁見はそういう事か。グロリアに下手に関わるな、という国王命令な訳だ。そしてその割に、こちらの傍には王子が二人居て、王女はグロリアを庇った。王家とグロリアと一切関わりが無い訳ではない、と他の貴族には見せられているか。よくやる』


 王様の言葉にリーディドさんが応え、その後王様は何処かへ去って行った。

 それで私達も下がる様に言われ、またみんなでぞろぞろと部屋を出て行く。

 ガライドは気に食わなさそうな、感心した様な、何だか良く解らない感じだった。


『・・・あのジジイ、聞こえてないとでも思ったか。本当に手を出せば容赦はせんぞ』


 ただ部屋を出る直前、ガライドが物凄く不機嫌な声で呟いていた。

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