第131話、復元魔道具使い

「はじめ!」


 王子様の合図と同時に、二つの魔道具から怖い気配が放たれる。

 青く光るガンさんの魔道具と、青年の魔道具は白く光るも放たれたのは赤い炎。

 その炎は剣の形をとり、そして炎の剣から更に放たれた炎が青年の体を覆う。


『ふむ? アレに火を放つ機能など無いはずだが・・・どうも変異獣の力を濃く感じる。修復に使われた素材が原因で、機能が変化したという所か』


 ガライドは炎を放つ魔道具を見て、興味深そうに呟いている。

 けれど私はその言葉に応えず、ただただ二人の手合わせに集中していた。

 万が一危ないと思ったら、即座に介入する為に。


 一応道中でガライドが対策を取ってくれて、内容も教えて貰った。

 だから多分、私が動くよりもガライドの方が対処が早いとは思う。

 けどそれだって絶対に間に合うとは限らない。なら私も気を付けておいた方が良い。


「・・・!」


 青年が何かを呟き、次の瞬間踏み込んだ。動きはかなり速い。とは思う。

 少なくとも今まで戦った人の中では『四番目』には速いと思った。


「っ!?」


 剣を振り下ろした青年が、驚いて周囲を確認しようとしている。

 振り下ろした先の相手が目の前から消えたからだろう。

 けれど彼が顔を動かした瞬間、光の剣が彼の眼前に突き出される。


 ガンさんの『光剣』の光が、炎が舞う中を突っ切る様に。

 ピタリと青い光が喉元に付きつけられ、青年は動く事が出来ない。

 ガンさんの勝ちだ。心配だったけれど、何の問題も無く終わってよかった。


『あの男、確かに魔道具使いの様だが・・・ガンに比べれば練度が足りんな。これはガンが強いのか、それともあの男が弱いのか・・・サンプルが少ないと判断が難しいな』


 どちらかは私にも解らない。別にわかる気も、必要も無いと思っている。

 ガンさんが無事だった。私にとって大事なのはそこだけだから。

 とはいえ最初の動きを見るに、心配なんて必要無かったみたいだけど。


 青年の動きは速かったけど、ガンさんよりは遅かった。

 その上目が余り良くないみたいで、完全にガンさんを見失っていた。

 あれじゃガンさんに勝つのは無理だ。少なくとも接近戦じゃ絶対勝てない。


「ぐ・・・ふ、ふざけるな・・・!」

「うおっ、と」


 ただ勝負はついたと思っていたら、青年が炎の剣をガンさんに向けて振った。

 止める気のない攻撃に、けれどガンさんは即座に後ろに飛んで躱す。


 ・・・どういうつもりだろう、あの人。最初の一撃も止める気は無かったし。


 私が彼との訓練でやったように、止められなかったのだろうか。

 いや、最初の一撃から全力だった様に見える。止める気は無かったように見える。

 ならあの青年はガンさんを殺す気で魔道具を使った。そういう事じゃないだろうか。


 少し胸にざわつきを覚えながら、けれどガンさんが無事なのでぐっと我慢する。


「貴様! 何だ今のは! その魔道具の機能か! 一体何をした!!」

「何をって・・・ただ躱して、反撃しただけですけど・・・」

「ふざけるな! 眼前から消える様な事が出来てたまるか! それは光剣ではないな!?」

「えぇ・・・いや、光剣ですけど、間違い無く・・・」

「あくまで白を切るつもりか、良いだろう・・・ならば!」


 青年は魔道具が光剣じゃないと言い張り、けれどガンさんは困惑している。

 そんなガンさんを無視して距離を取り、青年は身に纏う炎を濃くした。


「その魔道具の力を確かめてやる・・・!」


 そしてその呟きと同時に、火の塊がガンさんに向かって放たれる。

 でもただの火じゃない。あれからは力を感じる。当たったら危ない。

 けれどガンさんは一瞬背後を見て、それから放たれる炎を躱して行く。


 時折光剣で切り落として、後薄くだけど魔力で体を覆っている様だ。

 掠っただけでも危なそうだから、彼の判断は正しいと思う。


「ちいっ、ならばこれでどうだ!」


 青年は一撃も当たらない事に焦ったのか、更に数を増やしてガンさんに放った。

 するとガンさんは流石に不味いと思ったのか『げっ』という声を漏らす。

 けれど一瞬私の方目を向けて、視線を火に戻すと全力で駆けた。


「ガライド!」

『発射』


 ガンさんは危なくない。多分彼ならあの程度躱して、切り落とせると思う。

 けれど周りに居る人は違う。あの軌道は見ている騎士さん達に当たる。

 ガライドもそう判断をしていたんだろう。声をかけるのとほぼ同時に紅い光が舞った。


 光の速さは火よりもはるかに速く、放つとほぼ同時に当たっていた。

 手袋をまた穴だらけにしてしまったけれど、幸い火は全部うち落とせたようだ。

 両腕に幾つも穴が開いていて、ここから今の紅い光の線を放てたらしい。


「な!?」

「悪い、助かったグロリア!」


 その光景に青年は驚きの表情で固まり、ガンさんは私が役に立ったと言ってくれた。

 良かった。危ないと思って手を出したけど、少しだけ余計な事したかなと不安だったから。


「な、何だ、今のは・・・なんだその両腕は・・・!」


 青年は闘う相手のはずのガンさんではなく、わなわなと震えながら私を見ていた。

 何だと言われても、ガライドか、古代魔道具としか答えられない。

 そもそも王子様が私に割って入るようにと、そういう話をしていたと思うんだけど。

 何て思っていると、王女様は小さな溜息を吐いてから声をかけた。


「彼女は新しく見つかった古代魔道具使いです。先程兄が割って入るという話をしていたではありませんか。なのになぜ今頃驚いているのですか、貴方は」

「こ、古代魔道具・・・あの噂の、こんな小娘が・・・!?」

「小娘とは失礼ですね。そう仰るならば私も小娘ですが」

「で、殿下を侮辱するつもりは―――――」

「結構です。私の事はどうでも良いので。ですが貴方は自分が行った事を理解されていますか」

「―――――え?」


 青年は何を言われたのか解らない、という表情で王女様を見つめている。

 その様子に王女様は大きな溜息を吐き、周囲に視線を向けた。


「ここには騎士達が居て、貴方達の手合わせを見届けていました。彼らは騎士です。多少の攻撃では大きな問題にはならないでしょう。ですが貴方の攻撃は魔道具の一撃。それを周囲の被害を一切考えずに放って、どうなるかを考えなかったのですか」

「・・・あ」


 王女様にそう言われて、初めて青年はさっき騎士さんが危なかった事に気が付いたらしい。


「彼女が手を出して下さらなければ、どんな被害があったか。ご理解されましたか?」

「い、いや、ですが・・・わ、私は・・・!」

「確かに貴方のご想像通り、王家は力を求めていました。貴方はその力を持っているのかもしれません。ですがその力を振るうべき相手は誰でしょう。貴方の憎き恋敵ですか。何の罪もない平民ですか。貴方が関心の無い我が国の騎士ですか。どれも違うでしょう」

「っ・・・!」


 王女様は尚も重ねて青年に語り、青年は悲痛な表情で王女様を見つめている。

 何かを言い返したいけれど、何も返せないというようにも見えた。


「貴方が持っている物は『力』のみです。ただそれだけです。ならば同じかそれ以上の力を持つ者が現れてしまえば、貴方が王家の出した条件から外れるのは自明の理。味方を味方と思わず、巻き添えにしても気にしないような『力』など、最終的には邪魔になりかねない」

「ま、巻き添えになぞ、今回は頭に血が上って――――」

「ならば他の場面でも同じく周囲を巻き添えにしたでしょう。頭に血が上ったという理由で」

「―――――そんな。殿下、お待ちください、私は、私は・・・!」

「父が貴方を婚約者に選んだのは、魔道具を持つ貴族の中では突出していたからです。貴方という人間に問題があったとしても、力の強さは悪くないと判断した。ただそれだけの理由です。ですが私は貴方よりも有用で素晴らしい人を見つけた。それが彼です。ガン様です」


 王女様がガンさんの名を呼ぶと、青年は彼に目を向けて悔し気に睨んだ。

 ガンさんは困った様な顔だけれど、王女様は気にせず続ける。


「彼は古代魔道具使いと親しく、そしてご本人の力量は今見たとおりです。貴方は彼を侮った様ですが、実戦ならば貴方はとうに死んでいます。この時点で既に貴方の価値は無い。少なくとも彼は、他者を巻き添えにしても良しと思う様な人ではありません」

「――――――」


 青年は息をのむ様子を見せ、けれどその目に怪しい光が見える。ガンさんを見る目が危ない。

 そして彼はその目を伏せると、ぼそりと低い声で呟いた。


「・・・では、この男を殺せれば、私の価値は戻るという事ですね」

「―――――っ、本当に、理屈の通じない男ですね。そこが問題だと言っているのに!」

「安心して下さい王女殿下。ええ、私の本気はこんな物ではありませんから・・・!」

「何をするつもりですか! 馬鹿な真似はおよしなさい!!」


 青年の持つ魔道具が強く、とても強く光っている。凄まじい力が溢れている。

 あれは危険だ。さっきまでとはまるで違う。それに、なんか、変だ。

 凄く強くて危ない力を感じるのに、けれど何だか弱弱しくも感じる。


『・・・このままでは死ぬぞ、あの男』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る