閑話、幼馴染の想い

 地面が爆ぜ、ガンの姿が掻き消え、青い光が煌めく。

 それに合わせる様に紅い光が迸り轟音が響いた。

 力と力をぶつけ合う音が、振動と共にビリビリと私達の体を叩く。


 ガンは緩急をつけているからか、足を止めては姿がぶれるのを繰り返す。

 グロリアちゃんもそれに合わせているのか、似た様な感じで目で捉えきれない。

 私の様な戦闘能力の低い人間じゃ、二人の動きを目で追う事すら難しい。


 一応何やってるのかは、索敵の要領で解りはするんだけどね。

 けど解るのと、ちゃんと見えるのかと、対処できるかは全て別だ。

 これが本物の魔道具使い同士の戦闘なんだろうな。兵士達も驚いた顔してるし。


 青い光がグロリアちゃんを切り裂いた様に見えて、既に彼女はそこに居ない。

 紅い光にガンが打ち抜かれた様に見えて、アイツも既にそこには居ない。

 そして時折力をぶつけ合ったのか、大きな衝撃音と共に光が弾ける。

 目で見て解る情報はその程度だ。


「・・・むかつくなぁ」


 ただそんな凄い戦闘を目の当たりにして、胸に浮かぶのは小さな苛立ち。

 始まるまではそんな事はなかったけど、目の当たりにすると少々腹が立つ。

 当然怒りを向けているのはグロリアちゃんではなく、その相手をしているガンに対してだ。


「リーディッドも少し腹が立たない?」

「いいえ。私は全く」

「えー、嘘だー」

「嘘なんかついていませんよ」


 しれっと答える友人にジト目を送るも、その表情に変化は無い。

 どんなにすました顔をしていたって、胸の内は私と大して変わらないだろうに。


「誰が何て言っても考えが変わらなかった奴がさ、最近出会った小さな女の子の影響で考え方を変えるとか、ほーんと今までの私達の気遣いは何だったんだって思わない?」

「別に良いんじゃないですか。これでガンがもっと使える様になれば万々歳ですし」

「元々使えるとは思ってたんだ。ふーん。ほーん。へー」

「・・・上げ足を取るのは失礼じゃないですか、キャス」


 ニマニマ笑いながら訊ねる私に、リーディッドは睨み顔で返して来た。

 この状況で睨まれたって、これっぽっちも怖くない。

 むしろ照れ隠しだとバレバレ過ぎて笑ってしまう。


「・・・別にガンに変わらないで欲しいと思ってた訳でもないし、こうなった事が悪いとも思わないし、むしろ良い事だと思ってるんだけどさ。やっぱりちょっと悔しいよね。友達だからさ」

「別に私やキャスが悪い訳ではないでしょう。あの馬鹿が拘っていただけですし」

「そりゃーそーだけどさー」


 うだーっとリーディッドの背中にしなだれかかり、彼女の首に腕を回して抱き付く。

 彼女はうっとおしそうな視線を一瞬向けて、けれど振り払う気は無い様だ。

 それに甘えて彼女の肩に顎を乗せ、小声でぼそりと呟いた。


「私達が怪我したせいじゃん。アイツがああなったのって」

「知りませんよそんな事。私はどうとも思っていませんし」

「嘘つき」

「正直者ですよ」


 どうあっても本当の事を言う気は無いらしい。リーディッドらしいと言えばらしいか。

 まあそれでも良いだろう。だって口を出す必要は無さそうなのだし。

 むしろ切っ掛けになった理由が理由だ。それはきっとガンにとって良い事だろう。


「グロリアちゃん、良い子だよねー」

「ええ。優しい子です。そして、聡い子です」

「自分がどう振舞うべきか、ってずっと様子見てるもんね」

「愛されなかった子供が、依存先に捨てられない為にやる行動ですね」

「・・・でも多分、無意識だよね、あの子は。求められる為に必死なのって」

「・・・でしょうね」


 グロリアちゃんは世間知らずではあっても、頭は悪くないし周りをちゃんと見ている。

 そして周りに求められる行動をしようと、捨てられない様に気を付けている。

 ガンがそんな彼女を痛々しく思っていたのは解っていた。


 魔道具使いとして、最早目立つ事は避けられず、今後も何かしらに巻き込まれる立場。

 その状況を甘んじているあの子を見て、アイツが何を思ったのかは解らない。

 ただ解る事は、アイツは『魔道具使い』になる事を決めたらしい。


 それはきっとあの子の為だ。グロリアちゃんの為だ。あの子を、助ける為だ。


「訓練終わったらロリコンって揶揄ってやろうぜ!」

「王女殿下からの求婚も断っていませんし、そうするとしますか」

「お、何々リーディッド、嫉妬?」

「嫉妬しているのはキャスでしょう」

「私が? 別に王女様の事は特に何とも思ってないけど」

「グロリアさんにですよ。だから腹が立つんでしょう、貴女」


 そう言われて反論は出来なかった。事実そうだなと思ってしまって。

 あんなに必死な女の子に嫉妬とか、良い歳した女のやる事じゃないよね。


「リーディッドも嫉妬してたんだ。だから何でもないですーって顔してたんでしょ」

「・・・何でそうなるのか解りませんね」


 不機嫌そうな顔で返した時点で、肯定してるのと同じなんだけどなぁ。

 ったく、女三人振り回して、ガンは本当に酷い男だねー。


「がんばれよー、ガン」

「・・・勝手に頑張るでしょう、アイツなら」

「あははっ、そうだね」


 良く解ってんじゃん。全部どうでも良い、って言葉に説得力が無いよ?

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