第90話、日常+α
「ふあ・・・んむ」
ベッドから体を起こして小さな欠伸を漏らし、眠気眼で周りを見る。
見覚えのあるベッドだ。見覚えのある部屋だ。
ああそうだ、昨日帰って来たんだった。ここや屋敷の部屋だ。
『おはようグロリア』
「おはよう、ござい、ます」
ガライドは私が起きた事に気が付き、窓際からすいーっと浮いて近付いて来る。
そういえば彼は何時も窓際に居る気がする。外を見ているのかな。
首を傾げながらガライドを捕まえると、コンコンとノックの音が響く。
「グロリアお嬢様、失礼致します」
そう言ってリズさんが部屋に入って来て、私に目を向けて一瞬だけ固まった。
けれどすぐにニコリと笑い、小さく腰を折って私の着替えを取り出す。
「おはようございます、グロリアお嬢様」
「おはよう、ござい、ます」
『取り繕ったが、起こしたかったのだろうな、今のは』
リズさんは私の世話を焼きたがるから、多分ガライドの言う事は本当だろう。
私も彼女がしたいならと、わざと寝ている事も多い。
でも城に居る間はリーディッドさんと一緒だったから、そういうの忘れてた。
なので着替えはされるがままになり、何時ものドレスを身に纏う。
うん、やっぱりこれが良いな。あの弱い服は不安だ。
汚したり破いたら怒られる服は出来れば着たくない。
着ると喜ぶガライドやリズさんには申し訳ないけど、私はそう思ってしまう。
「朝食なのですが、王女殿下がご同席を望まれているようです。どうされますか?」
「良い、です、よ?」
むしろ一緒に食べる事の何が駄目なんだろう。そう思い首を傾げてしまう。
ただ返事をしてから少しして、マナーの事を思い出した。
偉い人とと一緒に食べる時は、気を付けないといけないんだったと。
「解りました。では、そうお伝え致します。少々お待ちください」
けれど気が付いた時は既に遅く、リズさんは外に出て行ってしまった。
そして外で誰かに指示をしたらしく、直ぐに戻って来る。
これはもう諦めるしかない。自分が良いって言ったんだから仕方ない。
「では、参りましょうか、グロリアお嬢様」
「はい・・・」
『グロリア、余り気にするな。王女殿下は君に会いに来たんだ。ならば多少の失礼に目くじらを立てんさ。何時も通り美味しく料理を食べれば良い。でないと料理長に失礼だろう?』
「そう、ですね、わかり、ました」
そうだ。美味しい料理を美味しく食べる事の方が大事だ。
ガライドの言葉を信じて食べよう。私もちゃんと食べたい。
そう思いながら食堂に着くと、王女様は既に席に着いていた。
リーディッドさんは居ない様だ。まだ寝てる訳じゃないとは思うけど。
「おはようございます、グロリア様」
「おはよう、ござい、ます。王女様」
席を立って綺麗な礼をしてくれる彼女に、私も出来る限り同じ様に返す。
出来てるかな。未だにこういう『礼儀』的なものは自信が無い。
不安になりながら彼女を見ていると、にこりと笑顔を向けてくれた。
「この度は朝食に同席させて頂き感謝いたします」
「え、えと、はい、どういたし、まして?」
お礼を言われる程かなと思い、思わず首を傾げてしまう。
「ふふっ、そんなに緊張なさらないで下さいな。私の事を良く知って貰う為に、貴女の事を良く知る為に、出来るだけ貴女の傍に・・・と言ってしまうと余計に緊張してしまうでしょうか」
そういえば王女様は私を『見定める』為に此処に来たって言ってたっけ。
私の何を見るのか解らないけど、その為には出来るだけ一緒に居なきゃいけないのかな。
という事は彼女にとってはこれはお仕事で、仕事をさせて貰うからお礼を言ったのか。
「緊張は、ない、です。見るのも、別に、かまいま、せん」
「ありがとうございます。そう言って頂けると本当に心から助かります」
王女様はホッとした様に応え、嬉しそうな笑顔に私も少し嬉しくなる。
「グロリアお嬢様、そろそろ食事が運ばれてくるようです。お席に付きましょう」
「あ、はい、わかり、ました」
「王女殿下もどうぞ。我が家の食事が口に合えば良いのですが」
「他の家で食べる機会などほぼありませんので楽しみですわ」
リズさんに促されて私も王女様も席に付き、直ぐに料理が運ばれてくる。
暖かい料理が私の前に並べられていき、王女様にも同じ物が少量並べられる。
あの量で足りるんだろうか。王女様も私と同じで普通の食事は少しでも満足してしまうのかな。
「姫様、毒見を」
「要らないわ」
姫様? 王女様兵士さんには姫様って呼ばれてるんだ。
「ですが・・・」
「ここで毒を盛る様であれば、それまでの者だったという事です。私もこの家も」
「・・・解りました」
『それはそうか。王族が普通出された料理をそのまま口に付けるなどせんわな。というか貴族も普通はしないだろう。この家の住人が貴族としては少々異端なのだろうな』
彼女は傍にいる兵士さんを手で制し、兵士さんは少し不服そうに下がった。
毒見か。王族の人って毒が入ってるか気にしないといけないのか。
そういえば城でもリーディッドさんがそんな事を言ってた気がする。
「大丈夫、です。この屋敷の、料理は、美味しい、ですから」
こんなに美味しい料理を毎日食べさせてくれる人が、毒なんて入れる訳がない。
「え、あ、は、はい・・・」
『そういう事ではないだが・・・まあこれは言っても仕方がない事か』
王女様は納得してくれたけど、ガライドの意見は違うらしい。
けれど彼は今は食べないし、その話はあとにしておこう。
だって折角温かい食事なのに、冷めてしまったら持ったいない。
「いた、だき、ます」
そう思い久しぶりの料理を口にする。やっぱり相変わらず美味しい。
口の端が自然に上がる。目が細まるを自覚する。幸せな気持ちで胸がいっぱいになる。
「・・・見ているだけでお腹が膨れそうなぐらい幸せそうな顔ね」
『王女殿下と意見が会うのは少々複雑だが、全くその通りだな』
二人は食べる私にそんな事を言うけれど、実際幸せなのだから仕方ない。
こんなに美味しい物を食べられる事が幸せじゃないなら何なんだろう。
何て思いながら食べて行く。ガツガツ食べはしない。ちゃんと味わって咀嚼する。
「では私も・・・これは、美味ですわね。温かい食事というのも一つの要因なのでしょうけど、それでもこれは・・・城の料理人に勝るとも劣らない腕ですわ」
『そんなに腕の良い料理人だったのか、この屋敷の料理人は。流石に食べられない私には解らんのが残念だ。グロリアは何でも幸せそうに食べるから余計に解らん』
言われてみると、ガライドはこの幸せが解らないのか。
ちょっと残念だなと思ってしまう。彼にはこの幸せを知って欲しい。
何時か一緒に食べられないかな。無理なのかな。
「・・・所で、先程から運ばれる料理が止まる気配がないのですが・・・その、まさかとは思いますが、これを全部食べられるのでしょうか・・・」
「もぐもぐ・・・んく、はい、食べます、よ」
「・・・そうですの」
私が食べている間も料理は運び込まれ、けれど私が食べるより早くはない。
暖かい内に食べられる様にと、私の食べ加減に合わせて持って来てくれてるらしい。
最初の内はそうじゃなかったんだけど、何時からかこうなっている。
私は美味しいから凄く嬉しい。けど手間じゃないのかちょっと不安になる。
そう思い一度料理人さんや使用人さん達に訊ねたけれど、気にするなの一言終わらされた。
むしろその際飴を口に入れられ、その甘さに頭が溶けて気が付いたら外に居た。
「ごちそう、さま、でした。美味しかった、です」
「・・・嘘でしょう。あの量が、どうやったらあの体に収まるんですの・・・」
『まあ初めてグロリアの食事を見ればそう思うだろうな。いや、初めてでなくとも思うか』
食事を食べ終わったら、王女様と兵士さん達が凄く驚いた顔で私を見ていた。
私がいっぱい食べると大体最初は皆あんな感じなので、最近ちょっと慣れて来た気がする。
それでも王女様は食べる量が少なすぎると思う。そんな量で大丈夫なのかな?
『さて王女殿下よ、この程度まだ序の口だが、何処まで着いて来られるのか』
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