第91話、客観
「えと、その、今日は、お昼まで、庭で、訓練を、する予定、です」
「それは・・・私共が見ても宜しいので?」
今日の予定を聞かれたので伝えると、何故かそんな事を聞かれた。
「駄目なん、ですか?」
「・・・聞き返されても困ってしまうのですが」
なので首を傾げて問い返すと、彼女は言葉通り少し困った様子を見せた。
それは私も同じ事で、困った視線をガライドに向ける。
『王女にしてみれば、グロリアの力は隠すべきもの、と思っているのだろう。少なくとも当たり前に見せて貰えるとは思ってなかったに違いない。気にするなと答えておけば良い』
「気にしないで、良い、ですよ」
「・・・解りました。では邪魔をしない様気を付けて、見学させて頂きますね」
何で隠す必要が有るのか解らないけど、兵士さんを待たせているので移動が先だ。
ガライドの指示通りに答えたら、彼女達と一緒に庭へと向かう。
庭には既に兵士さんが待っていたので、少しだけ駆け足でトテトテと近付く。
「すみません。遅く、なりました」
「いえいえ。私が早くに来ているだけなので、遅くはありませんよ。むしろ私が貴女との鍛錬を待ちわびて、部下の鍛錬を自主練にさせました。公私混同なので内緒ですよ?」
「わ、わかり、ました・・・!」
ニコッと笑って告げる兵士さんに、気合を入れて応える。
絶対誰にも言わない。あ、でも、リーディッドさんに聞かれたらどうしよう。
いや、それでも内緒だ。うん。ちゃんと内緒。私言わない。
「・・・生涯現役で骨を埋めるつもりだったんですけどね。グロリア様を見ていると引退して子供も良いなと思ってしまいます。本当に素直で可愛い子ですよね、貴女は」
「ふぇ?」
「何でもありませんよ。では訓練を・・・と、その前に少し待っていて下さいね」
「えと、はい」
頭を撫でてから私を通り過ぎる兵士さんは、王女様の前に行くと膝を突いた。
「おはようございます王女殿下。ご挨拶が遅れた事をお詫び致します」
「構いません。お邪魔をさせて頂いているのはこちらですから。お立ち下さい」
「ありがとうございます。では、あちらに椅子を用意しておりますので、どうぞ」
「お気遣い感謝いたしますわ」
『ふむ、見学をするのは最初から解っていた、という対応だな。まあ当然か』
兵士さんが手をかざした先には、パラソル付きの椅子が用意されている。
使用人の人達が飲み物も用意しているし、ガライドの言う通りなんだろう。
じゃあ何でリズさんはさっき応えなかったのかな。不思議に思いチラッと視線を向ける。
「グロリアお嬢様の意志が最優先ですので」
私の視線の意味を読み取ったのか、彼女は綺麗な笑顔でそう言った。
という事は、私が駄目って言ったら準備が全部無駄になってたのかな。
危なかった。もしかしたら駄目なのかなってちょっと思ってたから。
「では始めましょうか、グロリア様」
王女様が座ったのを見届けると、兵士さんが私の元へ戻って来る。
すると何時の間にかリズさんがすすっと離れていた。
あの人本当に戦えない人なんだろうか。時々疑問に思う。
「先ずは何時も通りに。ゆっくり速度を上げて行きましょう」
「はい」
兵士さんが積んである薪の一つを手に取り、私に向けて構える。
すると王女様が「何故薪を?」と呟いたのが聞こえた。
次の瞬間薪が私に迫り、それを割らない様に気を付けながら弾く。
当然弾いたからといって止まる訳もなく、そのまま二撃三撃と追加が来た。
その追撃を全て弾いたりはせず、そっと手を添えてからくいッと軌道を変える。
そうすると薪を割る事無くいなせるから、弾くよりも加減がしやすい。
でもそれも毎回は通用しない。同じ事を何回もやると彼も慣れて来る。
手を添えた瞬間に薪を引き、突きに変えられると速くて弾く形でしか対処できない。
躱す事も勿論出来るけど、あくまで攻撃を加減して弾く訓練だから。
「・・・な、何ですか、あの、動き、嘘、でしょう」
私達の訓練を見ている王女様が呟き、周りの兵士さんも驚いた様に口にしている。
この兵士さんが強いのは私も頷く所だけど、もしかして珍しい強さなんだろうか。
何て少し気が逸れたせいだろうか。バキッと音を立てて薪が割れてしまった。
そこで兵士さんは手を止め、ニコッと笑って薪を見つめる。
「軌道を完全に読んだ際の手を添える動きは、最早私が習いたい程です。流石ですね」
「でも、毎回は、できま、せん」
「その返答を部下達に聞かせてやりたいですよ。ふふっ」
『グロリアと同じレベルを求めるのは酷だと思うがな・・・』
そうかな。ここの兵士さん達なら、頑張れば出来そうな気がするけどな。
城に一緒に行った兵士さんは、私の攻撃を数発ぐらいなら対応出来るし。
「貴方達、もし同じ事をしろと言われて出来ますか?」
私達が一合の結果を話していると、王女様が傍の兵士さん達にそう訊ねていた。
「・・・無理です。それにどちらも強過ぎます。団長でも相手になるかどうか」
「アレだけの技量が有れば、王都の騎士団に実力で入る事も出来るでしょう」
「誰も文句言が言えない強さですね。私も、どちらにも勝てる気がしません・・・」
『・・・やはり彼はそれだけの技量の持ち主か。グロリアに指導が出来ている時点で強いのは間違い無かったが、国レベルで見ても強者なのだな』
ええと、つまりこの国で彼より強い人は珍しい、って事なのかな。
でも魔道具使いなら実力差を埋められると思うんだけどな。
実際ガンさんは『光剣』を使えば兵士さんに勝てると思う。
勿論絶対じゃないとは思うけど、それでも勝てる可能性は大きい。
なら他に魔道具使いの人が居れば、彼と同じ様に戦える気がする。
・・・もしかしてこの国って、魔道具使いが少ないのかな?
「つまり、彼女の動きは魔道具の力ではない、という事ですね・・・まさか魔道具ではなく、ご本人の力量がこれ程までに高いとは・・・リーディッド嬢がやめておけという訳です」
あれ、リーディッドさんが止めた理由って、私の魔力回復の事じゃなかったのか。
とはいえ襲われなかったら戦う気は無いし、気にする必要はもう無いと思うんだけど。
だって王女様は私と仲良くなりたいん、だよね? 友好が何とかって言ってたし。
「・・・後で、友達にも、紹介した方が、良いの、かな?」
そうだ、訓練終わったらお土産も持って行かないと。喜んでくれるかな。
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