第66話、公な密会
「これ僕が作ったんだよ!」
「これは私が作ったの。今までで一番うまく出来たの!」
「あ、あの、これ、僕が・・・」
子供達がそれぞれ作った小物を指さし、キラキラした目で告げて来る。
そこに在るのは可愛い刺繍のハンカチや、木を削って作った細工人形。
他にも髪留めや、何に使うのか良く解らないものまで、色々ある。
「あらあら皆さん、自分の作った物を買って欲しいのは解りますが、お客様が困ってしまいますよ。少し落ち着きなさい」
「「「「「はーい!」」」」」
ただあれもこれもと薦めて来る子供達に、優しく注意をする声が通る。
この人は『院長先生』と呼ばれている人で、子供達の面倒を見ているらしい。
「全く、返事だけは良いんですから。すみません、何分ここに来るお客様など珍しいので」
『ふむ。彼女は慕われている様だな。返事だけだとしてもとても素直じゃないか』
私にとってのリーディッドさん、みたいな人なのだろう。
落ち着く様にと言われても騒がしい子供達を、ふふっと笑って見守っている。
「ったく、ガキ共は本当に言う事を聞かねえなぁ。そんなんじゃ折角お客様を連れて来て貰ったのに、なーんにも買って貰えねえぞ?」
ただそんな院長先生とは正反対に、呆れたように言う女性も居る。
彼女も擁護院で子供達の面倒を見ている人だと紹介された。
院長先生の補佐をしていて『ちぃ先生』と呼ばれているみたいだ。
意味は『小さい先生』という事らしい。
ここでの『小さい』は『院長先生より下の先生』という意味だとか。
「もー! なんでちぃ先生はそういう事言うの!」
「そうだよ! ちぃ先生なんか雑巾もちゃんと縫えない癖に!」
「こないだなんか、邪神像みたいな物作って不気味がられてたよね」
「そんなだからちぃ先生はちっちゃいんだよ?」
「背の低さと手先の不器用さは関係ねえだろ!? 何でお前等院長先生の事はちゃんと聞くのに、アタシのいう事はいちいち反論するんだよ!」
『あれも、まあ、きっと慕われているからこその軽口なのだろう。おそらく』
ただ子供達のいう通り、背も小さいので最初はそっちの意味の『小さい』だと思った。
流石に私よりは大きいけれど、リーディッドさん達と比べると小さい。
正直に言ってしまうと、最初は彼女も面倒を見られている子供だと思ったぐらいだ。
「いやでもこれ、中々凄いぞ。子供が作ったにしては出来が良い」
「ホントホント。最初は子供が作る物って聞いては侮ってたけど、これは中々。お店で普通に売ってても気が付かないかも。あ、グロリアちゃんコレ似合いそう。ホラホラ」
『ふむ。手作業が主流の世界と考えれば、これは確かに中々の物だのだろうな』
私には物の良し悪しというものがまだ良く解らない。
けどガンさんとキャスさん、何よりガライドが良いと言うなら間違いはないんだろう。
勿論私の目にも、細かく掘られた小物はとても綺麗な物に見えている。
特に花びらを幾つも繋げた様な髪飾りは、どうやったら作れるのか不思議な程だ。
最近は髪を纏めていたから髪飾りを付けていたけど、それと同じぐらい綺麗だと思う。
「姐さま方へのお土産はこれで良いかもねー。子供達が作ってたって言えば更に喜びそうだし、あの人達の場合は。フランちゃんにはこのトカゲをお送りしよう。ギルマスそっくり」
「うわー、にっこにこしながらトカゲの髪飾り付けてるアイツが目に浮かぶ」
フランさんはトカゲが好きなのか。それは知らなかった。
という事はギルマスさんの事も好きなのかな。トカゲに似てるし。
「グロリアちゃんはどれか良いと思う物ないのー?」
「えっと、これ、とか、これを・・・」
「甲虫類の小物? グロリアちゃんこういうの好きだったの?」
「友達が、良く、捕まえてるから、好きかなって」
「ああ、あの子達か。うん、良いんじゃないかな。ただ女の子にはこういうひらひらした奴の方が好かれると思うけど。ほら、こういう蝶のやつとかどうかな」
「蝶・・・わかり、ました」
キャスさんに助言を貰いながら、子供達へのお土産を決める。
喜んでもらえるかな。喜んでもらえたら嬉しいな。
「ねえねえ、エシャルネ様はこっちに来ないのー?」
「駄目ですよ。エシャルネ様は今大事なお話をしていますからね。邪魔してはいけませんよ」
「はーい・・・」
そこで子供の一人が不満を漏らし、けれど院長先生に注意をされて項垂れる。
エシャルネさんは私達から少し離れた所で、リーディッドさんと会話している。
遠くから見る様子は二人共笑顔で、クスクスと笑いながら穏やかな様子だ。
『エシャルネ様の気持ちは解りました。ですが貴女を古代魔道具使いにするとしても、直ぐに貴女の姉を排除する事は出来ません。少なくともあの家は『揺ぎ無し』という状況でないと』
『勿論姉を殺して欲しい、等とお願いするつもりは有りません。もし突然姉が死ぬような事が有れば、我が家の『古代魔道具使い』の立場が揺るぎます。それでは意味が無い』
『暗殺者も自身で対処してきた方ですから、死ねば色々と憶測が飛び交うでしょうね。一番可能性が高いのは、グロリアさんが手を下した、と思われる事でしょうか』
『我が家よりも上の古代魔道具使いが貴族を殺した。ですがそれが古代魔道具使いである以上、本人には下手に手を出せない。となると、標的になるのは魔獣領』
『その場合面倒なのは王家ですかね。彼女を差し出せ、なんて事を言い出しかねません。彼女の管理をお前達に任せてられない、とか何とか適当に理由を付けて』
『在り得ますね。我が家は国を興した時から在る家らしいので、その辺りの面倒は有りませんでしたが、貴族の地位としては低い魔獣領に対しては言って来る王族も居るでしょう』
『ええ。それがどれだけ危険かも考えずに、ね』
ただその発言内容は、ちょっと物々しい気がする。
誰を殺すとか、排除するとか、魔獣領が標的になるとか。
私がやってない事が私のせいになるのも困る。
王家、王族って人がそんな事をして来るのかな。それは嫌だな。
因みに声は本当なら聞こえないけど、ガライドが『集音』で聞こえる様にしてくれている。
意味の分からない話もあるかも知れないが、君も聞いておくべきだと言われて。
『なのでお姉さま、私に一つ案が有ります。姉を下手に排除せず、穏便に済ます方法が』
『・・・聞きましょう』
『古代魔道具の持ち主になるには、我が家の女系でないといけない。その一点しかどの記録にも書かれておりません。おそらく意図的に細かい記録を残していないのだと思いますが・・・』
『貴女が正式に使い手になる『条件』をでっちあげるんですね』
『はい。その時まで耐えます。私は今まで通り無能を演じ続けましょう』
『・・・本当に宜しいのですか。もし貴女の望む通りに事が運べば、それこそ貴女は仮初の力を抱える滑稽な女として生き続けることになりますよ。表面上は力を得ても、私の傀儡です』
そこで、不意に会話が途切れた、そこまでずっと切れなかった会話が。
無言で二人は見つめ合い、けれどエシャルネさんが穏やかに笑った。
『それで私に民を守る『力』を手にする事が出来るのであれば。それにお姉さまと共に生きられるなら本望です。欺いてはいましたが、お姉さまを慕う気持ちは本物のつもりですから』
『私はそこまで慕われる様な人間ではありませんよ。国も民もどうだっていいです。私が平穏無事に暮らして行けさえすれば、それで良いと思う人間ですよ』
『あら、じゃあお姉さまは何で魔獣領を出て行かず、領地で傭兵なんてされているのかしら。それも魔獣領では唯一の『魔道具使い』と共に、危険な仕事も平気で請け負うなんて』
『・・・はぁ。負けました。今回は私も良い勉強になりましたよ』
『ふふっ、お姉さまから一本取りました!』
良く、解らないけど・・・リーディッドさんが負けたっぽい?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます