第61話、毒殺不可
「護衛で呼ばれたのに、基本別室待機なんだな、俺達」
「だよねー。てっきりずっと一緒に居るんだと思ってた」
暫く泊まる事になる部屋に案内された後、暫く皆でのんびりしていた。
その際にガンさんが少し不思議そうに言い出し、キャスさんもその言葉に同意する。
因みに兵士さんは達は隣の部屋に居る。とは言っても、廊下を出て隣という訳じゃない。
この部屋の唯一の扉の向こうがまた部屋で、その更に向うの扉から廊下に出られる。
どうも兵士さんや使用人さん達は、その間の部屋で過ごす事になるらしい。
私とリーディッドさんは奥の部屋で、そこに二人とリズさんを呼んだ形だ。
だから今部屋の中には私達6人しかいない・・・ガライドも一人で良いよね?
「護衛ならちゃんとしてくれていたじゃありませんか」
「「え?」」
ただリーディッドさんの言葉を聞き、二人共は疑問の顔を向ける。
私も少し不思議に思い、同じ様に疑問で首を傾げた。
「私がここに来る以上、最低限の人員は連れて行かねばなりません。ですがこの場で争いになった時、兵士達は兎も角使用人達の命を守るのは難しい。けどガンが居れば大分違うでしょう」
「・・・まさかお前、お前の護衛為じゃなくて、使用人の護衛で雇ったのか?」
「あ、もしかしてガンだけじゃなく私も一緒に雇ったのって・・・」
「ご想像の通りです。キャスが一緒なら、私が傍に居なくても何とかなるでしょう? 勿論勝算があるからこそ来た訳ですが、世の中絶対は有りませんからね」
「お前、そういう事はちゃんと先に言えよ・・・」
「もー、なんでリーディッドはそうかなー」
『ふむ、リーディッドの傍にはグロリアが居る。ならばガンを部下達にか。実際話が問題無く纏まったから無事だが、損得より感情を優先させる人間であれば争う可能性もあったな』
争う可能性。この城の兵士さん達と戦う可能性があった、という事だろうか。
その場合戦えない使用人さん達は、間違い無く身の危険がある。
やっぱり優しいな、リーディッドさんは。皆が傷つかない様に考えてくれえている。
「でもさー、この後毒殺、とかの可能性も有るんじゃないの?」
「その場合グロリアさんの能力がネックになりますね」
「グロリアちゃんの?」
「グロリアさんが『ただひたすらに強い古代魔道具使い』なら、毒殺の可能性もあったでしょう。ですが彼女は『回復魔法』の使い手。毒を盛った所で回復されたら無意味です」
「あ、回復魔法って毒にも効くんだ・・・」
「『魔法使いの回復魔法』は駄目な場合が多いですが『古代魔道具の回復魔法』は毒にも効く事例が数多くあります。グロリアさんはまだ試していませんが、出来る可能性は高いでしょう」
リーディッドさんの説明を聞き、ほへーっと声を上げるキャスさん。
私は「そうなの?」と思い、ガライドへ視線を向ける。
『毒素の分解はやろうと思えば出来るが・・・ただ元々グロリアに毒物は効かないぞ。余程特殊な物でない限り。いや、正確には効くが、暫くすれば自力で解毒してしまう。私を持っている持っていないは関係無くな。アレは私の力を使っていない』
「え、そう、なん、ですか?」
『森で魔獣を食べている際に、何度かその事で質問をしたのだが・・・覚えていないか?』
ええと、森で歩いていた頃というと・・・数が多過ぎて思い出せない。
あの頃のガライドは、暇さえあれば私に色々聞いていたし。
私も良く喋るガライドの事を、ぽけーっと見ている事が多かったから。
『その様子では覚えていないな。ある日グロリアが魔獣を食べ、グロリアの体から毒素の反応を検知した。だが反応は一瞬で消え、その時は故障を疑い自己メンテを行った。だがおかしな所は無く、暫くしてまた似た様な事が有った。その時気になって君に訊ねた事が有る』
毒、毒素・・・そういえば、何度かそんな話が、あった、様な?
『私はその時グロリアに『食べる際に何かおかしな事は無いか』と聞いたんだ。すると君は『少し舌が痺れる』と答え、確かに毒の効果はあった。だがそれは君の発言通り『痺れた』だけ。おそらく常人であれば、そのまま全身麻痺する毒でな』
「・・・そう、いえば、くらっと、したのも、むせたのも、あった、様な?」
『ああ、その時も訊ねたな。おそらく君でなければ昏睡していたか、肺が完全に駄目になっていた毒を食べていた。だが君はその毒素を上回る回復力で無効化していた』
確かにその時色々説明された様な気がする。
途中から全く解らない話になって、ぽけっとしながらお肉食べてた。
街に住み始めた後なら聞いてたと思うけど、あの頃の私は指示以外余り興味が無かったから。
『森での経験から、おそらくグロリアには相当特殊な毒以外は効かない、と判断した。そもそも魔獣の攻撃で毒が掠った時も治っていたしな。君は空腹でなければ毒に対する問題はほぼ無い』
つまり、何時もお腹いっぱいなら良い、って事かな。それは解り易い。
あ、でもそれじゃ暫くは警戒しておかないと。道中余り食べられていない。
毎日美味しい食事を貰ってるから解り難いけど、今日は少しお腹が減ってる気がするし。
どこかで魔獣を食べられないかな。後で少し外に出て捜したいな。
『ただ誤解されると嫌だから告げておくが、私はグロリアが噛みつく前に毒の反応に気が付いていたからな? 毒が有るから食べない方が良いと思うぞ、と言ったのに噛みついて食べたのは君だからな? なのに平然としているから驚いて、自分の故障を疑ったんだからな?』
「は、はい、ご、ごめん、なさい・・・」
『・・・いや、今のは大人気なかった。謝らせる気は無かったんだ。すまない』
「が、ガライドは、悪くない、です」
ガライドの勢いに怯みながら謝ると、何故か逆に謝られてしまった。
そして落ち込む様な声音だったから、慌てて同じ様に返す。
だって私はその事自体忘れていた訳で、ガライドはちゃんと注意してくれてたんだから。
「なになにー、グロリアちゃん、ガライドちゃんと喧嘩でもしちゃったの?」
オロオロしていると、キャスさんが後ろから抱き付いて来た。
私の様子がおかしいと思って、声をかけてくれたらしい。
「喧嘩は、してない、です。悪いのは、私、なので」
「ほむ? 聞いて良い事?」
良い事なのかな? と思いガライドに目を向けると『構わん』と返事を貰った。
なのでさっきまで話していた事を説明すると、皆驚いた顔を見せる。
「え、つまりグロリアって、魔道具無しで回復使えるって事か?」
「いえ、この場合は回復というよりも、グロリアさん本人の体質ではないでしょうか」
「どっちにしろ凄いけどねー。そっか、グロリアちゃん毒が効かないんだー。それは安心」
皆に感心する様に言われ、キャスさんは凄い凄いと言いながら頬ずりをして来る。
そして何故かリズさんが誇らしげに笑っていて、リーディッドさんは呆れた顔をしていた。
という所でノックの音が部屋に響き、食事の誘いが来たと兵士さんから告げられる。
リーディッドさんが「今行きます」と応えて私に手を伸ばし、手を繋いで部屋を出た。
私達の後ろにはリズさんと兵士さんが一人付いて来ている。
他の人達とガンさん達は部屋で待機らしい。
あんまり城の中でぞろぞろ兵士を連れてると、失礼とかなんとか?
「あら、お姉さま、お帰りだったのですか」
「自分の家に帰ってきただけなのに、何か悪い様な言い方ね」
「私の気分が悪くなりますので」
「姉に向かって何て事を言うのかしら。幾ら数少ない女系の一人とはいえ、私と貴方では立場が違う事すら解らない無能なのね。相変らず残念な子ね」
「・・・貴女こそ、古代魔道具が無ければ何も無い無能な癖に」
「はっ、負け犬の遠吠えは心地良いわ」
・・・何か通路の向こうで、古代魔道具の使い手の女性と小さな女の子が言い合ってる。
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