第54話、制限
「もぐもぐ・・・んっく・・・はふぅ。お腹、膨れ、ました」
『今日は随分食べたな』
「・・・ちょっと、大目に、食べ、ました」
ガライドの言う通り、今日は普段より多く食べていた。
少し前からお腹が膨れた感じだったけれど、まだもう少しと。
だってこの後あの女性に会わないといけない。戦う事になるかもしれない。
次は途中で倒れるなんて事がない様に、いっぱい食べておいた方が良いと思って。
早く帰った方が良いとも考えたけど、魔力が足りないと戦えもしないし。
『グロリアの懸念は解るが・・・まあ、論より証拠だ。屋敷に戻るとしよう。ああ、折角だし素材の類は何時も通りギルドに届けるか。この辺りを持って帰ろう』
「はい、わかり、ました」
何時もの様に骨や皮を纏めて抱え、森の外へと走る。
そしてギルドに届けて、お姉さん達に揉みくちゃにされてから領主館へ帰った。
・・・皆、無事でよかった。倒れたけど、やっぱりあの時の力は必要な物だ。
「お帰りなさいませ、グロリアお嬢様」
「た、ただいま、帰り、ました」
屋敷の入り口でリズさんが待っていて、やっぱり緊張しながら応える。
だって今日のリズさんは、何時も以上に固い気配がするから・・・。
「お嬢様がお帰りになったら、すぐに身だしなみを整えて連れて来る様にと、旦那さまから命を受けております。お嬢様、こちらに。湯の用意が出来ておりますので」
「え、は、はい・・・」
彼女の言う通り付いて行き、お風呂で全身を洗われた。
髪も丁寧に梳いて着替えさせられ、どこかの部屋に連れていかれる。
その間もずっとリズさんの様子は固くて、私はずっと緊張しっぱなしだった。
「旦那様。グロリアお嬢様をお連れしました」
「入れ」
中から領主さんの声がして、その言葉通りにリズさんは扉を開く。
そして私を中に促し・・・奥に居る人物に気が付いて私は足を止めた。
女性が、あの時の女性が座っている。それも一切の拘束無く。
「グロリアさん、お入り下さい」
「っ、は、はい、ごめんなさい、リーディッドさん」
「お気になさらず。お呼びしたのはこちらですので」
リーディッドさんに注意されて中に入り、扉がバタンと絞められた。
ただリズさんは入って来てない事に、ちょっとだけホッとしてしまう。
部屋の中には女性とリーディッドさん、後は領主さんと数人の兵士さん達が居る。
「初めまして。えーと、グロリアさん?」
「・・・?」
初めまして、と女性は言った。そんなはずは無いのに。
だって彼女とは戦ったのだから、初めましてなはずがない。
まさかそっくりな別人なんだろうか。
良く見ると戦った時とは違って、綺麗なドレスを纏っている。
でも声は同じだし・・・一体どういう事だろう。
「それで、私はこれで帰していただけるのかしら。そちらのお嬢さんが来るまで待って欲しい、という話だったのでしょう。それともまさか、今から私を殺そうとでも言うの?」
私が来るまで待っていた・・・もしかして私が出てからずっと待ってたんだろうか。
てっきり戻って来てから女性に会いに行くんだと思ってた。早く戻るべきだったかな。
あれ、じゃあやっぱりこの人はあの時の女性、だよね。似てる人じゃない、よね?
困惑しながら首を傾げていると、領主さんが笑顔で口を開く。
「そんな事はしませんよ」
「では早く車を出して下さらないかしら。何時までも私を拘束するなんて、色々と不都合が有ると思うけれど。それとも国王に私が暴れたので拘束した、なんて書簡を送りでもしたのかしら」
「そんな書簡を送った所で、握り潰されるのが落ちでしょう。むしろ早く解放しろ、等という指示か帰って来かねない。まあ、多少の口止め料は貰えるかもしれませんがね」
「流石領主様。良く解ってらっしゃる」
女性の言葉に領主さんは笑顔で応えてるけど、その雰囲気は表情と合ってない。
むしろ怒っている雰囲気がある。笑顔なのに何だか怖い。凄く居心地が悪い
「私を殺さなかったのは正解ね。もし殺していたら、それが現実になっていたでしょうし」
『・・・気に食わない女だと思っていたが、改めて心底気に食わない女だな』
女性が楽しそうに語ると、ガライドが言葉通りの声音で呟いた。
そして私はというと・・・話が分からなくて困っている。
やっぱりこの女性はあの時の女性で、なのに何故彼女は笑顔なのだろう。
この人は沢山の人を殺す所だった。謝るなら解るけど、何でこんなに強気なんだろう。
彼女の態度が理解出来なくて、私は全く反応出来ずにいた。
「別にあそこで貴女を殺しても問題は有りませんよ。殺さない方が都合が良かった、というだけの話です。貴方の様な馬鹿女をただ殺すよりも利用しよう。ただそれだけの事ですよ」
ただそこで、そんな私の困惑すら止める程に冷たい声が響く。
リーディッドさんが女性を睨み据え、少し怖いぐらいに殺気を放っている。
「ああっ!? 誰が馬鹿女だ!? 田舎貴族風情がよぉ!」
「貴女ですよ。自分がどういう立場かも解らない馬鹿女に馬鹿女と言って何が悪いのです」
「っ、てめえ・・・潰される覚悟は出来てんだろうな・・・!」
「ありきたりですね。今時その辺のチンピラの方が少しは語彙がありますよ」
「こ、の・・・!」
リーディッドさんが人に悪口を言っている所は見かけない訳じゃない。
むしろガンさんには良く言ってるし、子供達にも言っている事が有る。
でもその様子は何時も何処か優しくて、怖いと思った事なんて無い。
けれど今日は違う。刺々しい言葉通りの殺意を感じる。
「グロリアさん、彼女に魔道具を持たせてよろしいですか? 馬鹿女には口で説明するよりも、現実を突きつけた方が効果的だと思いますので」
「っ、そ――――――」
『グロリア。問題無い。奴に魔道具を持たせて良いと答えてくれ』
そんな危ない事は出来ないと、否定を口にしようとした。
けれどその途中でガライドに肯定され、どうしたら良いのか解らくなる。
ガライドはいつも正しい。何時だってよく考えてくれる。だけど、これは・・・。
『不安なのは解る。だが大丈夫だ。奴はもう、あの魔道具を自由に使えない』
「・・・わかり、ました」
まだ不安は有るけれど、ガライドの声音はとても優しい。
きっと本当に問題は無いんだろう。そう納得して頷くしかなかった。
「では、魔道具を彼女に」
「はっ!」
リーディッドさんが指示を出すと、部屋の端にずっと立っていた兵士さんが動いた。
彼が持っていた長四角の物が、慎重に彼女の前に降ろされた。アレは何なんだろう。
首を傾げながらその様子を見ていると、女性はその四角い物に手を伸ばす。
「何を考えてるのかしらね・・・まあ良いか。起動しろ」
『システム起動』
そして戦ってる時に聞いた声が響き、四角があの時の魔道具と同じ形に変わった。
反射的に構えを取ってしまい、女性はそんな私にニヤリと口の端を上げる。
「なーにがしたかったのかしら。まあ私はこれさえ返って来たなら、もうここには用は無い。とっとと帰らして貰う事にするよ。けどそこの女。お前は後で絶対に潰してやる」
「やれるものならどうぞ」
「上等だ・・・女に生まれた事を後悔させてやるよ・・・!」
女性は魔道具の筒を壁に向け、少量の魔力が筒に集まるのを感じる。
前に闘った時程の危険な気配は無い。多少は危ないと感じるけど怖くは無い。
けど何時でも飛び出せる様に、足に力を入れる。この距離なら間に合う。
「じゃあなっ!」
そして彼女はそう叫んで――――――――魔道具から光が消えた。
「・・・は? ちょ、ちょっと待て、どういう事だ! 何で撃たねぇ!」
『使用制限有リ。上位端末ヘ許可申請無キ攻撃機能使用ハ自己防衛以外デ許可サレナイ』
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