第29話
「……意味のわからないことを。でも、自信はあるみたいね。いいわ、ちょっとはマジになってあげる」
さて、俺もひさびさに気合をいれなくてはな。
「やる前にひとつ言っておく」
と、約束をとりつけておく。
「今、王都を狙っているある勢力がいる。お前にはそれに対抗するためのメンバーに加わってほしい」
「いいわよ。そもそも気に入らない奴はかたっぱしからぶちのめす予定だしね。……もちろん……あんたも!」
さっそくアエリシアは炎と雷魔法の同時発動をしかけてくる。魔力反応によって不規則に弾きあう火と電気が彼女を中心にふくらんでいき、やがてはひとつの爆発のようにとめどなく俺に襲い掛かってくる。
「……炎浄闇剣(えんじょうあんけん)」
俺が空に手をかざすと、そこに一振りの長剣が出現する。
迫りくる魔法を払えば、剣閃は風でも撫でるかのように容易にそれを消滅させた。
剣の刃には闇のような、黒い煙が渦巻いている。魔法を打ち消す効果のある煙、そして敵を切り裂く闇の炎ふたつの性質をあわせもっている。異なる属性がこの剣にはこめられている。さっきの融合魔法は、なにもアエリシアの専売特許ではない。
訓練場がふるえるほど激しく赤と黄色の魔法が部屋をおおいつくしたが、そのどれひとつも俺には傷を与えていない。黒い煙が俺の周囲を防御し、敵の魔法が接近するたびにそれを消している。
荒れ狂う魔法の嵐のなか、剣を肩でかつぐように置いて悠然と立つ俺の姿を見て、アエリシアの顔がひきつり、やがては混乱に変わっていく。
「ウソ……なんで……ありえない……こんなの……」
まるで新種の生物を見るかのような反応だな。
だが世の中というのは、往々にしてときにありえないはずのことは起こるのだ。
「そう、ありえないほど劣悪な労働環境でもまれつづけて得た力だからな。……まあそれはいい」
アエリシアのほうに向かいながら、説明をはじめる。
「お前の才能を見込んで、教えてやる。俺には魔法を吸収する体質の友人がいる。そいつの力と体の一部がこの剣にこめられ作られている。ゆえに、俺がこの剣を持っているかぎり、あらゆる魔法は相殺される」
俺は剣をかまえ、アエリシアの小さく細い首元に矛先を向けた。
「俺の炎浄闇剣は、炎でさえ焼き焦がす」
彼女は顔面蒼白になりながらも、杖をかまえたが、それにまとった炎も一瞬で俺の剣の効果により消えてしまう。
力なくその場にへたりこみ、俺から視線をはずして彼女はうつむたい。
戦意喪失したか。
「これはお前のコケにした錬金術で、三年かけてつくったものだ。魔法に頼りすぎたな」
勝負はついた。俺はアエリシアの横を通り過ぎ、惰眠をむさぼるために裏庭の方へとつづく扉に向かう。
「約束通り、しばらくこいつの訓練につきあってやってほしい。もし協力してくれるなら、俺がお前を強くさせてやる」
去り際、そう言っておいた。
「あいつ……強すぎる……なんなの!?」
カレンがいぶかしげに言っていた。
潮時か。あまりに目立ちすぎた。
もう学院の生徒である必要もあまりない。そうだな、あと一か月。それでアエリシアたちと鍛え上げ、俺はいさぎよく引退するとしよう。
「……せない……」
アエリシアがなにか言ったのを聞いて、俺は立ち止まる。
「許せない……! わたしは一番にならなきゃいけないの! ぜったいリベンジするから!」
涙目になりながら、俺に牙を見せてアエリシアは反対のドアへ走り去っていった。
……やれやれ。ま、こういう風になる気はしていたがな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます