幼少期 プールの星

 華蝶はプールの授業は嫌いらしかった。

「だっておっぱいは好きな人にしか見せちゃいけないんだよ。だから、風彦ちゃんにしか見たらだめなの」

 そう言って、先生達や大人を困らせた。

 華蝶はいつもプールは見学だった。だからだろうか。元々色白の華蝶の肌がぼんやりと空気が抜けるような白さで、それがクラスの中でも際立って美しかった。

 でも、俺は華蝶とプールに入りたかったんだ。

 ある暑い夏の夜の事。俺は華蝶を連れて真夜中の学校のプールに忍び込んだ。外とプールを隔てているフェンスを越える時に華蝶が迷っているのを、俺が先に登って手を貸して引っ張りあげた。

「華蝶、二人っきりのプールだ。我慢しなくて良い」

「そうなの?」

「嗚呼、そうだよ」

 華蝶が水着に着替えてきて、夜のプールで二人で遊んだ。華蝶は泳げなかったから、潜ったり、手を貸してばた足の練習をする位だったけれど。

「華蝶、プールは気持ち良いだろう」

「うん。気持ち良いし、凄く綺麗。水が夜空の色をしてるよ。あれ、なに?」

「ん?嗚呼、昼に皆が遊んだおはじきの残りが沈んでるんだな」

「プールって凄いね。水にも空にもきらきらしたのが沢山ある」

 確かに、プールの上には星空が瞬いていた。俺は改めて夜空を見上げるのは初めてだった。

 華蝶の目には、いつもこんな世界が広がっているのだろうか。

 華蝶が水の中に潜って、おはじきを拾ってきた。

「お星様を捕まえたよ」

 華蝶は、笑っていた。

 俺も笑っていた。

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