第31話 コーヒーの書籍

 その日は焙煎の作業が終わってから、なんとなくではありますが、ネット通販の書籍の所をスマホで見ていました。

 『コーヒー 書籍』とキーワード検索して関連の書籍をピックアップしただけでも、ざっと十数冊程度はあったでしょうか。なんとなく眺めている所で、ある書籍の表紙が目に入りました。

『コーヒーの基本 〜初心者でも知っておきたいイロハ〜』

 こういう書籍が目に入ったのです。しかもアプリを登録してダウンロードすれば、無料で見れてしまうそうです。


 えっ? 基本の大事な事なのに、無料で読めていいんですか? 初心者の私にはすごくいいかも。

 そこからの行動は早かったです。すぐに書籍アプリをダウンロードしてSNSとリンクさせ、お目当ての書籍をアプリの本棚に置き、もうこれで読める準備は完了。早速目次は流し読みをして、最初の『コーヒーとは』から読み始めます。写真やグラフなどが要所要所で貼り付けられていて、とても読みやすくてわかりやすかったです。


 まず『コーヒーとは』、中東あたりが発祥の地らしく、コーヒーの木から採れる農産物である事。そのコーヒーの木から収穫された『コーヒーチェリー』の中身であるタネを、取り出して焙煎し、挽いて粉にしてお湯に浸して飲む飲み物である。


 初めはこう書かれていました。

 あのまめと思っていたコーヒーは、実はタネだったなんて。目からウロコです。

 その他にも、コーヒーは赤道を中心とした『コーヒーベルト』という地域でしか育たない事。主な品種は『アラビカ種』と『ロブスタ種』に分かれる事。一般にカフェなどで飲まれているコーヒーは『アラビカ種』がほとんどだと言う事。

 どれもこれも初耳のお話でした。コーヒーというものが身近な飲み物であるのに、そのコーヒーがどういったものなのか、まったく知らずに飲んでいたのです。目からウロコが何枚も剥がれ落ちる感覚がありました。


 このネット書籍を読んでいれば、あの以前のお客さんのように、難しい暗号のような言葉も使えたりするのでは、と淡い期待を持ってしまいました。

 「焙煎は〜〜」とか「品種は〜〜」とか、奥の店員さんと語りたいと思ってしまっている自分に、気が付きました。そう、


コーヒーについて語りたい

いいえ

奥の店員さんと語りたい


 そう思っている自分がいる事に気が付いたのです。

 あの人となら、仕事やプライベートも関係なく、語る事ができる。私は確信めいた想像を膨らませいていました。


 確かに今の職場では、一緒に事務をしている遠藤さんや、他の営業さんたちともお話はしていますが、それはあくまで仕事をうまく円滑に進める上でのコミュニケーション。それ以外での、会話と言うかおしゃべりと言うか、そういうモノが圧倒的に不足している自覚が芽生えてきました。

 だからこそコーヒーを通じて、良いコミュニケーションが取れるのではないかと思ったのです。


 ともかく今日の所はこのくらいにして、これからは行き帰りの電車の中ででも、このネット書籍を読んで勉強して、奥の店員さんと密な会話が出来るようにしよう。そう思ったのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る