第7話 親睦会前の挨拶
そこから親睦会が開催されるまでの2週間、たまに行かない日はありましたが、土曜日の午後と日曜日全日以外は、コーヒースタンド『ピーベリー』でコーヒーを買う日課が続きました。
私はコーヒーを注文すると、すぐにお店前からズレて待つ形にしていておしゃべりには参加せず、かたや一緒に行っている遠藤さんは、なんとかしてイケメン店員さんとおしゃべりを続けさせようと、「今日の天気は、」とか「今日のコーヒーは、」とか、色々と話題を振っていました。そんな遠藤さんにお話を合わせるように、イケメン店員さんは「いや実は傘を忘れてきちゃってて」とか「今日のコーヒーは……コロンビアだったっけ?」と会話を軽く合わせるように、ちょっとしたおしゃべりをしていました。
相変わらず何気ない会話を色々膨らませて接客を続けるイケメン店員さん、たまに会話に夢中になりすぎる時がありますので、奥の店員さんが「コーヒー上がったぞ」と声をかけられるまでおしゃべりを続け、会話を中断してコーヒーの入った紙コップにプラスチックのフタをはめ込んで差し出す、そんなやり取りが日常になっていました。
さしてそんな日々に疑問を差し挟む事も無く、私はコーヒーを目当てに、遠藤さんはイケメン店員さんとの会話を楽しみに、足繁く通う日々は続きまして、いよいよ『店員さんと常連客との親睦会』という名目の飲み会の日がやってきました。
その日は土曜日で、私の会社は土曜日は午前中だけ出勤して午後はお休みなので、一度アパートに帰ってから、改めてお化粧直しをして無難な服装に着替えて、
そんな私は、少しダボッとしたサルエルパンツに丈の長いカーディガンを羽織り、顔は軽くBBクリームを塗っただけの、なんとも普通のゆるい服装になってしまいました。このくらいの服装とお化粧が、平均的で楽なんですよね。
言われた時間の十分前くらいには到着できましたが、もうすでに四人グループの人たちが先に来ていて、その仲間内でキャイキャイと会話がかわされている状況でして、若干出遅れた感がありました。
「あのー、親睦会に参加される方ですか?」
「あ、はい。よろしくおねがいします」
遠藤さんの物怖じしない挨拶に、ちょっと驚いたように挨拶をしてくれる四人グループの一人。この挨拶がキッカケになってくれて、私たちも会話の輪の中に入れてもらう事ができました。こういう所での遠藤さんのコミュニケーション能力の高さは、見習うべき所ですね。
そんなこんなで私たちを合わせて六人になった女子の集団。会話はごく自然の流れで進んでいるようでしたが、やはり私以外は、イケメン店員さん狙いであることが言葉の端々に感じられ、『ザ・女の戦い』といった牽制のし合いが勃発していました。ちょっとなんだか怖い気配です。
「やあ、お待たせ」
指定の時間よりもほんの少し早く、イケメン店員さんが現れました。ジャケット・Tシャツ・ジーンズと、一見無難ではあるものの、しっかり体型に合わせたサイズの服装をチョイスしフィット感のある服装で、なかなか清潔感のある出で立ちで登場しました。そして「ガラガラ」とお店前を閉めていたシャッターがちょっとだけ開いて下に隙間ができ、そこからしゃがんでにじり寄るように、いつもは奥にいる店員さんが出てきました。今までお店の中で作業をしていたのでしょうか、白のワイシャツに黒のスラックス、黒のエプロンを身に着けていて髪はオールバックでカッチリと。いかにも『店員さん』といった風情の出で立ちでした。
ここで初めて奥の店員さんの顔をハッキリと見る事ができたのですが、いたって普通、本当にどこにでもいそうな目鼻立ちでした。良くも悪くも目立たない、そんな印象を受けました。
そしてイケメン店員さんが声を上げて仕切ってくれます。
「今日は来てくれてありがとう。この近くの居酒屋を予約してるから、そこまでちょっと歩く事になるけれど、ごめんね」
この近辺はオフィス街になっていますが、路地一本ズレた所が飲み屋街になっていて何軒かの居酒屋やバーがあり、今日はその辺りで親睦会をするそう。すでに予約は取っているとの事だったので、そこの所はお任せしてしまいましょう。
3分ほど歩いた所で、何軒か居酒屋がテナントとして入っている雑居ビルに到着し、まずは先に奥の店員さんが中に入って、居酒屋の状況を確認して受付を済ませてくれます。そしてイケメン店員さんのアプリが「ポロン」と鳴って、入っていいという連絡を入れてくれた様子です。
イケメン店員さんがスマホ画面を確認すると、
「いいってさ。じゃあみんな入って入って」
と案内をしてくれます。そんな手際の良いやり取りを眺めつつ、女性六人男性二人の、奇妙な親睦会が始まるのでした。
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