第3話 悪魔との出会い
降りてみようかと考え、慎重に地下の様子を
無理です。
洗浄してからでなければ、足を踏み入れることもできません。
中の様子が分からないので、余計なものまで洗浄してしまう可能性がありますが、背に腹は代えられません。
私は口を開けた地下への入り口に手を突っ込むと、また洗浄の呪文を唱えました。
すると、地下から何やら気配がいたしました。
それも、
私はなにか余計なことをしてしまったのでしょうか。
慌てて階段を降りていきます。
地下には、魔法陣がありました。
見たこともない、巨大な魔法陣が。
そしてそれは、私の魔力を吸い込んで光を放っています。
これは、間違いなく発動してしまっていますね。
塔を破壊してしまう魔法陣だったらどうしましょう。
そんなことを考えていると、魔法陣から一人の男性が姿を現しました。
貴族然とした質のいい服を身にまとい、黒々とした髪を撫で付けた美丈夫です。
お芝居に出ている人気の役者様よりも整った顔立ちをしていますが、人間ではないようでした。
その証拠に、男性の背中にはコウモリのような羽根が生えています。
そして、宙に浮いています。
まるで、物語に出てきた悪魔のようでした。
「その通りだ、人間よ」
私の心を読んだのでしょうか?
男性はそういうと、微笑んで私に近づいてきます。
「この魔法陣を発動させたのはお主であろう。オレ様はセイル。オレ様に何でも願うがいい」
「……結構です」
「なに?」
私は現実逃避から戻り、必死に悪魔への返答を考えます。
失礼な返答をしては魂を取られるかもしれません。
さきほどは
私は彼の前に
「特に、お願いはございません。セイル様に捧げるような
「む、ぐぬ……ほ、本当になにもないのか? 美味しいご飯が食べたいであるとか、美しいドレスが着たいであるとか!」
「お、美味しいご飯……」
つい、木箱の中のパンを想像して魅力を感じてしまいました。
いけません。
悪魔と契約してしまっては、
私はふるふると首を振り、セイル様を
「結構ですわ」
「で、ではこうしよう、オレ様の出す料理を試しに食べてみるがよい! 気に入れば契約だ。な?」
なんでしょう、この必死さは。
出てきた時に感じた高貴な印象は吹き飛んでしまいました。
まるで新しい商品を売り込みに来た商人のようです。
ですが、セイル様の手の上に突然現れた湯気の立つシチューのお皿は、
うう、さすが悪魔ですわね……。
私は差し出されたシチューを拒絶できるほどの意思を持っておりませんでした。
漂ってくるクリームの濃厚な香りに、お腹がきゅるると鳴るのを止めることもできませんでした。
二人で一階に戻り、テーブルでシチューを食べます。
私が食べるのを、セイル様は隣に立ってニコニコと見守っていらっしゃいます。
気まずくはありますが、温かい内に食べなくては失礼でしょう。
こちらもセイル様が用意してくださった銀のスプーンで、一口。
「美味しい……」
「そうであろう! ワハハ!」
「おい……しい……っ」
「なっ、泣くでない! どうしたのだ、あっ、パンか!? ふわふわのパン持ってきてやろうか!?」
おかしな話ではありませんか。
悪魔の差し出した料理があまりに美味しくて、あまりに温かくて、あまりに優しくて、涙が出てくるなんて。
今まで家族にさえ感じたことのない気持ちが湧き上がってくるなんて。
どうして私はこんなところにいるのでしょう。
どうして何もしていないのに、こんな場所に閉じ込められなければならないのでしょう。
ずっと、頑張ってきたのに。
望まぬ婚約だって、王妃教育だって、父の、家のためになるならと自分の気持ちなど押し込めてずっと、頑張ってきたのに。
そんな思いが、どんどんと涙となって目から溢れ出てきます。
物心ついた頃から我慢し続けてきた、流されなかった涙が押し寄せてくるようでした。
そんな私に、セイル様が大慌てで色々なものを出してくださる姿がおかしくて、涙の後に笑いが溢れました。
私の周りにはたくさんの美味しそうな食べ物や果物にケーキ、ドレスや宝石、大きなクマのぬいぐるみなんかが置かれています。
どれが私を泣き止ませたのか、セイル様はたくさんの物の向こう側から私を
違います、セイル様。
私は貴方のおかげで、笑えているのですよ。
目は腫れているし、頭も痛いけれど、とてもスッキリしています。
何もかも、セイル様のおかげです。
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