姫と執事の内緒②




良好な関係を築けていたと思っていたエドガーが怪盗だったわけだが、数日前には予告状も届いていた。 

ニーナはいつも通り習い事に追われ、踊りや歌、テーブルマナーから自国の歴史まで勉強に勉強を重ねていた。 そう根を詰める必要もないのだが、暇をしているのは時間が勿体ない。 

ただそんなニーナを見かねてか教育係が休憩を提案した。


「姫様。 少し休憩にいたしましょうか」


時計を見ると始めてからかなりの時間が経っていた。


「もう二時間も経っていたのね」

「姫様の集中力は本当に素晴らしいものです。 エドガー」


そう呼ぶとドアの前で待機していたエドガーがノックをし、ワゴンカートを引いて入ってきた。


「紅茶と焼き菓子のスコーンを持って参りました」


丁寧な所作で姫の前に並べ始める。 紅茶やお菓子の説明がいつも通りに始まり、それを聞き流しながら紅茶を口に運ぶ。


―――本当にエドガーは絵に描いたような執事よね。

―――執事の仕事を淡々とこなしている。

―――一年前まで世話になっていた執事はとてもフランクな方だったわ。

―――執事というより友達の感覚に近かったかしら。

―――だけどそれに比べてエドガーは・・・。


エドガーのことをチラリと横目で見る。


―――私との間に壁があるように感じるのよね。

―――自分のことを一切話さないし、本当に不思議な人。


眺めているとエドガーと目が合う。


「姫様? どこか不調でも?」

「あぁ、いえ。 何でもないわ。 それよりエドガー、外の空気が吸いたいの。 窓を開けてくださる?」

「かしこまりました」


エドガーが窓際へ行くのを見送りながらスコーンを口にする。 すると部屋の電話が鳴った。


―――こんな勉強時間中に電話?

―――珍しいこともあるものね。

―――何か急用かしら?


教育係が急いで電話を取り、その表情が変化したのを見てニーナも焦燥を感じた。


「はい、もしもし。 はい、はい・・・。 えぇ!? 分かりました、今すぐに向かいます!」


教育係の慌てた声にエドガーと目を合わせる。


「一体どうなさいましたの?」

「分かりません。 ただ緊急会議を開くとのことなので、少し席を外します。 エドガー、姫様を頼んだよ」

「かしこまりました」


恭しく礼をし、教育係は去っていった。


「何か不穏な雰囲気ね。 エドガー、何か知っていらっしゃいます?」

「いえ、僕は何も」


ニーナは椅子に深く腰をかけた。 何かあれば必ず上手く対応してくれると確信していたからだ。


「そう。 まぁ何かあったとしても、エドガーは私を守ってくださるものね?」

「もちろんでございます」


それからエドガーと他愛ない話で盛り上がり、20分程が経ち教育係が戻ってきた。


「何の会議でしたの?」

「姫様、落ち着いて聞いてください。 怪盗から予告状が届いたそうです。 日程は分かりませんが、宝石を盗みに来ると」

「ッ・・・!」


そのような話を聞くのは今回が初めてだった。


「外の強化をしようと現在対策中です。 万が一に備え、姫様もお気を付けください」

「私は大丈夫よ。 執事のエドガーがいるから」


そう言ってエドガーに目配せをする。


「はい。 姫様は僕が責任をもって守らせていただきます」


予告状が届いた時はエドガーが怪盗とは知っているはずもなく、その本人が必ず何とかしてくれると信じていたのだ。



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