第17話 プロッターとパンツァー

プロッターとパンツァー


 真面目にBL小説を書き始めて五年目ですが、私の小説の書き方はいまだに素人です。プロット通りに小説を書くことができず、書き上げたとしても推敲がうまくできないということに悩んでいます。


K・M・ワイランドの『アウトラインから書く小説再入門 なぜ、自由に書いたら行き詰まるのか?』の冒頭にこんな文章があります。


作家は二つのカテゴリーに大別できます。アウトライン派と非アウトライン派、あるいは執筆前にプロットを作る「プロッター」と、作らない「PANTSER(パンツァー)」。パンツァーとは「計画を立てず、勘を頼りに作業する=SEAT OF PANTS」というイディオムからきています。二つの方法をめぐり、熱いバトルがよく起きます。


 この本はプロッター、つまり執筆前に詳細なプロットを作るアウトライン派の書籍で、本には執筆前のさまざまな下準備のテクニックが紹介されています。

 「著者に訊く」というインタビュー集でも、パンツィング(アウトラインを書かず、いきなり初稿を執筆すること)よりもアウトラインを詳細に書く方法が推奨されています。


 私は一応最初に小説のプロットを書きます。が、小説を書き始めると話や登場人物が変化してしまい、プロット通りに書けたことは一度もありません。私は、プロッターでありたいと思ってはいるのですが、中身はパンツァーです。右脳で小説を書くことはできますが、左脳で小説を書くことができません。


 我が心の釣り兄貴、スティーヴン・キングは、この区分でいくとパンツァーです。

 『書くことについて』でスティーヴン・キングは、「ストーリーというのは地中に埋もれた化石のように探しあてるべきもの」と述べています。

「作中人物を自分の思い通りに操ったことは一度もない。逆に、すべてを彼らにまかせている」と。


 ストーリーが自然発生するのが正しい小説の書き方である、というパンツァー的発言で思い出すのは、フラナリー・オコナーの『短編小説を書く』というエッセイの一節です。


 その短編を私が書き始めたとき、義足をつけた博士号取得者がそこに出てくるなんて、自分でも知りませんでした。ある朝に、いささかの心覚えのあるふたりの女性の描写をしているうちに、自分でもよく気がつかないまま、私は彼女たちのひとりに義足をつけた娘を配していたのです。私は聖書のセールスマンも出してきました。でもその男をどう使えばいいのか、私には何もわかっていませんでした。彼がその義足を盗むことになるなんて、その十行か十二行前になるまで私にもわからなかったのです。でもそれがわかったとき、私はこう思いました。これこそ起こるべくして起こったことだったんだと。それが避けがたいことであったことを私は認めたのです。


 これはレイモンド・カーヴァーの『書くことについて』というエッセイに書かれた引用文なのですが、その後カーヴァーは、


そう、私はこのような短編小説の書き方をするのは、自分に才能がないからだと思い込んでいたのだ。彼女がそれについて腹蔵のないところを書いてくれたおかげで、ものすごくほっとしたものである。


と述べています。

 カーヴァーもフラナリー・オコナーと同じ書き方をしており、そのことに劣等感を抱いていたようなのです。


 小説の自然発生派であった私は、これらの先達の発言に心強いものを感じていたのですが、パンツァーのデメリットにはたと気づきました。

 小説の推敲ができないのです。


 文章の直しはできるのですが、物語の構造を変える大きな推敲ができません。

 パンツァーは文章を自然発生的に書いています。登場人物の行動や物語の伏線なども勘で書いています。なので左脳的な分析作業を必要とする大きな推敲が苦手です。

 自分で推敲することに限界を感じた私は、twitterのフォロワーさんの紹介で創作評価サービスの方に依頼して小説の評価表を書いていただきました。

 私は評価表によって話の根幹に関わる問題を指摘され、その小説を書き直すことにしました。


 プロッターの方々は、パンツァーの書き方だと途中で行き詰まったり余計な時間がかかったりすることが多いので、最初に綿密にプロットを立てておくと発言しています。実際その通りです。


 しかし、


 プレミスを書くとか三幕八場構成とか、最初にやっておけばいいことはわかっているんだけど、プロットを書いても話が変わるんだよ……

 最初にパンツィングで話を書かないと小説のプロットが立てられないんだよ!


 という本末転倒な心の叫びをあげながら、今回は終わりたいと思います。

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