周りの女子がどんどんヤンデレになっていった俺のせいかもしれない

床の下

序章

なんかモテ過ぎて怖い・妹編

 甘い匂いが鼻孔を擽る。小さいころから嗅いでいた匂いである。目を開けるとそこは知ってる天井。寝ているのは知っているベット。そして隣には知っている顔がある。


 彼女は北足ゆる、血の繋がらない俺の妹である。


 俺と似ず可愛らしい顔をしている。まあ血が繋がっていないのだから当然だが、勝手に布団に潜り混んでくるのはいつもの癖である。こいつは過剰なほど夜を怖がる。昔、俺が修学旅行で家を離れようとした時は一睡もせず三日三晩待っていたらしい。それからというもの俺は家で必ず寝て、彼女が来ても何も言わないと決めていた。


 ゆっくりを目を開くゆる。


「んー、お兄ちゃん。おはよー」


「ああ、おはよう」


 窓から差した朝日がゆるに当たる。髪は腰まであり一切のよれがない。来ているパジャマは昔俺が買った物ですでにサイズが合わなくなりぴちぴちとしている。陶器のような肌は光を反射し、真黒な髪は光を吸い込む。まるで覚者が信託をうけてるが如き正しい美しさがそこにある。小柄な体格ながら胸は必要以上に大きく、まるで欲を形どった様にも見える。少し内気で怯えるように見える顔は庇護欲を煽る。


 魔性。血が繋がっていない事実を含めてもあまりにも恐ろしく魅力的である。


「どうしたの?」


 首をかしげるゆる。ベットの上で上半身だけ起き上がった俺の体に抱き着いている。


「いや、相変わらず綺麗だなと思ってな。アイドルにだって負けないな」


「も―お兄ちゃんったら、そこら辺の無線・有線で表現出来ちゃうような16ビットレベルのアイドル達と比べるなんて、流石の私でも怒っちゃうよ!」


「うーん、性格は可愛くない」


 ゆるは中学生になっても尊大な自尊心は変わらない。にししと笑いながらベットから下りる。徹底的な内弁慶であり、親しい間柄にならないと会話すら成立しない癖に気に入るとベラベラとしゃべる。子供っぽい癖に大人びている。


 そういった外と内のギャップも含めて魅力的に見えるのだろう。


 ゆるはてとてとという音が鳴りそうな動きで靴下を履きながら登校の準備をし始めている。この部屋は俺と妹、共用なのだ。


 一応二つに分けられている部屋。元々それぞれに部屋は与えられている。だが一方は物置のようになっており、俺の部屋に妹が机や私物を置きまくって混沌とした現状になっている。ベットは一つだが、その上に置かれているのは少年漫画と少女漫画が混ざっている。毛布も昔から使っている子供っぽいキャラ物と俺の趣味で買ったベットとそろいの布団が混ざっている。


 そして、靴下を履き終えるとすぐさま部屋を出て行く。外で見ると完璧な立ち振る舞いをしているが今けんけんしていたのが素の妹である。


 欠伸を一つする。窓を開けて空気を入れ替える。清潔な空気がたっぷりと入る。背を伸ばしいつもの事に取り掛かる。


 妹が朝食の用意をしている間、俺は二人分の学校の用意をする。俺と同じ高校に行きたいという妹の要望から家庭教師になっており、彼女の学習状態を毎日確認している。正直、俺が通う高校などそこまで名門の学校でもなく、中学の内容を頭に入れていれば、面接で一発ギャグしても受かる。幼馴染は受かったので事実だろう。


 彼女の鞄は綺麗に使われており、汚れ一つない。革製のそこそこ良い物である。これで三年使ったのは信じられない。俺が中学入学の際、バイト代で買った物だが大事に使ってくれているのは嬉しい。宿題は完璧にこなしている。そして、ノートの間には手紙が挟まっている。


 それは妹からの恋文、ラブレターである。


 365日、三年間。欠かさず書いている。文面が似通う事はない。常に斬新に、洗練された文章で、三枚に渡って書かれている。如何に自分は兄が好きか、最終的に子供は5人欲しい事。結婚式は出来れば人里離れた山に小さなお屋敷を買ってそこで暮らしたい事。生活費は自分が稼げる事。実際、モデルの真似事で稼いでいる事。その気になればアイドルになって、より稼げる事。そこからともなう如何に自分が綺麗で可愛くて賢くて無垢で男好みでお似合いで愛されるべきか・・・そんな事が書かれている。


 ここに書かれている事は愚にも付かない夢などではない。あの妹がその気になれば、偶像になる事なんて容易い。今いる偶像もどきのアイドル達なんて比べるも烏滸がましい。今、恋文に添付されてる給料明細がそれを物語っていた。


―――


 妹が作る朝食を食べ終えて、俺は玄関で靴を履いている。妹も横でいそいそと同じことをしている。俺より頭一つ小さいのに足の長さは変わらない。遺伝子が違いすぎる。いや違うのだが。


 二人で立ち上がると妹が両手を広げる。胸を張って自分の武器を最大限に主張している。


「お兄ちゃん、ぎゅーして」


「ああ、頑張るんだぞ」


 抱きしめるとぐにゅぐにゅと彼女の胸が潰れる。初めは気恥ずかしさや厭らしい欲が首をもたげて断ろうとしたが、それを伝える雰囲気だけで酷く怯え泣き始め、最終的に自分の指の爪を噛みちぎろうとした。彼女はスキンシップを断ろうとすると自分を傷つける。それは自分が如何に価値ある存在かを理解しているからこそ辿り着く結論である。


 頭をこすり付けながら全身に匂いを付けている様に見える。


「私が中学卒業したらお兄ちゃんで、先輩になるんだよね。なんか素敵だね」


 俺が今高校一年であり、妹は中学三年である。中学はべつべつだった為、初めての経験となる。


「そうか?変わらんだろ」


「はー乙女心が分からないなあ。そんなんじゃ私としか結婚出来ないよ?」


「ああそうだな・・・ん?」


 また、にししと笑いながら外に出ていく。相変わらず、好き勝手にしている。誰もいなくなった家の戸締りをしながら、俺は通学路に出た。少し登った日は目をちかちかとさせる。


 瞬くのは無数の過去、両親の話、家の話、妹の話、そして俺の話。ふと感じる都合の良さ。まるで何か仕組まれているような・・・


 それは数秒の戸惑い。


 後ろから誰かに肩を組まれる。制汗剤と清涼剤、それとむせ返る汗の匂い。掛けてくる体重を支える。隣の顔が見える。美少年とも美少女とも言える中性的な顔立ち、俺と同じ位だがしっかりと詰まった筋肉。短く切り揃えられた髪型は競技的に邪魔にならない程度のおしゃれである。そして、最も特徴的なのは・・・


「おっはよー、元気してるかいしんゆー。相変わらず妹さんと仲良くやってるかーい。やっけちゃうなー、キスしちゃおー」


「しなくていいぞ」


「そう言わずにしんゆーだろ」


 出鱈目な筋力で強引に抱き寄せられ頬にキスをされる。過剰なスキンシップ。これが俺の幼馴染、春日鳩である。





































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