七十一日目

七十一日目


 やあ、今日は姫ニャンと人間の町を観光するよ。


 ええっと、順を追って説明するとだね。昨日、なんとか一番街までたどり着いて夕方まで探索してみたのだけれど、ギルドっぽい建物は見つからなかった。


 徒労と空腹に耐えかねて食べ物のにおいがするお店を覗いてみたところ、そこで依頼書らしき羊皮紙がたくさん貼られているのを見つけた。


 これが私の探していた施設なんだとわかった。


 なるほど。冒険者たちがどういう組合に属しているのかはわからないけれど、どうやら依頼は酒場みたいなところに貼り出されているものだったらしい。


 でも酒場に無一文で入るのはリスクが高すぎた。


 そんなわけで日を改めてなけなしの銅貨を持ち込むことにしたんだけど、さすがに姫ニャンも心配になったらしい。

 調査始めて四日になるし、今日はいっしょに付いてくるといって譲らなかった。


 大丈夫かな。

 いや私よりはしっかりしてると思うんだけど、姫ニャンに何かあったら私の心が折れる。


 そんな私の心境を察してくれたのか、姫ニャンは町ではずっと手を繋いでくれた。

 こ、困るよ二人で手を繋いで町を歩くとかデートみたいじゃないか!

 私の心臓は破裂しそうだったけど、同時にすごく安心もしてしまった。


 ちなみに太郎丸は荷物といっしょに町の外れに繋いでおいたよ。

 他の人にイタズラされないといいんだけど。


 酒場に入ってみると、いきなり注文を求められるようなことはなかった。

 まあ、依頼書だけ見に来る人とかも多いんだろう。冒険者らしき人たちに紛れて入ったら止められもしなかったよ。


 さて、ここからが正念場だ。


 ひとまず周囲の冒険者が依頼書をどう扱っているのかを観察する。

 どうにも受けたい依頼の羊皮紙を剥がして受け付けに持っていくみたいだ。酒場のそれとは別にパリッとした服装の人が受け付けをしているカウンターがあった。


 私がオークさんの羊皮紙を取り出そうとしていると、姫ニャンが隅っこの方の張り紙を指さす。

 そっちに目を向けると、なんとオークさんの絵を描いた依頼書があった。


 やっぱりもう次の討伐依頼が出てたんだ。


 私は慌ててそれを引っぺがした。

 ここに出てるってことは、まだ誰も受けてないと思うんだけど、大丈夫かな。


 カウンターに持っていくと、受け付けの人は何か話しかけてくるけど、言葉がわからない。

 なんだろう。たぶん、この『依頼を受けるの?』的な確認をしてるんだと思うけど、私はこの依頼はもう終わってるってことを伝えたいんだ。


 私が古い方の依頼書を並べて出すと、受け付けの人は怪訝そうな顔をした。

 まあそうなるよね。私はオークさんの絵にバッテンをして見せたりいろいろジェスチャーをしてみせるんだけど、なかなか伝わる気配はない。


 ぐぬぬ、勢いでごり押しじゃ無理なのか。

 でもここまで来たんだ。そう簡単に諦めるわけにはいかない。


 行き詰まっていると、姫ニャンが私のポケットに手を突っ込んできた。

 あわわこんなところでそういうエッチなのはちょっとよくないと思うの!


 慌てる私をよそに、姫ニャンが取り出したのは冒険者のネームタグだった。

 そういえばそれもあったね。


 私が呆気に取られるうちに、姫ニャンは受け付けの人と話し始める。


 あ、そうか。姫ニャンはこっちの言葉わかるんだ。考えてみれば当たり前なんだけど、何故か思いつかなかった。

 思えば姫ニャンが私以外の誰かと話してるところなんて見たことなかったしなあ。


 姫ニャンがどう説明したのかはわからないけど、ややあって受け付けの人は笑顔を浮かべて二枚の羊皮紙を引っ込めた。

 代わりに出されたのは麻袋。開けてみたら、なんと金貨が入っていたよ。

 え? 何これもらっていいの?


 麻袋を私に握らせると、姫ニャンは胸を張って自慢げな顔をする。


 すごいよ姫ニャンありがとう!


 感極まって、思わず抱きついてしまった。


 これで、オークさんたちの危機はひとまず回避できた……のかな?


 異世界生活七十一日目。オークニキ、私やったよ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る