四十八日目


四十八日目


 ここ二、三日は無理に動かなかったおかげか、オークニキの怪我もだいぶよくなったみたいだよ。


 お墓参りとかも私と姫ニャンで行ってたんだよ。

 姫ニャンはやっぱり苦悶の表情で鼻を押さえていたけれど、それでも付き合ってくれた。


 姫ニャン優しいな。無理しなくても大丈夫なのに。


 お花は、ごめん。私種類とかわからないからその辺に生えてたものの中から綺麗なものを選んで添えているよ。


 ついでと言ってはなんだけど、お墓の周りに水たまりを作って足跡が残るように仕掛けておいたんだ。

 でもまあ、私たち以外の誰かが近づいた形跡はなかった。


 やっぱりもう、ここには誰も来ないのかな。


 少し前まで、ここでオークさんたちが暮らしてたのにな。


 お墓参りが終わると太郎丸で周囲の探索……とはいかなかった。


 どういうわけか姫ニャンに引っ張られて水浴びをすることになった。


 姫ニャンと水浴びするのも何回目だろう?

 そろそろ慣れたつもりだけどやっぱり恥ずかしい。


 ただ今回はいつもと少し様子が違った。

 なんかもう、念入りに洗わないと怒られるし、なかなか上がらせてもらえなかった。

 暖かくなってきたとはいえ、湖の水って結構冷たいんだけど。


 そしてようやく洗い終わったと思ったら、今度はすごい勢いでペロペロ舐められてしまった。


 ああ、うん。さすがに私でもわかったよ。



 これ、におい付けってやつだ!



 猫に限らず動物は自分の縄張りに臭いを付けて縄張りアピールするもんね。


 姫ニャン、私のこと自分のだと思ってるんだ。


 思えばオークさんたちの臭いを嫌がってたのも、自分のにおいがかき消されちゃうからだったんだね。


 だからオークニキの体臭がついたら怒るんだ。自分のものだってマーキングし直してるんだ。


 えへへ、なんか独占欲みたいなの示されるとちょっと照れちゃうね。


 ……じゃないね。


 うわもう、姫ニャンに私のことなんだと思ってるのか問い詰めたいところだけど、言葉がわからない!


 これは絵で描いて文句を言っても伝わらないだろうなあ。ジェスチャーだともっと無理だし。


 大事に思われてるのは嬉しいんだけど、複雑な気持ちだ。


 すっかり自分のにおいを付け終わると、姫ニャンは上機嫌でほっぺたをすりすりしてきた。


 うん。怒るに怒れない。


 これ、明日も同じことするのかなあ。陽が暮れたらまたオークニキのところに戻るんだけども。


 姫ニャンと洗いっこは嫌いじゃないけど、マーキングされるのはちょっと考えものだ。


 異世界生活四十八日目。今日は珍しく姫ニャンに振り回された。


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