四十九日目


四十九日目


 そういえば元の世界の私ってどんな扱いなんだろう?


 この世界にきて今日で四十九日目。

 私が死んだことになっているなら、今日は四十九日だ。一応説明しておくと、死んだ人はこの日に成仏する区切りのような日だよ。

 遺族にとってはお仏壇も完成して葬儀もひと段落つく忌明けの日だ。形見分けとかするのもこの日だったような気がする。


 あまり考えたくはなかったのだけれど、もしもあっちに私の死体が残っているのだとしたら、大変困ったことになっているかもしれない。



 だって私、平日の真っ昼間にJCコスのままい○ゞさんに跳ねられたんだもの。



 なんちゃってJCの葬式なんてあまりに痛々しくてお母さんも泣くに泣けないだろう。近所の人に知られたらどんな噂をされるか。

 同級生とかに知られるのもヤだな。別にいじめられてたわけじゃないけど、仲が良かったわけでもない。

 適当なこと言って笑いものにされるのが目に見えている。


 あと、私が死んでいるなら、元の世界に戻るのは絶望的なんだろう。

 だって戻っても死ぬだけなんだもん。


 着の身着のままこっちに放り込まれたことを考えると、向こうじゃ行方不明みたいになってるとは思うんだけど、これは私の願望が大きいから冷静な考察とは言い難い。


 こっちに来たときの私って、どんな状態だったっけ?


 怪我はしてなかったし、血痕もついてなかったように思う。

 でも、メガネは割れてたから衝撃はあったはずなんだよね。


 うーん、い○ゞとのインパクトの瞬間にこっちに送られたとか?

 その場合、私メガネから衝突したことになるんだけれど、それならメガネもっとベキベキに壊れてると思う。


 あるいはその衝撃がメガネに伝わりきる前に消滅したとか?

 一度伝わった振動が全体に伝わる前に消そうとしたら、別の形で逃がさないといけないはずだから……あ、もしかして衝突のエネルギーで異世界に飛ばされたとか?

 いやいや私のメガネは転送装置かよ。


 もうひとつ、嫌な可能性に気付いてしまった。


 四十九日は言ってみれば死者と遺族の最後の別れの日みたいなものだ。


 元の世界の私が死んでいた説でいくとして、元の世界に戻れるタイムリミットみたいなものがあるとしたら、この日に設定されている可能性は高いんじゃないかな。


 元の世界の自分のことは考えたくないけれど、元の世界に戻ることを最終的な目標と定めた以上、想定しないわけにはいかない。


 ああ、困った。


 元の世界の私、どうなってるんだろう。


 肉体はここにあるんだから、こっちに瞬間移動しちゃった説を信じて進むしかないのかな。


 うん。今のところ元の世界に戻る手がかりは何ひとつ見つかっていない。

 方法もわからないことを考えて落ち込むより、今目の前にあることを考えよう。


 ダメだったときはこっちに永住することも覚悟して、腹をくくっておくことくらいしかできないもの。


 目の前にある問題は、オークニキの怪我と冒険者の追撃だ。


 洞穴の食料は少ないし、あまり栄養もなさそうだ。

 それにオークニキは魚食べてくれないし。


 よし、今度はオークニキのために肉を手に入れてこよう!


 冒険者の追撃回避については、ちょっと考えていることがあるからいずれ試してみるつもりだ。


 異世界生活四十九日目。今日も姫ニャンに容赦なくにおい付けされた。


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