二十八日目
二十八日目
気が付いたら朝だった。
私は木に引っかかって宙ぶらりんになっていた。
昨晩は暗くて気付かなかったけれど、どうやら足を踏み外した先は崖みたいになっていたらしい。
足下には川が流れてる。
その中腹あたりからぽつんと生えている木に、私はぶら下がっているようだ。
いっしょに転がったはずの冒険者の姿は見当たらなかった。
川に落ちたのか、それとも私だけ突き落とされたのか。
とにかく、私はまだ生きていた。
昨晩の地獄みたいな光景は夢だったんじゃないかと思いたいけれど、今のこの様を見るに現実だったんだよね。
子供オークくん、ちゃんと逃げられたかな。オークママたちも。
……探しに行こう。
ひとまず状況を確認するところから始めた。
あちこち擦り傷だらけで、なんか左のふくらはぎがすっぱり切れてるけど、命に別状はなさそう。
制服もさすがに少し破れてしまったけれど、奇跡的に服としての機能が損なわれるようなことにはなってない。
所持品は、元の世界から持ってきたものはだいたい無事。
メガネのフレームが思いっきり曲がってることを除けば(手で無理矢理直したけどグニャグニャになってしまった)。
他には手斧とオークニキからもらったナイフ片もある。
ただ、食料や水の手合いはない。
襲われたときは野営を始めたところだったから、荷物はみんな下ろしちゃってたんだ。
現状確認を済ませたところで、さてどうしたものか。
私が引っかかっている木の枝はそこそこの太さがあるけれど、下手に動くと折れてしまいそうではある。
あと、地味に足の怪我が深い。
動かないほどじゃないけど、ほとんど力が入らない。それに結構時間が経ってるはずなのに、血が止まらない。
止血しないとマズいかも。
ぶら下がったままじゃ止血もできない。
どうにかここから脱出しないといけないんだけど、襟に木の枝が刺さってるみたいで身動きが取れないんだ。
もうちょっとズレてたら私、死んでたんじゃないかな。まあ、そんな状態で私の体重を支えてくれた制服の丈夫さには本当に頭が下がる。
それから枝を抜けたとして、崖を登るか川に下るか。
この足じゃ登るのは厳しそうなんだけど、下も落ちたら死ぬだろうくらいの高さはある。
たぶん十五メートルくらいかな。学校の屋上くらいはあると思う。
十五分くらい悩んだ末、私は襟にぶっ刺さっている枝をへし折ることにした。
幸いと言うべきか、すぐ傍にしがみつけそうな枝がある。これを伝って木の根元まで移動できれば座るくらいできるはずだ。
問題は、私の体重にこの枝が耐えられるかどうかだ。
どの道、ここにぶら下がってても失血で死にそうだし、体力も失われる。
落ちたら落ちたときだ。
結果的に、私は落ちずに済んだ。
しがみついた枝がメキメキメキって嫌な音を立てて曲がったときはもうダメかと思ったけれど、なんとか木の根元にしがみつくまで保ってくれた。
まずは足の止血。傷口は思ったより綺麗だった。
まあ、今洗ったりできないから助かったね。傷口が開かないように押さえていればそのまま塞がるんじゃないかと思えるくらいだ。
シャツの左袖は姫ニャンにあげちゃったから、今回は右袖に犠牲になってもらった。
おかげでシャツが長袖からノースリーブになっちゃったけど命には代えられない。
止血のやり方、中学の保体で習ったのうろ覚えだったけど大丈夫かな。
ガラスで切ったみたいな鋭い傷はガムテープ巻くだけでも効果があるみたいに聞いたことがあるし、大丈夫だといいな。
あとは、私にこの崖を登ったり降りたりできるかが問題だ。
異世界生活二十八日目。久しぶりにひとりぼっち。
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