二十七日目


二十七日目



 私たちは逃げ切れなかった。



 集落にはオークニキたち戦えるオークさんたちが残った。

 私は非戦闘員の子供オークくんやオークママ、それに怪我人のオークさんたちといっしょに逃げることになったんだ。


 オークさんたちは森の中を逃げていた。


 そういえば彼らの皮膚は暗い緑色だ。

 森の中だと保護色になって、はぐれると見つけるのは難しいと思う。もしかしたら本来は森に住んでいた種族なのかもしれない。


 それがどうしてあんな荒野に住んでいたのか。その原因は想像に難くない。

 この先に、オークさんたちの安住の地が見つかるといいんだけれど。


 みんな荷物を抱えていて余裕のなさそうな顔をしていた。

 子供オークくんがどこまで事態を理解しているのかはわからないが、ただ事でないのはわかっているのだろう。弱音らしきものも吐かずに(吐いてるようには見えなかった)頑張って歩いている。


 せめて子供オークくんくらい励ましてあげたくて、手を繋いであげたらちょっと驚いていたけど嫌がりはしなかった。

 気休めかもしれないけれど、少しホッとしたような顔に見えたのは気のせいじゃないと思う。


 もう片方の手はいつでも手斧を握れるように空けておいた。


 一応的には当たるようになったけれど、もともと借りものの経験だ。実際に役に立つかなんてわからない。

 少しでも相手を怯ませられたら儲けもんだろう。


 夜は身を寄せ合って野宿して、朝になったらまた移動。

 一日中歩き通しでニートには辛い行軍だったけれど、なんとか足を引っ張らないようについていけたと思うよ。


 オークニキたちは今ごろ戦っているのかな。

 そのおかげかはわからないけれど、私たちの旅路は順調に思えた。


 でも夜になって野営をしていたところ、冒険者が襲ってきた。


 オークニキたちが負けてしまったのか、それとも待ち伏せされていたのか。

 どちらにしろ、ここに戦えるオークさんはいなかった。


 暗くてよく見えなかったけれど、冒険者は三人いたと思う。

 怪我人オークさんが体当たりをしたけれど、すぐに斬られてしまった。


 せっかく助かった人だったのに。


 それでみんな我に返ったみたいで逃げ出したのだけれど、冒険者は容赦なく襲ってきた。


 オークママもひとり斬られたのが見えた。


 私の手元には手斧があった。


 投げれば誰かひとりくらい助けられたかもしれない。そうでなくても、逃げる隙くらい作れたかもしれない。


 でも、投げられなかった。


 わけのわからない言葉をしゃべっていて、私やオークさんたちを殺そうとしてきても〝人間〟だって思っちゃったんだ。


 あんなの人間じゃない。


 そう思ったはずなのに……。


 オークさんたちがどんどんやられていって、冒険者たちは子供オークくんにも剣を振りかぶった。


 手斧は投げられなかった。


 でも、気が付いたら私は冒険者に体当たりしていた。


 そのまま冒険者ともみ合うように森の中を転がり落ちていって、私の意識は途切れた。


 異世界生活二十七日目。子供オークくんだけでも、生き延びて。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る