ラブコメするなら異世界で!〜お前ら、現実世界だけがラブコメできると思うなよ!〜
楓原 こうた【書籍6シリーズ発売中】
プロローグ
拝啓、父さん母さん。
お元気でしょうか? 俺は元気です。
そちらでは、今頃は桜が舞い散る春の季節だと思います。学期と年度が変わり、万年サラリーマンな父さんも日中ポテチを食べながらゴロゴロしていた母さんも、新しい生活が幕を開けたのではないでしょうか?
享年十七歳。
そろそろ進路も考えなくてはいけなかった俺ですが、どうやら事故で死んでしまったみたいです。
きっと、父さんも母さんも泣いてくれているのでしょう。
何もしてあげられていない俺ですが、父さんや母さんの中では大きな存在────涙を流すに値する人物でいたれたのではと……そう思っています。
ですがご安心を。
俺は元気です。
確かに、父さん母さんには元気な姿を見せることはできませんが、本当に元気でやっています。
毎日涙と汗を流しながらも生きています。
それより、聞いてください。
なんと、今俺がいる世界には魔法という物が存在しているのです。
おっと、やめてください。何故か「大丈夫? 病院行く?」とでも言わんばかりな視線を送られたような気がします。
ですが本当です。
それは父さん母さんもご存知でしょう? なにせ「俺、将来酒に酔ったりしねぇぜ!」と、酔っ払った父さんの前で言った時、ちゃんとスピリタスを一気飲みしてみせました。
……あの時はごめんなさい。まさか病院に運ばれるなんて思っていなかったんです。
────おっと、話が逸れてしまいましたね。
という訳で、本当にこの世界には魔法が存在しているのです。ちなみに、俺は転移という「ラノベwww」みないな現象がこの体に起こってしまったらしく、目が覚めたらあら不思議────お空に龍が飛んでいましたことよ。家に帰った時に母さんの裸ワイシャツを見て平然としていたこの俺ですら驚きました。
今はなんやかんやでお師匠さん────皆から、祝愛の魔女と呼ばれる人に拾って貰えたおかげで何とか見た事もない世界で過ごせています。
今は平日の日にはちゃんと学校にも通わせてもらっており、感謝してもしきれません。
……本当に、初めは死ぬかと思ったんです。
────とまぁ、父さん母さんには安心して欲しいという想いを込めて筆を取った訳ですが……こんな俺にも、現実世界では未練がありました。
それは────
『彼女が欲しい!』
────お恥ずかしながら、俺は生まれてこのかた彼女ができたことがありません。
何故でしょう? 父さん達の遺伝子が悪かったのでしょうか?
……はい、ごめんなさいそんなことありません。
────何故か母さんの殺気がこの世界まで飛んできた気がしますが……ともあれ、この物語の本題に戻りましょう。
俺、水原凪斗は彼女が欲しいんです。
男子の思春期的欲求と色欲的生存本能が人より強いのでしょうかね? 切実にそう思ってしまいます。
だからこそ、俺はこの世界で絶対に彼女を作ってみせます。見ててください、ちゃんと水原家は途絶えさせません!
……ふぅ。
流石にちょっと疲れましたね。そろそろ終わりにしましょう。
え? 本題に入ったのに終わるの早いわって?
嫌だなー父さん。ちゃんとここからが本題だよ。短くもなければ長くもありません。どうせ、直ぐに分かるのですから────
「ねぇ、ナギト? そろそろお手紙は終わったかい? ボクはそろそろ寝たいんだ、灯りがあってはボクの睡眠の妨げじゃないか」
「あ、すんません師匠。今消します」
俺は筆を置き、ランタンの火を消した。
眠たげな翠玉のような瞳をゴシゴシする少女。小柄な体躯に足までかかったライトブルーの髪が寝巻きに絡まってしまっているその姿は如何にも眠たげといった感じだ。
「ん、君の想いを綴る邪魔はしたくないのだけれどね……流石にボクは眠いんだ。君も明日は学校だろう?」
「まぁ、そうですけど……ラブコメできますし」
「ら、らぶ……こめ? ちょっと、ボクでも分からない単語に戸惑っているよ……」
「こちらの話っす。さぁ、早く寝ましょう」
「……そうだね、そうするとしよう」
未だ釈然としない師匠は横にあるフカフカのベッドに潜り込んだ。
本当に眠たかったのか、その足取りはなんともおぼつかなかった。
────さてと、俺も寝ますかね。
俺はゆっくりと傍らにあるベッドに潜り込もうと────
「待またえ君。どうしてボクと同じベッドに潜り込むんだ?」
「……ラブコメなら、ここは絶対に潜り込む場面だと思うので」
「らぶこめとかよく分からないものは、君と一緒に夜を明かさなければならないのかね?」
師匠が、何故か俺の喉仏を掴み訝しむような目を向けてくる。
冗談が、いつの間にか死に直結しそうで怖いっす。……恐るべし、異世界。
「────全く。愛を尊重し、祝う立場であるボクでも愛のない夜這いは断固拒否させてもらうよ」
「その断固が些か怖いのは俺だけでしょうか?」
徐々に掴む握力が強くなってきて、呼吸ができなさそうです。
「……まぁ、いい。ほら、早く入りたまえ。今夜は冷えるんだ、ボクは寒がりなんだ」
師匠は俺から手を離すと、モゾモゾと再びベッドに潜り始める。
そして、咳き込む俺に対してその小さな手で招くような素振りをする。
……ふぅ、やれやれ。師匠も素直じゃないなぁ。
しかし、これぞラブコメヒロイン。死に直結しそうでも、ツンデレキャラはラブコメには欠かせない。
「じゃあ師匠。俺、初めてなんで優しくしてください」
「それは絶対にしないからね!?」
────とまぁ、こんな感じで順調にラブコメしています。
向こうでは死んでしまったのでできませんでしたが……ラブコメするなら異世界で。
なので、父さん母さんはしっかり向こうの世界で見守りつつ、俺の本題の行く末を見届けてくれたらなと。
また、お手紙書きますね。
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