落語 ソロキャンプ
フジセ リツ
ソロキャンプ
近頃、世間ではアウトドアブームでございまして、中でも、野外で焚き火などを致しますキャンプが流行っておる訳でございます。
キャンプはといいますと、昔は大人数でするものと決まっておりましたが、一人でするキャンプをソロキャンプといいまして、小さいテントやハンモックで寝て、一人で焚き火やバーベキューを楽しむのだといいます。
佐藤
田中さん。田中さん。
この棒はテントのどこにさせばええんですか。
田中
それはやな、佐藤くん。テントのタープの端に穴があるやろ、そこにポールをさせばええねん。
佐藤
タープって、この棒のことですか。棒を端にさして・・・
田中
ちゃう、ちゃう、その棒がポールや。
棒をおれのブーツの靴紐の穴にさしたらあかん。
タープとは幕のことや。
ポールがテントの骨になって、幕が雨よけになるんや。
そう、そう、ポールをタープにさして、よし、よし、テントが立った。
ほな、あとは自分でやりや。
それが、ソロキャンプやで。
佐藤
田中さん・・、田中さん。
ちょっと、田中さん。
田中
もーっ、何やな?何回も呼ぶなって。
佐藤
田中さん、ちょっと、これ、火がつかへんのですけど。
田中
はあー、またかいな。田中くん、それは、擦ってもあかん。
その鉛筆の芯と石と擦っっても、火はつかへん。
佐藤
ぼくが見た動画では、石と黒い棒みたいなのを擦って、火をつけてたんですけどねえ。
田中
君が見た動画はどんなんか知らんけど、鉛筆では火はつかへん。字が書けるだけや。
ライター貸してあげるし、ライターで火を付けーな。
佐藤
僕、ライターって使ったことないんですよね。
田中
君とはさっき、トイレで会ったとこやけど、何で、キャンプ場に来たん?
佐藤
まあ、流行ってるんで、動画見たらできるかなあって。
キャンプ場に来て、テント開いてみたら、ようわからんので。
そこに、キャンプに詳しそうな縄文人みたいな人がきはったんで声かけたんです。
田中
縄文人て俺のことか。 勘弁して。
佐藤くんこそ、色々、道具を持ってきてるし、何度もキャンプに来てるんかと思ったわ。
よく、見たら全部、新品やないか。
佐藤
そうです。この道具、ぜーんぶ、給料つぎこんで、買い揃えたんです。
でもね、道具は使い方はわからんし、スマホは電波が届かないし、テント立てたらすることなくて、暇なんですね。
田中
ソロキャンプは、自然の中で焚き火をしながら、何もしないことを楽しむもんや。
佐藤
はあ・・・退屈してきました。
もう、寝ようかな。
田中
全然、人の話聞いてないやん。
めんどくさい奴やな。
まだ、5時半やけど、もう、寝たらいいよ。
はい、おやすみ。
俺は、これから、キャンプ飯にするから。
佐藤
寝ようかと思ったら、なんか、お腹減ってきました。
田中
お、キャンプにやる気になってきたんか。
キャンプで、肉を焼いたり、ご飯を炊いたり、ご飯を作るのもキャンプの醍醐味やな。
それで、何を作るんや?
佐藤
何を言ってるんですか。
ご飯を作るなんて、めんどくさいことしませんよ。
妻にキャンプ行くって言ったら、弁当持って行きーって、このとおり弁当、持ってきました。
田中
奥さんが作った弁当をキャンプに持ってくるって初めて聞いたわ。
それは、もう、小学校の遠足。
ほな、もう、弁当食べて、早く寝えな。
佐藤
田中さん、田中さん。
田中
・・・。
佐藤
田中さん!!
田中
もう、何んや?
佐藤
この弁当冷たいんであっためて貰えますか?
田中
もう、家に帰って、奥さんにレンチンして貰いなさい。
佐藤
それが、帰る家がないんですよね。
田中
えっ、どないしたん。 何で家がないの?
佐藤
妻が新しい旦那ができたからもう帰ってこんといてって。
田中
家追い出されたんかあ。
そら、奥さんの弁当は、冷えてるわ。
お後がよろしいようで。
落語 ソロキャンプ フジセ リツ @sfz
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