転生勇者のナデシコさんは、もうすぐ結婚する! 〜前世が男で勇者でも、気がつけば、今生は幸せ間近のアラサー女子! もちろん相手は男なんだけど、あれ? 婚約、結納、ウェディングドレス待ったなし!?〜
司之々
第一幕 I Love You 愛してる?
1.おかしい!
他になにも存在しない無限の闇の中で、二つの
生命も時間もない、静かな空間だった。
王国も、姫も、人々も世界も、世界を閉じ込めていた魔王と共に消えた。最後に残されたのは、魔王を滅ぼし、それを望んで世界を
「もう……やめよう、ヒカロア……! おまえまで……殺せないよ……っ!」
「
黄金の
短い、くせ毛の金髪に、
長い黒髪と
魔王と、世界を永遠の
限界を超えて存在し続けていた世界は解き放たれ、すでに消え去った。後は……。
「あなたの<
「俺には……できないよ……」
アシャスが、力なく両腕を下げた。
「俺は……守りたかっただけなんだ。おまえや、みんなと……ただ、一緒にいたかっただけなんだ」
「それでもあなたは、新しい世界を望んでくれました」
ヒカロアが、もう一度、
「人間が魔物に襲われ続ける、閉じた
「違う……! 守れなかったのは俺だ! なにが勇者だ、救世主だ……俺が世界を
「だからみんなが、あなたを
「……っ!」
「わかっていますよ。あなたは誰よりも優しくて、強い……そんなあなただから、みんながあなたを愛して、支えて、この瞬間まで
ヒカロアが、<
「みんな、新しい世界であなたを待っていますよ……アシャス」
時間さえ存在しない無限の闇に、それでもわずかな、
アシャスが、目を閉じた。涙は流れなかった。
黄金の
ヒカロアと同じように、アシャスも、<
「おまえ……俺と、
「あなたこそ……いつも素直に、泣いて笑って、子供みたいですよ」
向かい合って、笑い合った。
<
「世界の終わりにただ一人、それでも勇気を
ヒカロアが
黄金と
古い世界を維持していた<
********************
もう闇はなかった。
光に、
そして長い旅の間、二人を
「アシャス……ヒカロア……あなた方に、心からの感謝を
アシャスは、笑ってみせた。
女神の姿は、守れなかった、もう思い出せない誰かに似ている気がして、少し心が
だから最後に、笑って欲しかった。簡単に伝わって、女神が、はにかむように
「そんな、他愛もないことを……。アシャス……他になにか、望むことはありませんか……?」
女神の言葉に、アシャスは少しだけ考えた。
なにもなかった。
泣くだけ泣いて、笑うだけ笑った。走って、転んで、戦って、生きた。思い出と一緒に、このまま消えて行くのだろう。
怖くはなかった。
「新しい世界が……平和で、ありますように……」
それだけを願った。
「
隣で、ヒカロアの声がした。アシャスは、危うく聞き流すところだった。
「え……?」
この空間には、もう時間くらい、存在しているかも知れない。とにかくアシャスの
女神がアシャスを見て、ヒカロアを見て、もう一度アシャスを見た。こほん、と
「大体わかりました」
「え? ちょ、ちょっと……っ?」
「
女神の
宇宙が、星が生まれた。
********************
二十七歳の誕生日の朝、
ぼやけた頭で、ベッドに上半身を起こし、あくびをする。
「変な夢、見たな……」
ニッポンという国に女の子で生まれて、いろいろあったけど、もうすぐ恋人と……そこまで考えてから、アシャスは
思わず、目線が自分の
手で、頭をなでる。やわらかいウェーブの髪が、ちょうどその胸くらいまでの長さだ。
「落ち着け……。俺は、アシャス……勇者で、魔王を倒す旅に出て、それから……」
記憶は全部ある。それこそ、全部あった。
幼稚園の時、友達の若い父親に
中学生の時、ハンサムな不良の先輩とファーストキスをした。ラッキードストライクの
大学生の時、同じ学部の彼氏と初体験をした。思っていたほど痛くなくて安心したが、
認めるしかない。
初恋、初キス、初体験のファースト
「いや、待て! おかしい! どうしてこうなった?」
アシャスは叫んだ。
声が、それなりに高い。叫んだのは
恐る恐る、同じベッドで眠っている
二つ歳下で、高校、大学と後輩だった。ハーブ彼氏とのことも知っていたはずなのに、
それはそれでどうかとも思ったが、まあ、ものは
昨日は、都内の有名ホテルで結婚式場の予約を入れて来た。式は一年後、両家の顔合わせもお互いに事前連絡を済ませて、結納その他もろもろ、がっちり日程表を組んでいる。人生の一大プロジェクトは、もう加速度を上げて動き始めていた。
少し身じろぎをして、
「おはようございます、アシャス……前世からずっと、この時を待っていましたよ」
その表情、その口調。
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