カナリアの魔女は愛をシラナイ

くーらん

第1話 出会い

 新型ウイルスによりパンデミックが世界保健連盟から出され、感染者に後遺症が残るという事が分かり世界中は大混乱に陥った。この中、さらに日本では首都直下地震が起きた事で「東京」全域がマヒするという異例の事態が起きた。

 これにより、「東京」全域が陥没したため、急遽日本地図が書き換えられた。

また東京近郊に住んでいた国民は地方へと流れたため、これ以降、日本国内では大移動が度々新聞に取り上げられた。さらに、失業者が後を絶たず、新型ウイルスと首都直下地震により、さらに貧困層が拡大した。


 東京が陥没した事で日本の政治的機能が消滅したため、政治家と富裕層は「空」へと逃げた。長い年月をかけて制作された「空中都市:東京」に政治・経済・医療・皇居等が移転された。

 「空中都市:東京」は日本の中心になったが、一方で世界各国からはこの空中都市の事を日本の最新技術を搭載した最新兵器であると噂している。


 この空中都市ができたきっかけや日本で1位、2位を争う歴史的大混乱について、200年前に起きた事実である事を俺は高校「社会科」の授業で聞いた。そして今日は、その200年前の文化や生活が根強く残る地域へ社会科見学に来ている。場所は横浜である。

 そして、俺が現在いるここは「横浜中華街」だ。


 初めての横浜中華街は、あたり一帯が見た事のない文化だらけで中国世界と日本の文化が融合している雰囲気が漂っている。一本道にずらっと店が並び、教師・生徒と共に中華街を食べ歩きながら、日本の歴史について語りだす。その中、俺のクラスメイト達は教師と共に足を進めていた。


 しかし、俺にはこの時間がただただつまらなかった。新しい世界をこの目で見ているのにも関わらず、教師からの言葉は新鮮な空気を一気に鬱蒼とさせた。


「えー、ここ横浜では200年前、露店が並ぶのではなく店がたくさん建ち並び、人が今よりも多く、繁盛していた。これを商店街とも言ったのですね。では皆さんに問題です。なぜ人口が減ったのか分かるかね?」


 社会科の中田先生がそう生徒たちに問う。

 すると数名の男子が教師の目をかいくぐって、中華街の路地裏へと移動するのを見つけた。俺もこの長い会話を聞くよりも、彼らのように抜ける方が良いと考え、彼らの後ろをついて行く事にした。この教師たちが話す退屈な話よりも、新しい世界に興味が湧いた。。

中華街の表通りから少し離れた道を10分程進むと開けた場所に到着する。


 そこは壁いっぱいに隙間がない状態で建物が建造されている。昔ながらの東京下町をイメージすると良いだろうか。しかし、その風景をよく見るとベランダの底が抜け、それが使えない場所がいくつもある。


 さらに今いる自分の足元も、首都直下地震が原因で地割れができていた。地盤は不安定で整備されず、不衛生な環境である事が容易に想像できた。

 道の片隅に座る子供はやせ細り、大人たちは俺の事を白い目で見てくる。


 まるでスラム街のような町だった。表通りから少し離れた場所で、この状態なのだ。日本は未だ災害から回復しきれていない。


 この状況の中、霧がかかった前方を歩く、数名の男子たちの悲鳴が聞こえた。普段は遊び惚け、常習犯でもある彼らは教師から叱責を受けようが一切効果がなかったのを覚えている。

 しかし、その彼らが悲鳴を上げたという事は、状況として最悪な事態を示している。とっさに俺は地割れで離れた土地同士を繋げる橋を見つけ、そこに身を隠す。声を押し殺して、上の状況を知るために耳を澄ましていた。

 

 そんな場所で俺は、あの人に出会った。


 「おい、そこにいる少年。ここにいると【死ぬぞ】?」


 髪型はサイドテールで、髪色は赤、上半身は狩衣、下半身がタイトスカートの服装を着ている。そして顔の半分が金属片のようなもので覆われた女性だった。まさかこの人が俺の人生を狂わせる人物になるとは、誰も理解できなかった。


 しかも、彼女は俺の真後ろから突如として現れた。気配を一切感じず、幽霊ではないか・こいつが前にいた生徒たちを驚かしたのではないかと考えた。

 だが、彼女は俺の事を見透かしていたのか、微笑みながらこう言ってきた。


 「私は人間だが、これからここに来る存在は元人間だぞ?」


 「はぁッ!?」


 新しい世界を見たのはいいものの、まさか事件に「巻き込まれる」とは思っていなかった。

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