不運な君と数多の迷宮
柳 慶智
第1話 俺のスキル
――
ある者はそこに眠る宝を求め、ある者はその力を試す為、挑むのだという
迷宮はかつて何らかの理由で人が建てたものとも聞くし、魔王が魔力で形成したとも言われている
迷宮は下へ下へと続くとか、奥へ奥へと続いており、別の大陸へも繋がっているとも言われている。中には上へ上へ上るものだとも言う者もおり、つまり、誰もその由縁を知らぬのだ
だが分かりきっていることが一つある。それは、迷宮とは挑むものであり、迷い込んだのならば、まず生きて帰ることはできないだろう
―――
最後に転んだのはいつだったか。
子どもの頃はよくあったことだが、大人になってからは一大事だ。
❝あってはならないことが目前に迫るあの感覚❞――指先に汗を感じ、つま先が冷え、何とかそれを防ごうとする―たいてい間に合わないが―久々の感覚だ。
ともかく俺は転んだはず…なのだが、尻をついているのは先ほど歩いていた街道ではなく、ゴツゴツとしたがれきの転がる、別の場所だった。
いつものように迷宮から生還し、いつもの街道を通って街へ戻る途中だったはず―あれは夢だったのか?
仮に夢だったとして、俺はなぜこんな何もないただの空間…ここはどうみても迷宮…で寝転がっているのだろうか。
遅れてやってきた背中の痛みと口の中に砂っぽさを感じつつ、がれきのベッドなんていよいよ俺も焼きが回ったか、などと自嘲していると、目の前に光の柱が差していることに気が付いた。つまり天井に穴が開いている。ということは先ほどは夢を見ていたのではなく、迷宮に落ちてしまって気絶していたのであろう。
やれやれ。
まずここがどんな迷宮なのかを確かめないと。そう言って砂を払いつつ、膝に手を当て立ち上がる。何だか永い時間こうしていたような気がする。魔物がいなかっただけ幸いか。こんなことは初めてだ。地上から迷宮に落ちるなんて…ま、落ちたらそのまま戻らないだけかもしれないが。
地上から落ちたのなら浅い層のはずだ。方角は全く分からなくなってしまったが、すぐ上は地上だ。それだけでも気が休まる。落とし穴の罠に落ちたことは何度もある。今回もそんなもんだ。そう自分に言い聞かせ、あたりを見回す。どこかに出口があるはずだ…ここは街道の真下。とっくに誰かが探索済みで目印もあるだろう。
彼の名はギルバート。持っているスキルは、《不運》だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます