側妃達の嫉妬 その2

側妃レメディオスは眉間に皺を寄せながら下唇を噛む。


記念式典に参加させて貰えなかった件を、招待客としてやって来た父であるビュール王に咎められる。


そんなモノ仕方ないだろう!と父をなじりたかったが、ただ黙って聞いていたのだ。


ちなみにビュール王はあの騒ぎの時に逃げ出した為に、サヴェリオから不興を買う結果になった事もだ。


ビュール王は一国の王とはいえ、はっきり言えばウルム国内の貴族のよりも立場が低い。


レメディオスは夫であるサヴェリオにも、父に対しても...そして急に現れたエステルに対して強い怒りを胸に秘め、耐えるのだった。




「ああ...忌々しい」


レメディオスは父が戻って行った後、一人で自室に閉じこもる。


確かにサヴェリオの子を産んだ事で、不自由無い生活を送らせて貰ってはいた、正直なところ自国にいた時よりも贅沢な暮らしが出来ている。


美しい愛らしいと呼ばれたビュール国の姫、大国の王の妃と父から聞いて輿入れしたが、実際は側妃の一人でしかなかった事が彼女のプライドを傷つけ、そして子を為した後、全くサヴェリオが関心を示してくれない事もまた傷つけられた...


その上でエステルがサヴェリオの寵愛を受けるならば自身の立場がより一層悪くなる。


そう思えば居ても立っても居られなかった。



その一方でグラフィーナも同じように苛立っている。


彼女には確かに男子が産まれており、このまま王妃フォルトナータが男子を産まなければ、自身の子が次代の王となる。


ただ見た目がウルム王族とは違い自身に似た色を持つ為に、血統主義派の連中に睨まれている。


王子は間違いなくサヴェリオの子で、色以外はとてもよく似ているのだ。


王妃の子の件でもやきもきしているのに、ここへきて大きな『敵』が現れる。


隣国エアヴァルドの預言者エステル。


リンダウ国で信奉されているベール神を『蠅の王 ベルゼビュート』と呼ぶトラウゴット教の女預言者だ。


そしてサヴェリオはウルムの国教をあろう事かトラウゴット教にすると言ったのだ。


これでは大々的に自身の神を祀る事すらできなくなる...場合によっては迫害もあり得るのでは、と思うのだ。


それは許せない、とグラフィーナは自室にあるベール神の像へと向かう。


その偶像は黄金で出来ており、二本角の兜を被り、その手には棍棒と槍を持つ男神。


「ああ、どうか豊穣の神...ベール神よ...」


グラフィーナは像の前に跪き祈るのだった。


あの女預言者エステルに罰をと...




エステルはサヴェリオの近くでウルム貴族の何人かとずっと談笑をしていたその時、何か邪悪なモノが蠢いていることを肌で感じ取る。


先程あの悪魔サロスを倒したばかり...いやだからそれを狙ったのか、とエステルは頭を過ぎらせる。


「陛下...少し席を外しても...」


とサヴェリオに声をかける。


「エステル、疲れたのか?」


「いえ...『邪悪な気配』を感じたので一時集中したいのです...」


「...部屋まで連れて行こう」


「いいえ...ただ陛下にはより厳重な警備を指示なさって下さい」


サヴェリオが言うが、エステルはそれを断り別の事を頼むとマキシムへ顔を向ける。


「マキシム、ディビッド達にも声をかけた後に私の元へ...」


「はっ」


マキシムはエステルの命令を受けて3人に声をかけに行く。


「一体何があるのか?」


「...近いうちに悪魔が現れるやもしれません...」


「そうか...」


「先程の陛下の親族が王宮へ入った事によって『明けの明星』のつけ入る隙が出来てしまったのやもしれません...では」


エステルはそう言って去っていく、部屋に戻り集中しこれから何が生じるのかを『見る』為だ。


ただ、エステルとしては予想は付いている。


預言として見えていた『悪魔ダンダリオン』の復活を...

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