王宮にて その4
「だから私は分かっちゃうから...陛下と私は共になれないの...分かっ...!」
肩を掴まれ、唇に柔らかいものが当たる...
サヴェリオがエステルに無理矢理抱きつき唇を奪ったのだ...
エステルはサヴェリオを突き放す。
「なんで...」
目は見開き、顔は真っ赤で耳まで赤いエステル。
「私は其方が欲しいと思ったからだ、そこをどうにも理解していないから言葉では無理だと思ってな」
サヴェリオはじっとエステルを見つめる...そのアイスブルーの瞳はただ愛する一人の女性を見つめるものだった...
エステルは逃げる様に寺院へ走っていってしまう。
「...またここへ来ますから」
サヴェリオは落ちた矢車草2本を拾い上げそう呟く。
その約束は果たされる事は無かった...エステルが言った通りの出来事が起こった為に。
...そう、ダンダリオンにより王の血縁者...王位継承権を持つ者達が全員...サヴェリオ以外全員死に絶えたからだ...
『この先陛下にとって悲しい出来事が起こるけど、それは陛下の手で止める事になる...それを乗り越えて陛下は国王となるわ』
エステルの言葉を思い出されながらダンダリオンを封じ、国王として即位し自身の地盤を磐石なものにするために、まだ15にもならない公爵家の令嬢を王妃に据え、隣国から2人側妃を迎える事になったのだ...
そして今、側妃から産まれた王子と王女が1人ずつ、王妃が最近になって妊娠した...エステルの言う事が正しければ王子が産まれる筈である。
...あくまでも『子を成す為』に王妃達を抱いたのだ...
そういえばエステルが『私と結婚したって種馬でしかないわよ』と言ってたが、妊娠した王妃の姿を見てあまり変わらないでは無いかと苦笑した。
ー
「今度は何を伝えに来てくださったのだ?南の国の偉大なる預言者エステル」
「今日はお願いに来たのよ...アルカンタル侯爵家のバレンティナを私の弟の為に欲しいの...彼女は『ハイラント』に繋がる母の一人になるのが決定しているから」
「話は聞いている...『白の射手』はとてもご執心らしいからな」
そう言ってサヴェリオはエステルに近づく...
「盟約により弟は10の数の悪魔を滅ぼしたのよ...そのくらい許してくれないかしら...釣り合う立場にさせるくらいならどうとでもできるし」
「ほぅ...まぁあの者には更なる報酬を与える予定だったからな...」
「...なら」
「...条件がある...南の国の預言者エステル...」
そう言って耳元でサヴェリオはエステルにその条件を囁くように語る。
「!」
エステルはその条件を聞き真っ赤になる。
「即位10周年式典には其方宛にも招待状を出す...」
サヴェリオは微笑を浮かべながらエステルを見つめる...その瞳はあの時と変わらないままの熱の籠ったままの瞳。
...そう13年経ってもその気持ちは変わってなど居なかったのだ...だからエステルの弟ディビッドには格別の親愛を持って接した...
盟約の始まりの賢者の姿と同じな点や悪魔を滅ぼす力も魅力的だが、あまりにその顔や立ち振る舞いがエステルに似ていたために...
「分かったわ...約束を守るなら...」
そう言ってエステルは...オカメインコの姿に戻りバルコニーから外へ...空へ飛び立って行く。
その姿をサヴェリオはずっと見つめていた...心を奪った唯一の女エステルの姿を...
サヴェリオのテーブルの上には一冊の本...トラウゴットの聖典...そこからちらりと見える栞。
それはあの時摘んだ矢車草...薄桃色と薄紫色の二輪を押し花にし、栞に加工したものだった。
ー終ー
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