Quiet talk3:Frauen Church

ディビッド少年 その1

久しぶりに懐かしい夢を見ていた...きっとティナに孤児院時代の話をしたからかもしれない。



「ディビッド!ディビッド!この悪戯っ子め!何処に行った!」


浅黒で髪の薄い恰幅のいい60歳くらいのお爺さん司祭ナサニエルは、一番年下のディビッド少年を探していた...


理由はナサニエルの司祭服のポケットにトカゲを何匹か入れた悪戯を叱る為である。


司祭ナサニエルのそんな姿を礼拝所の椅子の下に隠れながら悪戯の成功にニコニコしている可愛らしい9歳くらいの小さい少年がいた。


肌はロストック人と違って白く髪も茶色、何より目立つのはその紫色の瞳である。


白い修道士のローブを着ており、一応修道士見習いという立場にいる。


ディビッド少年はいつもニコニコと優しげな少年であるが、心を開いた人物に悪戯を仕掛けたりする所があった。


特に父親役でもある司祭ナサニエルに対しては一日一回は悪戯を決行し、最後怒られて終わるのだ。


今になって思えば、ディビッドは寂しかったのかもしれない、何せ彼は孤児であり親兄弟も居らずロストック人の見た目とはかけ離れている。


ディビッドは上手く年長のお兄さんお姉さん達に立ち回り可愛がっては貰えたが、何処かよそよそしさがあったのだろう、しかしナサニエル司祭は見た目など関係なくディビッドに接してきた。


それにナサニエル司祭は叱ると言っても結局は許してくれる、ディビッドが甘えたいという気持ちの裏返しなのだろうと思っていたからだ...まぁ大勢の子供達を育ててきた分そう言う所は目敏い。


ナサニエル司祭が礼拝所から出て行くのを見計らい、椅子の下から這い出す。


「行っちゃったかな?」


ローブについた砂をパンパンと払う。


そして礼拝所のステンドグラスを見る...ここフラウエン教会の礼拝所のステンドグラスは国宝にも指定された素晴らしいものであり、聖典に書かれている聖サンソンがダガンを倒す過程を描いたものである。


しかし一番大きな絵柄だけは違う、サンソンが亡くなり500年後、ハイラントの祖となる預言者の少女が神罰『裁きの鉄槌』にて聖サンソンの全盛期の姿の幻影を出現させて復活したダガンを永遠の滅びに至らせた図案である。


ディビッドは意外にも信心深く、不思議とその大きなステンドグラスに惹かれるものがあった...だから進路を聞かれた時に薦められた術士として勉強する事を断り、フラウエン教会の司祭になる為に修道士見習いを始めたいと希望し今がある。


ただまだ9歳の為、併設された学校での勉強が優先され、安息日の時に手伝うくらいの奉仕しかしていない。


「È qui?」


聞いた事の無い言葉が聞こえたから振り向くと、そこにはディビッドより小さい、5、6歳くらいの可愛らしい女の子が立っていた。


可愛らしい水色の花柄のスモックワンピースを着た女の子で、肌は白くピンクダイヤモンドの瞳に綺麗なミントグリーンの長い髪とこの辺では珍しい見た目の子だ。


片手にピンク色のうさぎのぬいぐるみを抱いている。


「君、迷子なの?」


「Questa è una cappella?」


言葉が通じない、困ったな...とディビッドは腕を組む。


それにしても可愛い子だな、ロストックでは見たことの無いタイプの子...華奢でまるでお人形さんのよう。


その子はディビッドを見上げ何か話かけるも、言葉が通じない...でもステンドグラスを指差し喜んでいる所を見るとなんとも微笑ましい気持ちになる、可愛いなぁと思うのだ。


孤児院では現時点だとディビッドより年下の子は居ない、大概孤児として預けられても養子にと直ぐに決まって新しい家族の元に行くからだ。


ただディビッドは見た目がロストック系で無い為かなかなか養子の話は出ない...本来なら紫色の瞳なんて賢者レベルの術士になる可能性があるのにだ...普通ならそんな子が産まれれば喜ぶものなのに。


しかし裏を返せばそれだけ人に言えない関係から産まれた子供だと考えられる...しかも貴族や高位術士の家系のだ...だから倦厭され残ってしまった所もある。


それを察してかディビッド自身も術士になる事よりもフラウエン教会の司祭として、一生神に奉仕する生き方を選ぶ事にしたのだ...術士になった先、知りたくは無い真実を知り自身が傷つきたくないから。


ディビッドはほぼ末っ子同然の生活からか、小さな子が居ると自分がお兄さんになった気持ちになるのか、すぐに構いたくなるのだ。

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