ブラッディヘッド シルヴィオ その2

エマヌエーレ・サヴェリオ=ウルム国王陛下は、歴代の王達以上に悪魔を憎んでいる。


10年前の話であるが、国民には詳細は知られてはいないが、王位継承権争いで本来継承順位5位の腹違いな末の弟が彼の母により『悪魔ダンダリオン』を受肉させられ暴走し、血のつながりのある兄弟同士で殺し合いが起こったのだ...王位継承権を持っている王族で残ったのはダンダリオンを自身の術式で討伐し封じた、当時軍部の元帥だった継承順位第3位のサヴェリオ陛下だけだったのだ。


サヴェリオ陛下の瞳はアクアマリンの様であるが、怒りを表すと『赤が宿り』紫色に変色する、そのため彼はアークメイジとスペルソードをマスターし賢者の称号も持つ高位術士でもある。


腹違いとは言え親しくしていた弟を悪魔と共に離宮の奥深くに封じ、その母を悪魔を復活させた大罪人として断首刑にかけ...サヴェリオ陛下はその血塗られた王座に座す事になった。


軍属であるサヴェリオ陛下の策略で血を持って王位を奪った...と言う者もいたが、真実を知っている上位貴族達や側近は絶対にそうは言わない...誰よりもこの事態を深く悲しんだのはサヴェリオ陛下本人だからだ。


だから悪魔を憎んでいるのだ...そして『英雄の盟約』によりやって来た、上級異端審問官...特に悪魔を滅びに至らせる『白の射手』には特別な情すら抱いているのだ。


子供時代読んでいた伝記に書かれている事は真実であり、そしてそこに書かれている人物に容姿の似た青年こそ、陛下自身が望む悪魔の滅びを与える事ができる唯一だからだろう。


シルヴィオは知っている。サヴェリオ陛下が悪魔を討伐した証である、書き板のかけらを見ては喜ぶのだ...そしてこうも言う...


「あの力、我が国のモノになれば良いのだがな」


あくまでも『彼等』はエアヴァルドとの盟約があり、派遣されている存在である、いつかは国へ帰る事になるのだ。


もしや陛下はエアヴァルドを...トラウゴット教があるバーレ、いや『白の射手』自身を自らの手にする気なのか?と思う時もある...。


「はは、余は戦争なぞせぬよ、そんな顔をするなシルヴィオ...」


「陛下の冗談は冗談に聞こえませんよ」


そんな会話をするも、何処か本気では無いか...とも思えるのだ。


そんな話があって妹バレンティナの例の恋人こそが『白の射手』だと言うではないか、こんな面白い話もない...まぁ手が早いのはいささか気に食わないが。


「縁...いやそれこそ『因果』なのかもな...」


陛下に教えられた事実...御伽噺程度と思っていたこの世界はトラウゴット教の神が創造し、悪魔リュシフェルが人を堕落させ、堕天...いや悪魔を地にばら撒き混乱を引き起こした世界であり、いつかその元凶たるリュシフェルを倒す為に産まれるハイラント(救い主)の祖は、それこそ妹バレンティナの様な翡翠色の髪と薄桃色の瞳をもった少女だったという。


そう...13年程昔、まだシルヴィオが10か11になったばかり、バレンティナが5歳くらいか、信心深いトラウゴット教徒のお婆様が生きてた時、バレンティナが翡翠色の髪と薄桃色の瞳で産まれて以降どうしても見せたいと言って、エアヴァルドへロストックの巡礼に連れて行って貰った時、あのフラウエン教会でバレンティナはずっとあのステンドグラスを見つめていた姿を思い出す。


聖サンソンが悪魔ダガンを倒す過程が描かれたものだが、一番大きなものだけはその趣旨が違うという。


それは封じられたダガンを永遠に滅ぼした時の絵...そこには1人の翡翠色の髪の少女が全盛期の姿である聖サンソンの幻影を呼び出し、裁きの鉄槌をくらわせた図である。


その少女こそハイラントへ繋がる祖、初めて悪魔を滅ぼす事ができた存在だと、祖母は良く話していたのを思い出す。


「あの女の子、私とおんなじ髪の色だわ」


幼い妹は笑顔でその翡翠色の髪の絵の少女を指差しする...その時どこに行ったのか探し回ってヒヤヒヤしたものだ。


確かその時そこの白いローブを着た、修道士見習いの少年が妹と一緒にいたのを思い出す、きっと迷子の妹を見ていてくれていたのだろう、クッキーを食べさせていたな...


そういえば茶髪だったが...まさかな...本当なら出来過ぎてるとシルヴィオは鼻で笑う。


「お兄様?どうされたの?」


「いいや、ちょっと昔の事を思い出しただけだよ」


食事中にそんな昔の事など思い巡らすなんて妹に失礼か...とシルヴィオは食事を楽しむ。


「美味い!やっぱりティナは料理が上手だな」


「ふふ、世の御令嬢らしくないけどね」


そんな会話をしながら夕食の時間を過ごした。


明後日にはベルガモに急いで戻ってポンコツな父が何かやらかしてないか見なくては...とも思いながら。


ー終ー


────

※ダガンを倒した話そのものは、預言者エルマの5章のラストです。気になる方はぜひそちらもどうぞw

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