嫉妬深い恋人 その2

そんな中、憲兵達がやって来たのか辺りが騒がしいわ。


そう思っている間に何人かの軍人を引き連れてやって来たその姿に一同目を疑う。


年は40手前程で、銀髪をオールバックにし、アクアマリンのような瞳はその色に反してとても強く、放つ強いオーラは高貴な方を連想させる。


そして金の杖を持ち白の軍服を着る事のできる方はウルムではただ一人...


「サヴェリオ国王陛下...」


全員が跪き深く頭を下げる...ウルムの国の頂点に立つお方、エマヌエーレ・サヴェリオ=ウルム国王陛下がそこにおられる!


「陛下...何故この様な場所に」


「はは、お前が妹を攫われ暴れていると聞きつけ、余も助けてやろうとこの様に兵を連れてやって来たが、どうやら先を越されたようでな」


「なんと!」


「余とお前との仲ではないか...はて、そこの赤毛に染めた者...エアヴァルドのマキシマム殿下では?」


マキシムさんは顔を上げるわ。


「はい、サヴェリオ陛下...お久しゅう御座います」


「今日このような場所にいると言う事は例の件でか?」


「はい、『禁呪の書き板』が出回ると聞きつけまして」


「そうであろうな、ふふ...所で今日は例の者は居ないのか?」


「もうすぐ此方にやって来ると思います...何せ先程悪魔を討伐したばかりでして」


「ほう!そうか!と言う事は受肉の媒介になった者もいると言う訳か」


その言葉にダリオがぶるりと震える。


「陛下...申し訳ございません...陛下に忠誠を誓った兵士でありながら、悪魔の甘言に唆され...」


「ダリオ...お前」


ダリオが真っ青になりながらサヴェリオ陛下へ自身が悪魔グシオンの受肉の媒介になった事を伝えるわ。


「...ほう...その件詳しく...」


サヴェリオ陛下は怪訝な顔をしダリオを見ている...特に陛下は悪魔に関して深い憎しみをお持ちの方でらっしゃるから。


「陛下...ダリオ モルディードには避ける事の出来ない事態がございまして...」


「余はモルディード子爵に聴いておる」


「失礼致しました」


お兄様がダリオを庇い立てようとするけど、陛下がそれを許さないわ...


「受肉したという事は一時でも、その力に魅了され

手を出したと思って良いのだな?」


「サヴェリオ国王陛下、どうか私の話を聞いて下さい!ダリオはあの『明けの明星 リュシフェル』により無理矢理受肉させられたのです!」


「ん?シルヴィオの妹か...」


「はい...アルカンタル侯爵家のバレンティナでございます...兄とモルディード卿は私を助けにやって来た際、運悪くあのリュシフェルに遭遇し、最初兄に狙いを定めましたが兄はそれを跳ね除け、結果モルディード卿を選び無理矢理ねじ込んだのでございます、私は以前悪魔ゼパルと化した大犯罪人エスタバンに攫われた際、あのリュシフェルと対峙致しましたので間違いありません」


「明けの明星...忌々しい悪魔を解放する大罪人をか」


「はい」


そんな会話をしている間に後ろから足音が聞こえてくる。


「ティナ...貸しです...今夜は帰しませんからね」


後ろで耳打ちするその声...ディビッド!


「サヴェリオ国王陛下...お久しぶりです」


ディビッドは私の前に立つと、深々と陛下に頭を下げるわ。


「おお!『白の射手』ではないか!」


陛下の機嫌がとても良くなるわ。


「先程、悪魔グシオンの討伐に成功致しました...これが証拠となります」


ディビッドは禁呪の書き板のかけらを入れた皮袋を陛下に渡したわ!


「確かに...これで8体目か...流石あの英雄の盟約に書かれているマテウスの息子の血筋だけある!」


受け取った皮袋からかけらを取り出し、とても嬉しそうに陛下は見つめるわ!


「長年にわたり代々ウルムを治める王達の悲願...二度と悪魔が復活しない世界を願うのは、我らもトラウゴット教徒でもある貴公等も同じであろう?」


「ええ...そしてハイラント(救い主)誕生を持って『明けの明星 リュシフェル』の頭を砕き滅ぼす事...それが我々の悲願でもあります」


「ああ、聖典の一節の...そうだ『ハイラントは4人の騎士を引き連れて、リュシフェルの頭を砕き滅ぼす』だったか?」


「そうでございます」


「子供時代にマテウスの伝記と並んで良く聖典のその節を好んで読んだものよ」


「そのリュシフェルは人の醜い感情を好み、それらを悪魔の受肉の媒介として選びます...しかし今回はリュシフェルが当初望んだ相手ではなく、この男を『仕方なく』二番手として選んだのです」


「ふむ?」


「リュシフェルは『仕方なく』、『ダリオ モルディード』を選び『無理矢理』悪魔グシオンの受肉の媒介と選んだのです...そう...悪魔に魅了されたのではなく『仕方なく』です」


「つまり、モルディード子爵には一切の責は無いと申すか?『白の射手』よ」


「そうです...何せ『仕方なく』ですから」


ディビッドはニヤリと笑っているわ。


「はは、ならば仕方ない!モルディード子爵、貴公に責は無い、安らかに過ごせ」


「陛下...ありがとうございます...」


陛下の恩赦にダリオは深く頭を下げるわね。


「では我々はこれにて失礼致します」


そう言ってディビッドは私の腰に手をかけて、その場を去ろうとする。


「ディビッド!私はお兄様達を」


「次期アルカンタル侯にはこれから更に『仕事』があるので一緒には戻れませんよ」


「え?」


「それに言ったでしょ、今夜帰しませんから」


その瞳はいつにも増して赤が強く感じる...しかも声が怖いわ...怒ってるの?

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