悪魔グシオン その1

『外に出した!行くぞ!』


「はぁ...賢者の称号得られる程に頭が良いのに、何でやる事が脳筋なんですかねぇ...まぁ仕方ない、マキシムはここに居る連中の誘導をお願いします!」


「分かった!」


「ディビッド!」


バレンティナがディビッドに駆け寄る。


「ティナ...ティナはお兄様を連れてマキシム達と逃げて下さい...今からここ一帯は戦場になりますので」


ディビッドはバレンティナをぎゅっと抱きしめる。


「私は死にませんから...」


そうディビッドは笑顔を浮かべてから、抱きしめる腕を解放し、上を見つめる。


ピッピちゃんがバレンティナの肩に止まる。


「ギャ!ギャ!ティナちゃん!」


「ピッピちゃん!」


「ギャ!お兄さん達を動けるように回復させるギャ!」


ピッピちゃんが床に降りるとふわっと光り輝き、女性の幻影が現れる...その姿はアルトマイヤー寺院に居ると言われている、数百年に一度現れる預言者エステル...生贄の娘の姿であるミントグリーンの髪は肩まで切り揃え、ピンクダイヤモンドの瞳の印象的な美女、白と青のローブを纏ったその姿は神聖な雰囲気を醸し出す。


『創造者にして忠節なる神(トラウゴット)...罪人にも公平に愛を示して下さる方よ...どうか全ての人々に癒しを』


そうエステルが祈りの言葉を述べると一帯が光り輝き、傷ついて倒れている人々が回復されていく。


「痛みが...」


「...奇跡だ...」


そんな言葉が聞こえ、エステルの奇跡的な姿に畏れ慄き平伏していく。


『悔い改め罪を償う為にもここをお逃げなさい、さぁ異端審問官達、誘導を』


周囲の人々にそう優しく語りかけると、その言葉に従い次々と会場を後にする。


「綺麗だ...」


満身創痍から回復したシルヴィオはエステルの姿に釘付けになる...


『ティナちゃんのお兄さん、さぁここから逃げて!ほらマキシム2人を頼むわよ!』


「はい!」


マキシムはぼんやりして動かないシルヴィオを肩にかけて移動する。


「さっきの美女は...」


「預言者エステル様だ...この世界で誰よりも神聖な方...神の愛し子だ...お前エステル様に惚れるなよ...」


「エステル...様」


「...まぁいい...逃げるぞ」


マキシムはシルヴィオの表情を見て、これは「落ちた」な、と微妙な気持ちになりながらも、引きずりながら運ぶ。


エステルはピッピちゃんの姿に戻ってぴょん、とバレンティナの肩に乗った。


「ギャ!ティナちゃんも逃げるギャ!」


「そうね」


バレンティナは振り向く。


「無事に戻って来てね!」


「ええ!」


手を振りバレンティナを見送った後にジョナサンの方を向く。


「ジョナサン、マキシムの代わりに援護頼みますよ」


『ああ』


ディビッドの元に数人の異端審問官がやって来て、司祭服とその下に着るレザーベスト、特別製のブーツを用意する。


それを受け取りブーツを履き替え、ベストを着た後、さっと司祭服を羽織るとその表情はガラリと変わる、その顔は神の代理で悪魔を打ち砕く者...上級異端審問官の顔である。


「上級異端審問官『白の射手』ディビッド ザイオン バーレ、今より悪魔グシオンを討伐する!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る