贄の後
きっとアクセサリーを作る工房として使用されていたその場合には沢山のハート型の石が散らばり、10人の人間の死体が転がっていた。
「...やられたか...」
「きっと恋愛成就のお守りに力を込めたいとか思ってアスタルトの禁呪の書き板を入手して使っている内に乗っ取られたんでしょうね...」
死体はそこで働いていた従業員達であろう...全員が心臓を抜かれており、苦悶の表情だった。
「哀れですね...きっと何も知らずに...」
そうディビッドは言って1人1人の顔に手を当てて浄化を始める...顔は安らかに変化し血の汚れは消える。
「さぁ皆さん遺体を丁寧に処置してください、マキシム、何か手がかりになるものを探しましょう」
「ああ」
アスタルトの封印式が解放されていたのは数年間の時点から分かっていた事だったが、実際受肉までに至っておらず、書き板の持ち主探しをウルム側がずっと探していたがそれが数時間前に受肉という最悪の結果に至ったのだ。
禁呪の書き板には悪魔自身の意思があり、悪魔が自身の受肉の媒介として相応しい肉体を手に入れる為に書き板の姿のまま持ち主を次々と変える事は良くある事でもある。
「心臓は受肉して真の力を手に入れる為の贄...完全に復活してますね...あとは受肉の媒介である肉体は一体...」
「ディビッド様、従業員だけじゃなくてここの経営者も犠牲になってますね...」
異端審問官の1人がそう言う。
「従業員か...それとも赤の他人なのか...まぁまずここで働いていた人物を全部洗って確認する所からですかね...」
散らばるハート型の石を一つ拾いまじまじと見つめる。
「人の恋心を他の力で左右させるなんてあまりいい気がしませんね...」
ディビッドの指に力が入ると石はひび割れ粉々に砕け散る。
調べを尽くした後にはこの工房は浄化した後悪魔崇拝者が気付く前に燃やしておかなくては...またヨベルの儀式を行う場所が増えた事にディビッドはため息を吐く。
「ディビッド!従業員の出勤リストがあったぞ!」
マキシムが出勤リストの紙を持って来たのでそれを共に覗くと従業員の欄にチェックか斜線で印が付けられている。
「チェックは出勤、斜線は休みって所ですかね...最後の日は今日...出勤が10人で休みだった生き残りが数人いますね」
斜線部分を指差し数えると4人休みだったようだ。
「出勤が10人...いや経営者が居たから11人ですね...つまり1人いない、その人物が受肉に選ばれたか...」
「亡くなった方々の顔のスケッチをとって生き残りに聞いてその居なくなった1人を特定しないとな、じゃあここの従業員の聞き取りは俺がウルム側の憲兵達に頼んでおく...何だかこの件お前が狙われているんじゃ無いかと気がかりだ」
「?」
「自覚しろ!このモテ男め!これだからこの天然イケメンに人前に出る仕事なんてやらせない方が良いって言ったのに...まぁその事は兎も角、お前が無駄にウルムの王都の女の子達の憧れになってしまった所為でこの散らばった『恋愛成就のお守り』手に入れてお前に度を過ぎたアピールし出しているんだ、もしまた例のストーカーの件のようにバレンティナ嬢が巻き込まれて何かあったらどうするつもりだ?」
「それは...」
「お前の事なんて俺はこれっぽっちも心配はしてないがな!お前に一般人が敵うわけ無いからな...ただお前の周辺にいる人達に何かあってはだなぁ」
「分かってます...」
ディビッドの俯く姿にマキシムが驚く、こんな反省してるの大昔に悪魔共に半殺しにあった時以来じゃないか???とマキシムは思う。
「え!...反省してるのか????まさかいつも人の言う事聞いてるのかどうかも怪しいお前が????」
「反省くらいしますよ...」
ディビッドはティナが怪我した姿を思い出す...白い背中には割れた陶器やガラスで傷がついて血が流れ、打撲の痣が痛々しくてこの傷を生じさせたストーカーに対して殺意すら感じる程だった。
それと同時に二度とこんな目にあわせないと思ったのだ...可愛い花嫁、ディビッドの唯一。
「...恋は人を変える...か...」
そんな姿を見てぼそり...とマキシムは呟いた。
「だから私が囮になれば良いって事ですよね!」
「は????」
「そんなに惹きつけると言うなら惹きつけてやりますよ、そして炙り出してやりましょう...悪魔アスタルトの目的が私だと言うならね」
ディビッドはニヤリと笑を浮かべる、それを見てマキシムはただただ兜越しに呆れ顔になった。
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