生贄の娘


「悪魔崇拝の後ですね...ゼパルの封印式が解かれて禁呪の書き板が無くなってます」


とある場所の薄汚い地下でディビッドは眉を顰めながら呟く。


数人の異端審問官と共に確認するとガラスの破片の様に破られた封印式の周辺は頭部の無い女の遺体がゴロゴロと転がっていた。


封印式の破片を集め、内容を読み解く。


『封印されし愛欲の神ゼパルの契約、封印の解放に乙女の頭を純潔を10体、バーレの王の娘の純潔をもって真の力を解放せん』


ディビッドは古代ウルム語で書かれた封印式の内容に眉を顰める。


「丁度遺体が10人分ですね...しかも全員犯されている...可哀想に...」


異端審問官の1人がディビッドに言う。


「バーレの王の娘...『生贄の娘』...か...」


ディビッドはティナの顔を思い出す...生贄の目印である薄桃色の瞳と緑色の髪の乙女の姿を...


哀れな娘たちの遺体を丁寧に回収された後、1人ディビッドは跪き目を瞑り右手を胸に当て祈りを捧げる。


『創造者にして忠節なる神(トラウゴット)...どうか哀れな娘たちに安らぎを...』


そう言葉を発するとディビッドの周辺に柔らかい光が発せられる...浄化が始まる。


周辺に散らばった血や体液は浄化され空気も澄んでいく。


「神に感謝致します...」


浄化を行わなければ悪霊などが潜む様になるため無念の思いを浄化しなくてはならない...しかも一度でなく7年をかけてヨベルという浄化の儀式を行わなければならないのだ。


そして娘たちの遺体は焼いて浄化を行った後で封印と共に墓に入れなくてはならない...悪魔に蹂躙されてしまったからだ...悪魔崇拝者の中には贄になった女の遺体を好む輩も多い為だ。



「...悪魔共め...」


アメジストの双眸は悪魔に対する憎しみを孕んでいた。


地下から外へ出るともう日が陰り、空はうっすらと月が見える...


ピッピちゃんがディビッドが戻るのを待っていたかの様に空から飛んでやってきて、肩に止まる。


「ギャ!ギャ!ディブお疲れ!教会に行くぞ!ギャ!ギャ!」


「...ピッピちゃん...いえ姉上、さっき邪魔したでしょ?」


「ギャ!ギャ!当たり前!婚前交渉なんて以ての外!エッチ!スケベ!なまぐさ!ギャ!ギャ!」


ピッピちゃんはただの伝書をしてくれるオカメインコ?ではない、ディビッドの姉であるエステルの目であり口でもあるのだ。


ただピッピちゃん自体の自我もあるため基本片言でしか喋れない。そのため、ピッピちゃんに手紙を持たせるのだ、手紙にこの場所が見えたから探せと...


「...ピッピちゃんを何処かに閉じ込めてから行動を起こさないと...いてて!」


ピッピちゃんはディビッドの頭に乗っかり突き始める。


「ギャ!何を企んだ!」


「何も企んではいませんよ...ピッピちゃん...」


ピッピちゃんを...正確には姉エステルをなだめながら教会へ向かう...まだ仕事は終わってはいないのだから...

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る