第9話「新しい人生」

 俺達はバリオスに乗って急いでその場へと向かった。

 そこにいたのは、シルバーウルフの群れだった。


 シルバーウルフは前世の狼とサイズは変わらないが。

 牙と爪がとても鋭い茶色い魔物だ。


 五体のシルバーウルフの群れ。

 何故か一人でいる、

 の女の子を囲んでいた。


 その女の子は全く抵抗をしていなさそうだった。

 身体は傷だらけで、顔には大火傷があった。


 そして、囲んでいたシルバーウルフの群れは、

 ジリジリと詰め寄った。

 一斉に女の子を襲おうとした。


「──やばい────やばいぞ!

 〝魔力盾シールド〟!」


 障壁が女の子を守り。

 シルバーウルフの攻撃を防いだ。


 だが、女の子は全く、ビビりもしていなかった。

 その場から逃げようともしていない。


「倒すよ!! 〝突出氷柱ヒャダル〟!」


 セナの氷魔法から無数の氷柱が地面から突き出した。

 突き出した氷柱はシルバーウルフの群れを突き刺し、

 絶命させた。


 俺はすぐに走り出し。

 女の子の所へと向かった。


 無事でよかった。


「──大丈夫か?

 すぐに治すからな 〝慈愛光ヒール〟!」


 初級光魔法のヒール。


 俺の治癒魔法で女の子の身体の傷は消えた。

 だが、顔の大火傷はそのままだった。

 女の子は身体の傷が癒えたのに、無口で呆然とそこにいた。


 ──ぼっとしてる。

 精気が全く無い。


「どうしよう……魔物が怖かったからだよな?

 大丈夫だ! 魔物はセナが退治したから。

 でも、この顔の火傷どうやったら治せるんだ……?

 この子、とても綺麗なのに、もったいない」


 女の子の腰まである青髪は、

 草原の風に揺れとても美しく。

 大火傷していても。

 ハッキリと分かる綺麗な目鼻立ち。

 俺は咄嗟に言葉がこぼれた。


 その言葉にハッとした女の子の顔が一瞬。

 見えた様な気がした。


(どうして? 

 顔は大火傷で綺麗かどうかなんてわからないのに。

 何故……? この人は…………)


 セナはその言葉を聞き。

 少しほんの少しむすってした顔で、

 俺を見ながら教えてくれた。


「僕を治してくれた魔法を唱えて。

 きっと治せると思うよ!」


 そうか、あの時の魔法か。

 セナはこの魔法を初めて見たらしい。

 俺のオリジナル魔法みたいだ。


「わかった! やってみる。

 修正光ケアル!!」


 治癒魔法で女の子の顔の大火傷は消えていった。


「────やった!! 綺麗に治った」


 女の子は自分の顔を手で触れていた。

 女の子は治癒魔法をかける前と、

 雰囲気は全く変わらなかった。

 たが、想像していた以上にとても美しい顔だった。


「やっぱり、この子、美人だな!」


 本当にこの子、可愛いな。

 肌すべすべで美少女だ。


 不意打ちの言葉に女の子はキョトンとしていた。

 一方────

 その言葉にセナはむくれていた。


「ふ〜ん美人なんだ。ふ〜ん」

「ありがとうな! セナのおかげだ、助かった」


 セナはわかりやすく、すぐに機嫌を直した。


「その俺はタクロウで彼はセナ。クエストが終わって。

 今からビニ町にとりあえず帰るところなんだ!

 君の名前を教えてくれないかい?」

「……」


 女の子は俺の言葉になにも言わず。

 こちらを見ている。

 俺は再度言う。


「知り合いとか近くにいるのかな?

 もし、よければ送って行くけど、どうかな?」

「………」


 女の子は静かに……

 なにも言わず首を横に振った。


 俺はそれを見て。

 ほっとけない、ここから連れ出そうと考えた。


 事情も知らずにお節介な事を言っているのかもしれない。

 だが、俺の気持ちが勝手に言葉を紡いでいた。


「とりあえず町に戻るけど、一緒にくる?」

「………」


 俺の問いに女の子は首を縦に振る。

 俺達はビニ町へと帰った。


 ビニ町に着いて。

 すぐに俺達は露店をまわった。


 それはこの子のもぬけの殻の様な雰囲気を、

 少しでも変えたいと思い。

 店を巡った。


「とりあえず、俺が奢るからクエストで儲かった。

 いっぱい食べよう!

 あっあそこに串でお肉焼いてる店があるぞ!

 美味しそうだなぁ。一緒に行こう!」

「うん! 食べるのだよ〜」


 セナは俺を見ながらとてもニコニコしていた。

 一緒に露店で食べ歩いた。


 俺は彼女の名前が気になって、女の子に告げる。


「その、名前教えてほしいな!

 それ以外は聞かないから、

 なんて、呼んでいいかわからなくて、ごめんね」


 女の子は俯きながら……。

 とても落ち着いた、小さな声で言う。


「私は何もないゼロ……。名前も何も全て、

 もうない……。だから答えられない」


 女の子は遠くを見つめ。

 少し思い詰めた顔をしていた。


 俺は答えてくれた嬉しさ……。

 だが、諦念ていねんした雰囲気に慌てて。

 言葉が零れた。


「ゼロか……じゃあ、レイかな。

 レイって凛としてかっこいいんだよ。いいだろう! 

 とても有名な名前で人気でなんてなぁ。

 わからないよな、ハハハ。ごめんね……なんか……」


 俺の苦し紛れのつまらない……。

 伝わらない会話に…………。


 俺、何言ってるんだ。

 異世界の女の子にバカだな……俺は。


 だが、その言葉に女の子の目に少し光が宿ったように見えた。

 女の子は初めて俺の瞳を見つめている。


「私の名前……レイ……凛としている……」

「その……これはつまらない冗談で、ごめん変を話を、急にして」

「名前があった方が呼びやすいから……私はレイがいい」


 俺は突然の名付け親になって動揺した。

 だが、レイの雰囲気が少し変わった様に感じた。


 本当にいいのか?

 まぁ……本人がいいなら。

 それから、レイは俺の瞳を見て話すようになった。


(私の新しい名前。そんなことあるの…………?)


 何故か俺とレイは見つめ合っていた。


 ──突然、セナが視覚に入り。

 正面から抱きついてきた。


「────僕に抱っこ! ぎゅ〜って」


 セナは頬を膨らませ、可愛らしく抱きつきながら言う。

 俺は突然の事に驚いた。


「ダッ、ダメだよ、男同士で、セナ!」

「ふーん師匠の言うこと聞かないの? 抱っこ!!」


 俺の宥める言葉に、またセナは強情になって告げる。

 頬がパンパンにぷく〜っと膨れ上がっている。


 俺はその可愛らしい顔に諦めた。

 男なのに。

 あぁ可愛い〜

 師匠の言葉だ。


「仕方ない、わかったこうか?」

「うむ! よろしい! よろしい! えへへ」


 俺は優しくセナをギュッとした。

 セナはとてもニコニコとしていた。


 私は不思議な力を電気のように通じて。

 体の中から泡のように、

 湧き上がってくる思いを感じていた。

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