第1話「運命の銀髪」

 ────ラサマ村。


 異世界に来てから数日が経っていた。

 この世界は科学が魔法に変わった様な世界だった。

 そして、俺が住んでいるラサマ村は、とてもド田舎だ。


 前世と変わらない容姿の俺、年齢は十四歳らしい。

 所謂、厨二だ。

 いや、中二だ。


 名前はマグノイア・タクロウ。

 母親の名前はマグノイア・スズハである。

 数日経っても、俺は全くといって魔法が使えなかった。


 仕方ない最終手段だ。

 やはり、人に聞くしかないか……。


 俺は夕飯の献立に悩んでいるスズハに質問をする。


「……その母さん、俺はいつ、魔法が使えるようになるのかな?」

「魔法? ん〜魔法はどんな人でも自然と使えるようになるのよ〜

 魔法学園在学中にでも、きっと使えるようになるわよ」

「……そうなんだ」

「焦らないようにね」

「うん、ありがとう」


 スズハが言うには。

 魔法は言葉が徐々に理解出来ると同じように──

 まぁ……自然とらしい。

 だが、それじゃあ困る。


 前世と変わらない容姿のせいか……。

 魔法が全く使える気がしない。

 仕方ない……とりあえず、いつもの場所だな。


「母さん、図書館に行ってきてもいいかな?」

「今日も図書館なの?」

「うん」

「行ってらっしゃい!

 あまり遅くなり過ぎないようにね〜」

「はい。行ってきます!」


 木造建築の一軒屋から図書館へと足早に向かった。

 辺りは前世の実家と同じような、田んぼ道が広がっている。


 数時間歩き、俺は図書館に着いた。

 本当に不便である。

 ……遠い。


 だが、何回来ても、ここは凄い。

 外観は

 中は綺麗な図書館だ。


 入口の大きな扉は、毎日開けっ放しになっている。

 俺は一言挨拶をしてから入る。


「失礼します〜」


 入口近くの木造のカウンターにいるのはご年配の女の人。

 ここの図書館のだ。

 若い頃は美人だったのかなって思う程。

 歳を見せていない人だった。


「おやおや、また君かい?

 毎日勉強に来てるじゃないかい。

 知識を増やすことはとてもいいことだよ。いらっしゃい」

「はい」


 図書館の中に入る。

 図書館内は天井まで壁一面にびっしりと本が置かれている。


 俺はいつもの定位置に座る。

 まだ読んでいない本を読み漁っていく。


 何故、この世界に俺は居るのか。

 この世界の記憶がないのか……。

 勿論、まだ何も分かっていない。


 だが、そんな俺なのに、息子として優しく接してくれる。

 母親には、感謝しかなかった。


 そう考えながら、本を読み漁っていく。



 この世界の魔法は──

 火、水、風、土、光、闇の六属性が基本だ。

 そして、六人の神様が人に魔法を伝えたと言われている。


 その、神様を崇めている国家も存在するらしい。


 俺はその神様の力でこの世界に来たのかい?

 分からない……。



「もうすぐ暗くなる時間よ」

「あっ──しまった」


 館長が声をかけてきた。

 俺はそれにハッとして気づく。

 長居しすぎたな。


 古びた長い、茶色のテーブルには。

 俺が読んだ、沢山の本が置いてあった。


 ここにあるほとんどは、

 魔法、魔物、ダンジョンに関してばかりの本しかなかった。


 俺はまだ文化を知らない。

 それが一番……困っている。


「すいません、ありがとうございます! 片付け帰ります」

「片付けはいいから早くお帰り。

 今日は日が落ちるのが早いから」

「わかりました、ありがとうございます」


 俺は本をそのままにして図書館を後にした。

 外は夕景ゆうけいなっていた。


 スズハの顔が頭に浮かび、急いでいつもの道を帰る。


 しまった……。

 遅くなりすぎた。


 ──図書館内では館長が魔法電話で会話をしている。


「何か変わった様子はあったか?」

「いいえ、まだ何もただ最近──」




 田んぼ道を歩く。

 全く進展がないまま、茫然としながら帰途につく。


 すると突如、寒くもないのに変な寒気を感じた。

 背中を刺すようなジメジメとするような気持ち悪さ。


 そして、俺の足跡とは違う、別の音が後ろから聞こえる。

 俺は踵を返し、見つめる。


「あれはカカシか? 魔物か──? いやまさかな……」


 そのまま見つめていると──普通の案山子が動いている。

 そして──俺に向かってくる。


 俺はいつの間にか走り出していた。

 突然の出来事に理解が追いついてない。

 だが、本能が走れと警鐘をしている。


 怖い。怖い。怖い。

 怖い。怖い

 怖い。


 だが、このまま見通しが良い一本道を走り続けても……。

 いずれ、追いつかれてしまう。


 ここら辺は人がいない……。

 仕方ない……ここから近い、幻想の森に行こう。

 そこであの魔物をまくしかない……。


 幻想の森へ入り。

 ────俺は走って、走って、走った。


 幻想の森はスズハに連れられて、

 何度も足を運んだ事がある。

 ルートは覚えている。


 幾分か走った。

 すると、先程の音が嘘のように静けさを取り戻していった。

 少しずつ、俺は安堵した。


「はぁはぁはぁ……音は消えたな。

 結構、走れるもんだな……若いって……素晴らしいな。

 少し、落ち着いたら帰るか」


 まだ呼吸は荒れている。

 俺は木に手をあて、深呼吸して平静になろうとした。


「どうしたの──大丈夫?」

「──────ひゃああああ!!」

「びっびっくりよ──!! ──変な声出さないでよ。

 僕、とてもびっくりしたよ!!」


 俺は驚愕して、変な声を上げてしまった。

 すかさずその声のした方へと目線を転じる。


 視線の先には初めて目にする本物の銀髪。

 秀麗しゅうれいな蒼眼をもつ人の姿があった。


 白皙はくせきに一瞬ハッとする凄みがある清艶へいえんに、

 俺は先ほどまでの恐怖が消えていた。


 ──なんて綺麗なんだ……。


「何か考えてたでしょ?

 僕はお化けさんじゃないのだよ。

 ちゃんと君と同じくらいの年の男の子さ。えっへん!」

「……そっ、そうなのか」


 こんな綺麗な子が男?

 僕か……。

 ありえない……。

 そう思いながら、俺はまじまじと見つめていた。


「その……ごめんなさい。急に声をかけて、驚かせてしまって」

「いやいや、俺の方こそ……ごめん」

「ありがとう!」

「あぁ」


 一拍を置いて。

 銀髪の子は優しく微笑み、俺を見ている。


「ところで君はお名前なんて言うんだい?

 いや違ったな。人に聞く前に僕の方からだね。

 僕の名前はアルベルト・・セナです。

 はじめまして!!」

「……俺はマグノイア・タクロウだ。よろしく!」


 セナは喜色を見せて、笑みをこぼしている。

 俺はずっと見惚れてしまっている。


「変わった名前だね。タクロウって呼ぶね!

 僕のことはセナって呼んでね!」

「変わった名前か。まあ確かに変わっているよな。

 なんか、組み合わせとか」

「なにそれ!

 組み合わせとかそんなの考えるの変なのだよ。おかしい」

「そうなのか?」

「うん!」


 俺の話を聞き、セナは何故かふふふっと笑っている。

 なんて可愛らしい笑顔だ。


 だが、セナはその後、少しぼ〜っとしていた。

 いや、顎に手を当て少し考えている。

 すると、徐にセナは話し掛けてきた。


「そういえば、どうしてあんなに怯えていたの?」

「その……さっきまで俺は案山子に追いかけられていたんだ。

 そいつをまくためにここまで逃げてきたんだ」


 また、セナは手を顎に当てながら考えている。

 俺の言葉と状況で推測していた。


「ふむふむ! その魔物はシャドウクロウって言う魔物だね。

 物を依代にして動く影の魔物だよ。

 だけど、この村にはいない、

 アンデット系の魔物なのにどうしてなんだろう……?」

「そっ……そうなのか?」

「そうなのだよ」


 突如、先ほどの戦慄の音がした。

 辺りには案山子は見えない。

 だが、だんだんとその音はおっきくなっている。


「さっ……さっきの──音だ!!」


 セナは俺の表情を見て、すかさず左手を上げ。

 中級光魔法を唱えた。


「僕がいるから大丈夫だよ。安心して!

 〝波紋光フルーライト〟」


 セナの魔法によって辺りはとても眩しく光り輝いた。


「すごい! なんて綺麗な魔法。なんて眩い魔法だ……」


 辺り一面、眩い光に照らされ、すぐに消えていった。

 魔法が消えていくのと同時に先ほどの音も静まっていた。


 俺はその光とセナの姿に感嘆していた。


「えっへん、僕が追い返したよ、すごいでしょ!」

「あぁ……セナすごい!!!」

「ありがとうなのだよ〜」


 俺は僥倖ぎょうこうを感謝しながら、興奮で瞳を輝かせた。

 セナは優しく気づかせるように俺に声を掛けた。


「魔物は退治したし、もう暗くなるよ。

 親御さん達は心配しているんじゃないのかなぁ?

 タクロウ、早くお家に帰らないと」

「あっそうだ──帰らないと母さん心配している。

 ありがとう!」

「いえいえ」

「本当にありがとうなセナ」


 俺は急いで帰ろうとした。


 セナの顔付きが先程と変わって、

 何故か申し訳なさそうに俺を見ていた。


「その……突然だけど、僕も一緒に行ってもいいかな?」

「セナは家に帰らないのか?」

「こんなこと突然、変だよね、ごめんなさい急に……」


 セナは俯きながら木を見つめていた。


 とても、わかりやすい。

 これも何かの縁だ。


 俺は深く聞かず家に連れて行こうと思った。


「行こうセナ! 母さんが晩ご飯を作って待っている」

「ありがとう……本当にありがとう」

「いいよ! 行くぞ」


 森に溶け残った光が水たまりのように──

 ところどころに白く光り銀髪をより輝かせていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る