閃光の魔術師~最強に至り全ての人に忘れられた女神を必ず思い出させてやる!〜

くろあ

「目覚め」

 浅倉拓郎あさくらたくろう、35歳。


 俺はアニメ、ゲーム、漫画を愛めでる、生粋の日本人である。

 あ〜素晴らしい。

 この文化を生み出した日本。


 二度言うがなんて、素晴らしいのだ。

 アニメを鑑賞するのが、俺の日課。

 今はその日課の最中である。


 いつもの様にソファーで寝転びながら、

 ダラダラと画面を流しながら観賞をしている。


 だが、こうなったか。

 厨二病、強いなぁ……。健気すぎる。

 しかし、ここまで好きな人に対して、

 必死になれるものなのか……?


「これを見て、正解だったなぁ……。

 寝るか──」


 アニメを見終わって、

 毎度の事ながら心に波がたっていた。


 ため息混じりで、

 寝室に向かい、ベッドに身体をあずけた。


 静かな夜が先ほどの感情を駆り立て、

 余韻を引き戻す。


 選択、行動、勇気か……。

 俺もあんな青春を過ごしてみたかった。


 頭の中に言葉を浮かびたてながら──

 ゆっくりと眠りに落ちていく。



 知らない声──

 言葉が脳裏に浮かび、すっと────

 穴に落ちるように眠りについた──────




「【貴方は異世界で青春を過ごしませんか?】」



 ---



「お母さんよ。では、お仕事に行ってくる。

 息子をよろしく頼んだ」

「はーい! いってらっしゃい、気をつけてね。

 よーし〜いい子ね。起きなさい時間よ」


 頭を撫でられている優しい感触。

 暖かいぬくもりが伝わってくる。


 瞼を開けて、その声の主を確認する。


 瞳に映る光景は……。

 椅子にかけた女性。

 その女性は優しい笑顔を俺に見せている。


「……目を覚ましたわね。可愛いタクロウ。

 朝ごはん食べるわよ!

 ゆっくりでいいから……。

 目を覚ましなさい、先に顔を洗って来るのよ」 

「……」


 タクロウって俺のことを言っているのか?

 しかし、ここは……何処だ……?


 女性は椅子からゆっくりと腰を上げ。

 部屋の外へと出ていった。


 知らない女性、見慣れない風景……。

 俺は疑問が頭にまとわりついて離れなかった。


 だが、俺はゆっくりと天日干しされていた様な、

 暖かいベッドから抜け出し座った。


「洗面台は部屋を出て、すぐ左手にあるから」 

「……はい!」


 すると、部屋の外から先程の女性の声が聞こえる。


 これ以上この場で考えても……。

 何が、何だか分からない。


 とりあえず俺は洗面台に向かった。

 確かめる為に。


 見慣れない木の廊下を歩む度にあぁ──

 ここは知らない世界だと実感する。


 やがて、俺は洗面台の前に立ち、

 目の前の鏡に映る自分を見て、声を失った。


 こっ……これは前の──いや、前世っだって言うのか? 

 これは────若い頃の俺の顔だ。


 俺は鏡を見ながら、

 理解したかのように、先程の女性の元へと向かった。


 ハッと視線を転じると、

 目の前には俺を笑顔で出迎える。

 母親らしい女性の姿がそこにはあった。


「おはよう! 顔は洗った?」

「──はい」


 俺はゆっくりと対面で椅子にかけた。

 だが、俺はこの人の記憶がない。

 これは明晰夢めいせきむなのか?

 いや……。そんなわけ。


 俺は女性からの目線を逸らすように、

 テーブルへと視線を転じた。


「これは──トーストと目玉焼き」


 思わず口に出てしまった。


「苦手な食べ物だったかしら? ごめんなさいね……」

「違うよ。美味しそうだからびっくりしただけだよ。

 ありがとう! いただきます」


 少し困惑していた女性だったが、

 俺の言葉を聞きすぐに、にっこりと微笑んだ。


 トーストと目玉焼きは通じるのか。

 なら、ここは日本なのか?


 いや違う……。

 違うと言い切れる理由がある。

 それは、目の前の女性だ。


 美しい金髪に赤眼の女性。

 こんな綺麗な人、見たことがない。

 アニメから、そのまま出てきたかのような人だ。


 女性は不思議そうに、少しだけ首を傾げながら──


「いただきますって何かな? お母さん初めて聞いた」


 俺は驚きと共に、息を呑む。


 まずい……。

 そうなのか、いただきますって言う、言葉はないのか。


 これが現実なんだと言い立てるように、

 言葉が頭の奥に入り込んでいく。


「いただきますって言葉は命に感謝をする言葉なんだよ」


 女性は言葉が耳に届くと、優しく微笑みを見せる。


「そうなのね〜なんていい子なの。お母さんとても嬉しい!」

「その……朝食、とても美味しいよ」

「ありがとうね〜」


 俺はあっという間に朝食を食べ終えた。

 前世と変わらない味。

 いや、変わるな、前世の物より格段に美味しかった。


 ただ、まずは少しでも情報を集めないと。

 慎重に言葉を選び、最善を尽くす。


「母さん、父さんは仕事?」

「うん! お父さんはお仕事で魔法学園に向かったわ」


 魔法学園────

 すると、この世界は魔法が存在するのか。

 魔法……。

 魔法が!!


 俺はこの様な状況なのに胸の高鳴りを感じた。


「そうなんだ!」

「お父さんは臨時で教員をしているの。

 タクロウも、もう少しすれば、魔法学園に行くことになるのよ」

「なるほど」


 魔法学園……。

 なんて素晴らしい響なんだ。


「お父さんはお仕事から戻るのは数日後だから、

 今日はタクロウが好きな、

 晩ご飯のお買い物を一緒に行きましょう!」

「うん!」


 全く何が起きているかわからない状況なのに。

 ただ、俺は一つだけ思ってしまった。

 いや、理解した。


 この人は俺の母親なんだと──

 その瞳は真っ直ぐ、俺だけを優しく見つめていた。

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