第45話 1歳半編⑩
出発5日目の午後。
3分の2の行程が過ぎた。
シューバのごはんは、経験者のママ&アンナおばさんペアが解決した。実は簡単。お湯でふやかしただけ。シューバもゴキゲンにふやかし具合を指示してくる。なんかちゃんと好みがあるのが面白い。
僕が休憩のたびにシューバのところへ行くのを、ミンク嬢はお気に召さず、最初の頃はぐずってた。けど、お父様に、あっちは赤ちゃんで、ママと一緒にいたいのは当たり前、馬車でずっと一緒なんだから、がまんしなさい、と諭されて、がまんしてくれてる。そう。休憩中、僕がシューバのところに行くと、ママもきて、一緒にお世話するんだ。この時間が僕の大きな癒やしになってる。
この道程で変わったことといえば、パーティメンバーとの仲かな?
ちいさなミンク嬢がいることもあり、予定よりゆったりと進行しているこの旅だけど、特に夜が早い。街道沿いに、大小様々な宿場町があって、旅人が泊まれるようになってるんだけど、明るい内に次の町につかないかも、という怖れがある場合、前の宿場町に泊まるようにしてる。
宿場町に入ると、護衛は解散していい。町中の警護は、別契約になるんだって。町に入ると、宿に泊まって食事をするでしょ?依頼主と護衛冒険者では、お金の使えるレベルが違う。これら全て依頼主持ちということもできるが、それは契約次第。ギルドでの交渉の時に、先方は宿泊飲食を同じところで、という条件を提示した。でも、アンナおばさんが、強硬に反対。24時間の警護は、気が休まらない。先日見習い登録したばかりのペーペーにはキツい、ということらしい。
「その契約では、うちのパーティでは無理だね。他当たりな。」
の一言に相手が折れた。
実際、町に入ってパーティだけになる時間、僕はホッとできてる。アンナおばさんグッジョブ!
で、このゆったり行軍のおかげで、パーティメンバーとの親睦も深められるというものでした。
最初に僕との仲を詰めてくれたのは、ミランダさんでした。おずおずと僕に話しかけてくれたんです。
「ねぇ、ダー君。抱っこしてもいいかな?それとも、私のこと、怖い?」
僕の目線に合わせてしゃがんでくれたミランダさん。怖い訳がない。
でも、おっさんに言われて、触られないように警戒してたから、外からみたら、僕が怖がってるように見えてるよね?本人、なにげにむっちゃ傷ついてるみたい。
僕は、ゴーダンをチラリと見る。
抱かせてやれ、と、アゴをグイッと上げるのを見て、僕は両手を、ミランダさんに大きく広げた。
「ううん、全然怖くないよ。ミランダしゃん、抱っこ。」
すると、うわぁビックリした!
ミランダさんの顔が見たことないくらいとろけたよ。優しく、背中をポンポンしながら、左右に揺れるミランダさん。あ、笑いながら、目から涙が!
(ミランダさんゴメンね。魔導師のすごい人は、触れたら心を読まれるかもだから、ミランダさんには触れさせるな、てゴーダンのおじちゃんに言われて、近寄れなかったんだ。ミランダさんは、悪くないからね。)
僕は念話で話しかけた。
ミランダさん、突然の念話にビックリ。
「これはダー君の念話なのかな?」
揺れるのをやめて、少し僕を離し、顔が見えるようにすると、ミランダさんが、そう言った。
「そうだけど・・・」
「わぁー。コレは初体験だ。これが念話かぁ。」
あれ?ミランダさん、念話できなかったんだ?
(ミランダさん、ミランダさん聞こえますか?念話です。お返事できますか?)
ミランダさん、・・・できませんでした。
凄腕の魔術師でも、相当練習いるらしいです。念話を届けられる僕がすごい、とのこと。その後、機会を見つけては念話の練習に付き合ったけど、結局できるようにならなかったのは、別の話。でも、このミランダさんの練習で、僕が語りかけて、答えを思い浮かべてもらい、僕がそれを読むことにより、念話で会話ができるようになった、ということも、後日の話です。
話を戻して、念話ができなかったミランダさん。では、触れてる人の心を読める?と聞いたら、答えはNO!心に思ってることなら、顔色や言動からの推測の方が簡単、とのこと。ごもっともです。
まぁ、僕がミランダさんを避けてた理由を知ったミランダさん。ゴーダンのおっさんに食ってかかったよ。そう言えば、初めて会った時もこんな風に食ってかかってたっけ?
「だって、あん時ゃ仕方ねえだろ?お前がどんな魔法隠してるかわからねーし、あの時点でコイツの能力、見せるわけにはいかなかったからな。だいたい、こいつの全く隠すつもりのない、ダダ漏れの魔力を隠蔽するだけで、毎日、魔力ガス欠寸前よ。あそこで危険なのは、お前とジャンぐらい。その二人に触られるな、とこいつに言い聞かせるぐらいしゃあねぇと思うだろう?」
ゴーダンのおっさん、そんな風に言い訳する。あん時とは、地下牢の時だろうけど、確かにおっさんの言うとおりだろう、と、僕も思わないでもない。僕が気づかないだけで、めちゃくちゃフォローしてくれてたんだろうし・・・でもね、言ってくれなきゃわからないし、1歳児に周りに気を向けろとか言われてもねぇ。
とにもかくにも、僕とミランダさんは無事和解(?)して、これからも抱っこして念話しようね、ということになった。
それを見ていたヨシュアさん。
「ぼくも、抱っこして良いかな?こう見えて、子供好きでね。ミランダさんに気を遣って言い出せなかったけど、ダー君ともっと仲良くなれればなぁ、と。」
もちろんOKしたよ。
ついでにラッセイ君も、じゃあ僕も、と、なぜか参加してきました。別に仲間はずれにするつもりはないけど、なんでみんな僕を抱きたがるかな?僕、もう歩けるよ?
そんな感じで、迷子防止のため、という名目の元、僕はパーティメンバーのママを除く誰かに抱っこされて、町中は移動することになりました。ママは、寝るときいっしょだし、ダーのこと好きな人を増やしたいので、皆さんでどうぞ、だって。人のことを思いやれる立派なママなのです。
この町中の抱っこだけど、実は思わぬ訓練にもなっちゃったよ。
これだけの人数と念話してみてわかったんだけど、声を届けるには、ラジオのチューニングみたいに、波動(なのかなぁ、感覚的なものなのでよくわかんない)を合わせる必要があるみたい。その人に触れていると、チューニングが自動で合うんだ。だから簡単に会話できる。でも離れても、チューニングしたことがある人とは合わせることができるようになってきた。で、離れてても僕から念話を飛ばして受けてもらうことは可能、と分かったんだ。後日、心に思い浮かべた返事を僕が読むという会話方法を生み出した後は、双方向通信も可能になったけどね。
うん、僕はパーティの通信係として有望みたいだ。
ちなみにもう一つ分かったこと、シューバとの意思疎通もこれの応用みたいです。この波動の周波数?が、人同士よりも離れてる感じ。より魔力を消費すれば、動物たちと意思疎通が可能な、便利能力だったよう。シューバと先に意思疎通してたから、このチューニング、うまくいったんじゃないかってアンナおばさんが言ってたよ。念話って血の繋がったどうしや、よっぽど魔力が合う人どうしでないと、できないのが常識だったらしい。しかも両者魔力がそれなりに必要、とのこと。このパーティメンバーでいえば、魔力量から考えて、ヨシュアさんとラッセイ君にはできるはずがないんだそうだ。でも実際できた。二人とも魔力量はゼロじゃないけど、念話を受けるにも本来は魔力が必要なわけで、魔導師でない彼らには全然足りないはず、だそうだ。僕と念話してるときに魔力の流れを見ると、僕のダダ漏れ魔力が少ない彼らの魔力を取り込み、一体化して利用させてる、らしい。
「じゃあ、襲撃の時のゴーダンのおじちゃんのおかげでちゅね。」
人に魔力を融通するなんて、訓練なしにできない高等魔術だ、いかな僕でもさすがにおかしい、とアンナおばさんが言ったので僕は、わざと口に出して言ってやった。
どういうこと?とメンバーに目を向けられるおっさん。言うなよ、と、僕にアイコンタクトをしてくる。ん?僕わかんなぁい。赤ちゃんでしゅから~
「襲撃の時、僕の魔力を使って、ババババーンてやってたでしゅ。」
うん、僕を魔力タンクにしたもんね。強引に魔力の通り道を開けた上で、僕の魔力引き出して、自分のと混ぜ混ぜして、土の弾丸まき散らしたよね?あれ、結構ギリギリだったよ、僕。
なんてことするんだ!と、大人軍団に詰め寄られて大変な目にあってたけど、僕知~らな~い。
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