第6話 生後3ヶ月編③

 雨の日は、基本畑には出ない。ほとんど雨はないけど、雨の日は休み、みたい。

 人によっては、ショッピングに行く。家畜同様、と言っても、お駄賃がある。毎日配られるあの金属、やっぱりお駄賃ぽい。これを貯めて貯めて、おそらく町中に行くのだろう。僕はまだ行ったことはない。ママも僕が生まれてからは行ってない模様。ごめんね。

 今日は、そんな雨。ママはやっぱりお留守番。そこに男が声をかけてきた。

 「ミミ、一緒に買い物行かないか?」

 「ダーがいるから、ごめんね。」

 「ちっ、たまには放っておけって。」

 「私がダーといたいの。」

 てな感じで、話している。

 うん、テレパシー補助付でだけど会話はかなり分かります。

 ちなみにこの男、嫌いなんだよね僕。いっつもママのことねっとりした目つきで見てるし、人の目盗んで、僕とか他の子供達を蹴ったりどついたりしてくるんだ。名前は、ゴウ、だっけ?記憶にある前世の物語で、ちゃんちゃんこを着た有名な妖怪の近くに出没する半妖ねずみ系のおっさんみたいな雰囲気の奴だ。

 「つまんねぇな。ま、オレは親切だから、なんか欲しいものがあったら買ってきてやるぜ。」

 「ほんと?それならダーを包む布が欲しい。」

 「ちぇっ、ガキ用かよ。おまえの服とか、そっちにしろよ。」

 「まだ服は大丈夫よ。それより寒くなる前に、ダーをくるむ布がもう1枚欲しいの。お願い。」

 そう言って、ママはぼろぼろの小さな巾着袋を渡そうとする。

 『ちょっと待って!』

 僕は思わずママに念話で叫ぶ。ちょっと、ちょっと。それってもらってるお金入れてる袋だよね。ママの全財産だよね?

 「?お師様?」

 相変わらず、ママは空中を見上げてつぶやく。

 袋を受け取ろうとしたゴウは、取り上げられる形になってちょっとつんのめった。怒鳴りかけて、チッと舌打ちする。ママに付いてる知の精霊=お師様が、みんなの生存率をあげていることは、ここの住人なら知っている。お師様と話すミミを妨げるのは、タブーになっているんだ。

 『それ全部渡しちゃだめだよ。アンを呼んできて。』

 「わかりました。」

 ママは、ちょっと待ってね、とゴウに断りを入れ、アンを連れてくる。

 「久しぶりのお師様だって?」

 「そうなの。お師様、アンを連れてきたわ。」

 『じゃあ、アンに聞いて。ダーのおくるみ用布っていくらぐらい?』

 「アン、ダーのおくるみ用の布ってお金どのくらいいるのかですって。」

 「ダーのおくるみかい。そうさねぇ。小さい古布でいいから、しても3、4ギルぐらいかね。」 

 お金の単位、ギルというのか。あの金属1ついくらだろ。

 『一応、多めに5ギル預けようか。足りる?』

 「はい。大丈夫です。」

 1、2、3、4、5と数えながら布から金属を出す。なるほど、あれ1つで1ギルね。

 『ねぇ、ゴウは1人で買い物行くのかな?』

 「みんな連れだって行くと思うよ。村の人は私たちがウロウロするの、いやがるから基本固まって行動するの。」

 『そっか。じゃあその5ギルをゴウに渡して。おつりはちゃんと返してって念を押してね。』

 買い物をお願いすることは、普通。それにお礼でお金や何か物を渡すことはない。少なくともこの小屋の住人にとってそれは常識。そのことを僕はもう知ってる。

 「ゴウ、それじゃあダーの布お願いね。おつりはちゃんと返してね。」

 「分かってるよ。」

 横に立つアンを見ながら、機嫌悪そうにお金を預かって踵を返すゴウ。

 6人の男女が連れ立って、雨の中、傘も差さずに出かけた。ハハハ。傘なんて見たことないけどね。



 しばらくして、買い物組が帰ってきた。

 それぞれ頼まれた物を配りおつりを返している。

 思った通り、だな。

 何がって?絶対おつりのちょろまかし、やってると見た。

 わざとの奴、わざとじゃない奴。両方いそうだけど・・・みんな計算できないし、記憶力もよろしくない。文字も読めない。大多数がそんな感じ。

 あ、アンが呼ばれた。なぜかアンは計算ができる。ちょっと不思議な人。みんなアンが計算ができるのは知っていて、今呼ばれたのは、おつりの計算をしてもらうため。どうやら預かったお金といくらだったかは覚えてるけど、おつりの金額を忘れたらしい。ふむふむ。アン、感謝されてるよ。解決解決。

 そんな風に観察していたら、ゴウがやってきた。

 あんまり状態の良くない布を持ってる。

 「ほい。頼まれてた布とおつり。」

 布と、1ギルをママに渡す。おいちょっと待て。5ギル渡したんだぞ。この布が4ギルだって?アンが高くて4ギルて言ってたよな。この布が高い方?ありえん。

 『アンとレン、呼んで。』

 僕は慌ててママに言う。レン、て一緒に買い物に行ってた気の良い兄ちゃん。ちょっと抜けてるけど記憶力は良い。

 ママは頷いて、声をあげ、二人を呼ぶ。

 何事か、と、アンとレンがやってきた。

 「あのね、お師様が二人を呼ぶようにって。」

  それを聞いて、明らかに様子のおかしいゴウ。

 『レンに、買ってきた布の値段、聞いてみて。』

 「レン、このゴウの買ってくれた布、いくらだったか分かる?」

 「あ、ダーのだろ?一番安い布で十分、て言って出させたやつ。2ギルだっけ?」

 「これ、買ってきたのかい?2ギルでも高いさね。」

 アンがちょっと怖い顔。

 『やっぱりね。2ギルならおつりは3ギル。2ギル足りないね。』

 「え?」

 「どうしたの?」

 怪訝な顔をするママにアンが聞いた。

 「お師様が2ギル足りないって。」

 アンがさらに怖い顔をして、ママの握る布と1ギルを見る。

 「確かミミはあんたに5ギル渡したね。で、この布が2ギル。つりは3ギル。確かに2ギル足りないね。」

 ギロッとゴウを見るアン。舌打ちするゴウ。それを見たアンは、ゴウの髪の毛をひっつかみ、グイッと引っ張った。怖ぇ~。

 「ちょ、待てって。勘違いだって。あんたみたいに賢くないんだよオレは。つりなんていちいち覚えてなかったんだって。返す、返すから。」

 悲鳴を上げつつ、必死で自分の巾着からお金を取り出す。

 「だいたいこんな小さな子にもう少しマシな布、買ってこれないのかい。一番安いの出せって言ったんだって?」

 それを聞いて、悲しそうな顔をするママ。

 「ごめんミミ。僕がもっと良い布にするようきつく言うべきだった。」

 そんなミミを見てレンが言う。いいやつだなぁ。ゴウは偉そうにしてるから、レンはそうそう強く言えないよね。ママもそんな悲しそうな顔するなって。

 『その布でダーは大丈夫。一度煮沸してきれいに洗ってから使ってね。』

 僕は、優しくそう言って、抱っこしてくれてるママにぎゅっとしがみついた。

 ママは幸せそうにそこにいるみんなに僕の言葉を報告して、いつまでも優しく僕を撫でてくれたんだ。


 

 

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