業火絢爛アギト

大福 黒団子

第1話 聖女見習い

 私の住む世界は、たまに転生者とかそういう異世界から生まれ直した人たちがいる。その人たち曰く、この世界はよくあるファンタジーとやららしい。

 私は私が生まれたこの世界が当たり前だと思うので、転生者の方々が書かれた本やお話で知った程度だ。

 曰く、とても素敵で、夢見たいで、素晴らしいと。

 自分達の世界をそう言って貰えたのがとても嬉しくて、すごくすごく嬉しくて、私はその人のことを気になってしまった。


 私が5歳の頃から、教会に来ている騎士のクロバルトさん。若作り、という物らしく全然更けていない。だって、あれからもう11年は経っている。

 けれど、クロバルトさんはずっとずっと18歳から20歳の青年の姿のままだ。


「クロバルトさんはどうしてうちに、エルス教会に毎日来るの?」

「アリウム嬢はその質問ばかりだなぁ」


 クロバルトさんは不思議そうに笑う。純粋に気になっただけなんだけどな。

 うちことエルス教会は所謂貧乏教会。建物はあっちこっちボロが来て、シスターそして神父様の服も質が良い物ではない。

 それに、冒険者さん達を癒すときのお金だって最小限。元々は奉仕活動の一環だから無償で行っていたのだけど、クロバルトさんが神父様に注意してからお金を受け取るようになった。

 とはいえ、雀の涙程度ですけどね。

 けれど、近くの町の人々からすれば「もっと高くお金を取っていい」との事。「いつ潰れるか不安」などもよく言われる。定期的に大きくなったお子さんの御下がりの服とかも下さるとてもいい人々だ。お陰で、うちで引き取った孤児や戦争孤児たちもとい、子供たちの服の質はとてもいい。

 もちろん、私達シスターや神父様用の服も下さるけど、恐れ多くて誰一人着れていないのが現実。使ってほしいという気持ちはとても嬉しいし、分かるけど……もしきているところを視察の聖騎士様達に見られでもしたらなんて言われるか。

 同じ騎士でも聖騎士様達とクロバルトさんは全然別よね。聖騎士様達はお貴族様が多いから、生まれの違いかしら? なんて、言ったら神様もとい世界神沙良様になんてお叱りを受ける事か。くわばらくわばら。


「俺はアリウム嬢に会いに来てんだよな」

「あ、はい。もう4010回目なので存じております」


 5歳の次の日から今日にかけて365日……つまり4010回は言われてたんだよ。幼いころはそれこそ、王子様みたいだなぁと思っていた。

 黒くて長い髪に、紅いの瞳を持つ釣り目のイケメンに言われてたのだ。そりゃもう、幼い私は単純だったので惚れたんだが……後日、街の奥様方にもそう仰ってると知り、私の幼い恋心は砕けました。パリンとね。

 だからもう、腹いせに。当時の自分は彼にこういいましたとさ。


「わたし! おっさんに! きょーみない! あっちいって、はくじょーもの!」


 もちろん、5歳の私は言葉の意味をちゃんと理解していない。教会内で痴話喧嘩していた夫婦の奥様が言った事を真似ただけだ。しかし、悲しい事に効果はなく、こうして4010回も言われ続けるのでした。

 故に、私の中での彼の印象は「とっても優しくて有能なロリコンおじさん」と。

 ロリコンというのも、転生者さんの本で知った。幼い女の子が好きな人の事の総称らしい。彼の実年齢は知らないが、おそらく適応されるだろうと思っている。

 いえいえ、正確には私の性別は女では無いのだけれども。性認証が女寄りなだけで正確には無性別。性別自体が存在しない第四の性なのだ。ちなみに第三の性は両性。

 とはいえ、もう4010回目。そろそろ本当の意味で何故来ているのか教えて貰ってもいい気がする。サクッと突っ込んでみよう。


「あのですね。ホントの本当になんで毎日うちに来てるんですか?」

「……ふむ」


 クロバルトさんは私の頭をじっと見ている。なんじゃなんじゃ。この薄緑色の髪がなんだというのか? 腰まで伸ばしてるのにヘアアレンジしてないからモサいのか?

 それともこの半目で気だるげな青いの目と合わないというのか?


「実はな、アリウム嬢を最初に見た時……妙に懐かしく感じてな」

「あ、はい。そういうのはいいんで」

「一応本当のことなんだがな」

「マジか」

「まじ」


 この人、ちょっと天然っぽいところがあるからどこからどこまでマジなのか分からない。この間なんて、神父様に「効率化を重視した食料だ」とか言ってクッキー状のパンやら、干し肉を大量に持ってきた。何の効率化だ。食べ方か? 食べ方の効率化のことなのか―—⁉

 私があれやこれやを思い出していると、クロバルトさんはスタスタと神父様の所へ向かう。私に用があったんじゃなかったんかい!

 などと思っていたら、あっという間に私のいる玄関に戻ってきたではないか。用事早くない?


「アリウム嬢」

「なんです?」

「実は、神父殿から君を聖女見習いとして認めようという話があってだな」

「なにそれしらん」


 聖女見習いとは、聖女になる見習いである。分かる。これはサルでもわかる。一方で聖女とは、救世の聖女様の事。この世界には複数人の聖人様と聖女様がいらっしゃるのだ。そして、各教会ごとに祭っている聖人様、聖女様は異なる。

 うちの教会では聖シラキク様を祭っている。なんでも、見た目は幼いアルビノ無性別だがやや戦闘民族。救った人々を「舎弟」と呼び、率いり「カチコミ」をしたという武力聖女もとい、聖無性別様なのだ。

 ……正典に「わしのシマに無断で入った者は血祭りじゃあ!」なんて記述あるの、うちだけだと思います。


 そして、数年に一度。その聖女を名目上引き継ぐものを聖女見習いという。

 転生者さんの本曰く「次期スケバン」だとかなんとか。それを何故、私が? 一応言うけれども、私にはそういった統率力等微塵もない。なおかつ、戦闘民族でも何でもない。……体を動かすのは楽しいけれど。


「という訳でだ、俺と一緒に冒険者になるぞ」

「どういう訳なんです――――!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る