神の御加護で治すサディスティック療法

ちびまるフォイ

悪魔に支配されているのはどっちか

「シスター、あなた顔色が悪いですよ」


「そうですか?」


「これは……シスター、あなた熱があります!!

 まさか世俗に行って汚れたのではないですか!?」


「神父さま、そんなことはありません!

 私はずっと教会の中で過ごしておりました!」


「だったら、神の御加護で病気から守ってくれるはずです!

 さあ、こっちへ来なさい!」


「神父さまいったいどこへ!?」


「今ならまだ間に合う! 魂の穢れをすすぐのです!!」


シスターは教会の地下室へと連れて行かれた。

壁には乾いた血のような痕跡が赤黒く残っている。


「いいですか、シスター。私はあなたのためを思っているんです。

 あなたの魂が穢れきるまえに偉大なる神によって救済するのです」


「神父さま、なにを!?」


「浄化!!」


バチン、としなったムチがシスターの背中を打ち付けた。

あまりの痛さに悲鳴すら上げられない。


「シスターの中に潜む悪しき存在よ!! 出ていきなさい! 浄化!!」


「ぎゃああ!!」


「おのれ! なんててごわい悪魔だ! 浄化! 浄化! 浄化ァーー!!」


しばらく続いた神父の"みそぎ"はやっと終わった。


「はぁ……はぁ……シスター、ご加減いかがですか」


「う……うぅ……」


「まだ熱がありますね。呼吸もあまり良くない。これはまずい。

 きっと悪魔が外に出まいとあなたの中に深く入り込んでいるのです」


「そんな……」


「明日はもっと本格的な神罰をしましょう。

 そうすればきっと悪魔はあなたの体から出ていきますよ」


「神父さま、街の病院に行ってはダメですか……?」


「病院!? シスター、あなた正気ですか!?」


神父は信じられないと目を見開き後ずさった。


「病院なんて科学という神の作りし世界に対する反逆の源!

 あんな場所に行って何がなおるというんです!

 あなたの魂がますます穢れ、あと戻りできなくなりますよ!」


「しかし神父さま……」


「シスター、あなたは今悪魔によって弱らされている。

 そして悪魔があなたの心と身体を操って世俗に穢れさせようとしているのです。

 街に行ってはなりません。心を強く保つのです」


神父に諭されたシスターだったが、その夜にますます症状が悪化した。

命の危険を感じたシスターは誰にも言わずに街の病院へと向かった。


シスターの状態を見た医者は顔面蒼白になった。


「どうしてこんなになるまで放っておいたんですか! 早く治療を!!」


「お願いします……でも、明日になるまでに教会へ戻らないと……」


「こんな状態でなにを!?」

「お願いします……」


医者により全力を尽くした治療によりシスターの病気はすっかり良くなった。

まだ入院をすすめる医者を振り切って教会にシスターは帰っていった。


翌朝、シスターの体調を気遣う神父が部屋にやってきた。


「おお、シスター! ずいぶんと顔色がよくなっている!!」


「神父さまのおかげです。今はもうすっかり元気です」


「それはよかった。神の御加護ですね」


「はい。ですからもうみそぎは必要ありません」


「それは違いますよ、シスター」


「……え?」


シスターは耳を疑ったが、神父はかわらぬ表情でニコニコとしていた。


「あなたの体に潜む悪魔は神の力で祓うことができました。

 しかし、神の庇護下にあるこの教会で悪魔に取り憑かれたということは

 あなたのなかにはそういった穢れの欠片があるとうことなのです」


「し、神父さま……私は治りましたって……」


「今後またあのような悪魔に取り憑かれないように、心をすすぐのです。さあ! さあ、さあ!」


「助けてーー!!」


神父がシスターの手を引いてあの地下室へ連れ込もうとしたとき。

ゴホン、と自然な咳が出た。


「神父さま……?」


「ゴホゴホッ。いや失礼……なぜか咳が……それにめまいも……」


見に覚えがありまくりの症状にシスターは聖母のような微笑みを向けた。


「ああ、神父さま。なんということでしょう。

 きっと私から逃げた悪魔が神父さまの体に入ったのでしょうね。

 さあ地下室で魂の浄化をしましょう!!」



「バカいえ! あんなので治ったら奇跡だ!!」


神父は猛ダッシュで街の病院へと向かった。

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