第27話これで思い通りに(アルト男爵side)

 私は、アルト・フォン・イヤシキーヤだ。男爵家の当主をしている。


 マッカート王太子派のザザン伯爵派閥に属していたが、王太子は廃嫡に、伯爵は処刑された。ザザン伯爵派閥に属していた貴族もこれまでやってきたことが国王の知るところとなり、処罰され、国外追放や爵位剥奪、領地没収などの罰を受けた。

 私も爵位や領地を失ったり、当主を引退させられることはなかったが、罰金を払うことになった。

 下級貴族である男爵なので、上級貴族と違い罰金により、今は、男爵家を何とか維持できている状況である。

 今回の処罰では、いなかったが、罰金が払えないと爵位を失い、奴隷に落とされてしまうのだ。


 そして、今の状況によるストレスを発散するため、妻とともにランとキーンを殴ったりした。

 まあ、子供は親の物なので、どう扱おうが親の自由なので、屋敷の外には出れないようにしているし、今までも幾度となく殴ったりしてきた。


 ある日、いつも通りにストレスを発散したあと、キーンやつが泣いていたので、ランが近づき、何かを言うと今までは、起きなかった現象が起きた。

 ランの手が光り、キーンの痣が消えたのだ。

 私は、驚いてしまった。妻も驚いているようだ。そして考えた。これは、まさかランは、聖女なのか。


「ラン、一緒に来い。神殿に行くぞ。」


 確認するため、私は、ランを神殿に連れて行くことにした。

 神殿に着き、娘の事を説明すると神官に神殿長の所に案内された。


「神殿長猊下、娘が癒しの力に目覚めたかもしれません。見ていただけませんでしょうか。」


「わかりました。アルト男爵。」

「名前は、何と言うのかね。」


「はい。ラン・フォン・イヤシキーヤと申します。神殿長猊下。」


「では、ラン嬢。この水晶に触れてみてくれるかな。」


「はい。」


 神殿長に言われた通りに、ランが水晶に触れると水晶が、目をあけていられない眩しく光った。


「間違いないようですね。ラン嬢は聖女です。」


 やはり、ランは聖女だったか。これで、俺の思い通りにできるではないか。


「私は、国王陛下に報告のために城に向かいます。近いうちにアルト男爵とラン嬢には登城の命があると思います。」


「わかりました。神殿長猊下。」


 私は、ランと神殿を後にし、屋敷に戻った。


「ラン、良くやったぞ。これで男爵家は巻き返せるぞ。」

「ラン、お前は王太子妃になれるぞ。」


「私が王太子妃に……」


「そうだ。お前は王子と聖女が結ばれる物語が好きだろう。隣国の帝国もそうだが、多くの国では、聖女は、王家に嫁ぐ。お前が好きな物語も実際にミュゼルバ王国であった事がもとになっているしな。」


 ランは、王子と聖女が結ばれる物語が好きだったので、そう説明した。

 ランが王太子妃なり、ゆくゆくはお妃だ。この国を好きにできるな。


 それからは、私と妻は、ランへの態度を変えた。

 ランが言ってきたので、キーンも殴ったりしないようにした。

 ランに機嫌を損ねてもらっては、困るからな。


 王城から使者が来て、私とランは、一週間後に登城するようにと言われた。


 それから、私は、登城するまでの間に領地が近い元ザザン伯爵派閥、それから元サイ公爵派閥の貴族を集め、ランが神殿で、聖女であると確認され、近々登城することを説明した。

 男爵家と下級貴族で、上位の貴族もいるが、私が聖女の父親という事で、この集まりのまとめ役となった。

 集まった貴族たちは、私の同じようなことを考えているようだ。

 領地が離れている貴族には、手紙を出しておいた。仲間は多い方がいいからな。抜かりはない。


 そして、我が領から王都までは、二日かかるので、私は、ランを連れ、登城のためにイヤシキーヤ領から王都へ向かった。

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