第3話 馬車に揺られ新たな地へ


馬車から降りてきた男性に声を掛けられた。


「ドナルド叔父様、どうされたのです。侯爵家をお継ぎになられてから今まで一度もクライシス領には来たことがないとお聞きしておりますが。」


「王太子殿下がソフィアとの婚約を破棄したと国王陛下と王妃殿下に報告に来たのでな。それであの愚兄がソフィアに対してどのような行動にでるのか予想するのは簡単だったからね。馬車を跳ばして王都から来たわけだ。」

「今までクライシス領に来なかったのは、愚兄に会うと喧嘩になるだろうしね。

ソフィアたちに悪影響だと思ったからクライシス領には来ないようにしていたのだ。忙しいというのもあるがな。」


最初は怒りを後半は照れくさいのか頭をかきながらドナルド叔父様が私の疑問に答えてくださりました。


「そうでしたの。わざわざ申し訳ありませんわ。」


「予想していた通り公爵家から追い出されてしまったようだが、行くあてはあるのかい。」


「いいえ。今夜泊まる宿を探しましたが、お祭りも近いので、どこも満室でまだ見つかっておりませんの、」


「ではノイヌーヴォ家に来るといい。なんなら養子になってもらって構わない。ソフィアほどの有能な人材を放置するわけにはいかないからね。養子縁組はすぐに決めなくて構わないからとりあえず、うちに来なさい。」


「よろしいのですか。養子縁組に関してはじっくり考えさせて頂かなければ、すぐに決めていいことではないですからね。

ありがたいです。お言葉に甘えさせてもらいノイヌーヴォ家にご厄介になります。

使用人としてでも何でもお使いくださいませ。」


養子にしてくれるという話は、今すぐには決められないので、じっくり考えさせてもらうことにした。

ノイヌーヴォ家にご厄介になるのだ、使用人としてでも何でも恩をお返ししなければなりませんわ。

しかし、叔父様のお顔が冴えませんね。なぜでしょうか。


「ソフィア、君をノイヌーヴォ家に連れ帰って、使用人として雇うつもりはないよ。」


「婚約破棄された私を使用人として雇っては、ノイヌーヴォ侯爵家の家名に傷がついてしまいますものね。」


私の発言で更に叔父様が困ったような顔されてますわ。

婚約破棄された者を雇い入れては家名に傷がつき、周りからどんな目で見られるかわかりませんからね。

貴族は相手を蹴落とそうと相手の粗をついてくる生き物ですからね。


「そう言うことではないんだけどな。」


叔父様がボソッと呟きましたが聞き取れませんでした。


「ソフィアには私の補佐をしてもらうために侯爵家に来てもらいたいだよ。さっきも言ったけどソフィアほどの有能な人間を放って置くのはもったいないからな。」


「叔父様の補佐ですか。私に勤まるとは思いませんが……」


宰相である叔父様の補佐なんてこんな小娘には無理に決まってますわ。


「ソフィアも王城にはあまり行きたくないだろうからね。

ノイヌーヴォ侯爵家当主の補佐というか、当主代理として領地経営をお願いしたいんだ。」


「私に領地経営なんて無理ですわ。後々にはやってみたい気持ちはありますけど……」


「クライシス領でも似たような事をやっていたはずだけど」


「領民の手助けはしてきましたが、領地経営とは似てはおりませんわよ。」


確かに自分達が贅沢するために税金を上げたり、領民の訴えを聞きもせず追い返す領主なので、裏で領民から話を聞き、手助けくらいしましたが、それは領地経営とは全く違いますわ。

何せ私のしてきた手助けと領地経営では責任の重さが違いすぎますからね。


「そうかな。領民が安心して暮らせるように、問題が起きれば解決して領地を良くしようとして行動することは領地経営と似たような事だと私は思うよ。

いきなり一人でやれとは言わないよ。今、私の代わりに領地経営している者も含めて、ちゃんと補佐はつけるつもりでいるよ。」


「では、叔父様の代わりに現在、領地経営されている方の補佐を私がするのではダメなのですか。」


叔父様の代わりに領地経営している方の補佐くらいなら私でもなんとかやれそうだと思ったので、叔父様に提案してみました。


「わかったよ。今はそれていいよ。」

「頑固だなあ。すぐに代わることになるだろうけどね。」


叔父様も了承してくれました。

後半は声が小さく何を言われたのかわかりませんでしたけど


「では、馬車に乗ってくれるかな。ノイヌーヴォ家に向かうからね。」


私は叔父様に言われ馬車に乗り込み、クライシス公爵家を追い出された私ですが、これからノイヌーヴォ侯爵家で新しい生活が始まると思うと期待と不安を感じながら侯爵家に着くのを待ち遠しいと思いながら揺れる馬車から窓の外を眺めておりました。

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