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 多くの命や尊厳が戦禍の中で踏みにじられた時代のお話です。ふたりの少女・アンネとヘレンが、廃屋に身を潜めていました。彼女たちのいる街は敵国に占領され、捕まった人々は皆おもちゃのようにもてあそばれるか、国を捨てるように教育し直されるか、飽きて殺されるかしてしまいます――そういう現場を、幾度も目にしました。

 ふたりは知らない同士でしたが、偶然同じ廃屋で出会って身を寄せ合ううち、奇妙な絆のようなものが生まれていました。


 もしかしたら、恋や愛を知る時期に他の人と出会えなかったことによる事故のようなものだったのかも知れません。

 しかし、ふたりはまるで前世から求め合っていた恋人同士のように、お互いを愛し、慈しみ、時にむさぼり合いました。お互いが得られなかったものを埋め合うように、長かった空白を埋めようとするように。


 アンネは確信していました、ヘレンはきっと、このままひとり寂しく死んでいくはずだったわたしを救うためにひとときの癒しをもたらしに降りた天使なのだ、と。

 ヘレンを見つめて、ヘレンを感じて、ヘレンを愛している間は、すべての苦しいことも悲しいことも忘れることができました。空腹も、寒さも、痒さも、目眩も、何もかも。


 この幸せを、永遠のものにしたい。

 だから、アンネはヘレンにあることを頼んだのです。

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