試合が終わった後も
日曜日。空は快晴、サッカーをするにはまさに絶好の日。そんな環境で試合を迎えられたことに感謝したいぐらいだ。だからかはわからないけど、相手も同じ条件なんだけど……。
「ナイス宏樹!」
春大会の初戦、俺は絶好調だった。どんなフェイントも、パスも、クロスも、直前で全て封殺することができて相手の攻撃陣に仕事を一切させなかった。
相手がさほど強くないこともあるけど、俺は公式戦初めてのスタメンだったからもっと緊張するものかと思ったけど……ここまでうまくいくなんて。
「おい宏樹、絶好調だな」
「自分でも驚いてるよ……。てか浩一だってもう2点決めてるじゃん」
「ま、相手が大したことないからな。油断するつもりはねーけど」
そしてハーフタイム、水を飲みながら浩一と健闘を讃え合う。まだ試合中だけど、今日はすでに3-0のスコアだから心なしか余裕が生まれているんだろう。もちろん、浩一同様油断はしない。油断して逆転負けなんてよくある話だから。
「つーか浜地さんちゃんと応援に来てくれてんじゃん。いやーいいねー私服も可愛いし。宏樹が羨ましいよ」
「な、何を言ってんだよ。ユキは浩一の応援にも来てるんじゃないか?」
「そりゃねーだろ。浜地さん宏樹のことばっか見てたし」
「え? て、てかなんでお前それ知ってんだよ」
「守備サボってた時に見てた。あ、でも見てたら浜地さんの隣にいた紫に睨まれたんだよな」
「そりゃそうだクソ野郎! ちったあ守備しろ!」
通りで相手が弱い割には攻め込まれるなあって思ってたんだ。
「えーでも…………あ、か、監督」
監督が喋ってる俺らのところにきて浩一を連れ出した。お、どうやら監督からも何か言いたいことがありそうだ。これは後半は多少俺も楽になるかも。
そして後半。逆転負けなんてされることなく、俺たちは6-0で勝利した。後半はシュート一本も打たせる事なく完封した形で、俺は先輩や監督からも褒められた。浩一も結局ハットトリックを達成してなんだかんだ絶賛されてたけど。
「ふう……あ、ゆ、ユキ。それに紫も。……あ、サンキュー」
そしてベンチから撤収して、空いてるところに移動した俺たちは少し休憩していた。するとそこにユキと紫がやってきて、俺は紫からアクエリを受け取る。
「お疲れ宏樹。大活躍だったじゃん、よく守れてたと思うよ。今日の試合展開的に、みんな前線に行き過ぎなぐらいだったから1点ぐらい取られるかもって思ったけど、宏樹のおかげで0点に抑えられてたし。……かっこよかったよ」
「おお、めっちゃ褒めてくれるじゃん紫」
「おい俺はどうした。ハットトリック決めたぞ?」
「べ、別に正直に思ったことを言っただけ! それに浩一とか結果は出してるけどあれじゃあ強敵相手じゃ通用しないだろうし……」
「し、辛辣だなほんと……。で、浜地さんはどうだった? 宏樹のプレー、かっこよかったっしょ?」
浩一が俺の聞きたいことを、多分無意識に聞いてくれた。正直俺は今日の試合中よりも今この時を緊張しているかもしれない。なにせユキにこうして試合を見てもらうのは初めてだから……。
「…………うん、すごく……かっこよかったよ、ヒロくん」
ユキは俺のことを見て、笑顔でそう言ってくれた。……それだけで、今日頑張った甲斐があったなあって思える。多分、俺がずっとユキに言われたかった言葉だから。
「……ありがとユキ。ユキに見られて恥じないプレーができてよかったよ」
「わ、私こそ……ヒロくんのかっこいいところ見れてよかったよ。……また、来てもいい?」
「もちろん! 次の試合も見に来てよ!」
「……うん!」
それから俺らはミーティングをして、各自解散……だったんだけど、俺は運悪くジャンケンに負けて次の試合の副審をする羽目になった。さっさと帰りたかったんだけど……まあ、負けてしまったものは仕方ない。
なので結局俺は他の人たちよりも遅く帰ることになったわけだが……。
「あ、あれ? ユキどうしたの?」
「……ま、待ってたの。ヒロくんと……い、一緒に帰りたくて」
試合が行われた他校の校門の前で、ユキが待っていた。結構時間が経っているのに待っててくれたんだ……嬉しい。
「……じゃ、じゃあ帰ろっか。ありがとユキ、待っててくれて」
「……ううん、大したことじゃないよ。それに…………キスも、したかったから」
「…………そうだな。約束、だもんな」
そっか。約束は毎日。休みの日である日曜日も、その約束は守る必要があるよな。ユキがこうして応援に来て、ここで待っててくれたんだから。
「…………ありがと。じゃあ…………私の家で…………しよ?」
「…………うん」
そして、俺たちはユキの家に行った。俺は汗臭かったから一旦家に帰ろうかと思ったけど……ユキが、そのままでいいって言ったから……俺はそのままユキの家に上がって、部屋に行って……。
「ちゅ…………はぁ……んんっ……れろれろ……ヒロ、くん…………ちゅぅ、ちゅぅ……」
お互いベットに座りながら、いつも通りキスをした。別に、普段学校でしているのと変わらない。今日は初めてユキとキスしたように、ユキの部屋でしているだけだ。ただそれだけで……何も、何も……変わらない……から。
「んんっ…………ヒロくんの匂い……ちゅっ……れろれろっ……これも……んんっ……良いね………ちゅっ……」
「……臭い……だけだろ」
「ちゅっ……う、ううん…………私にとって……はむっ……んんっ……いい匂い……だよ」
「……はぁ……はぁ……そ、そう……」
ユキが、キスしながら俺の匂いを褒めてくれる。臭いだけに違いないはずなのに、それが気に入ったのか? 俺の方こそ……今日のユキ、香水をつけているのか……こうして密着してると、すごくいい匂いがして……惚けてしまう。
「……ちゅっ……ほ、本当に……んんっ……はむっ…………今日……ヒロくん……んんっ……れろれろっ…………かっこよかった……よ……ちゅっ…………ずっと……見てた……から……んんっ」
「……はぁはぁ……ありがと」
「んんっ…………ちゅぅぅ…………ぷ、ぷはぁ……。ね、ねえ……ひろ……くん」
ユキはキスをやめて、真っ赤になった顔で俺はじっと見て……俺の頰を手のひらで触りながら、
「………今日は家……だから。この先を…………しよ?」
俺を、誘惑してくるようなことを……言ってきた。俺が思っていないことかもしれない。むしろそうであってほしい。だけどユキは…………物欲しそうな顔をして、俺をじっと見てくる。
あの時は学校だったけど、今日は家。ユキの両親はいない。誰にもバレない環境が、見事なまでに整えられている。
だけど………俺はユキの「幼馴染」であるだけだから。キスも、恋人だからしてるわけじゃない。「約束」だからしているだけだ。だから……この先なんて…………。
「……ダメだユキ。それは…………約束の範囲外だ」
行けるわけがない。俺は舌を噛んで理性をなんとか保つ。
「…………だ、だよね。ご、ごめんねヒロくん……変なこと言っちゃって」
「……気にする事ないよ。……それじゃあ、今日は帰るよ」
「う、うん……。ま、またね……ヒロくん」
それから俺は家に帰って、シャワーを浴びて……寝た。試合の疲れも溜まってたから眠ることはできた。だけど……見た夢はろくなもんじゃなかった。誰にも言えない。特に、ユキには。
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