放課後


 昼休みを終えて、その後の2時間に及ぶ授業を終えたのち……俺は部活に、ユキは帰宅していた。ちなみに俺たちが別々になる際……。


 「ぶ、部活……が、頑張ってね……ヒロくん!」


 「ああ、頑張るよ。ユキも今日はよく頑張ったね」


 「……ヒロくんがいたからだよ。……あ、明日も……よろしくね」


 そんな会話を交わしていた。それは他のクラスメイトにも聞かれていたが……「明日もよろしく」の意味が……キスをすることであることは、誰も知る由がない。


 そして俺は……。


 「ナイスカット宏樹!」

 「今日お前すごく調子がいいな!」

 「この調子で頼むぞ!」


 ユキの声援があったからか、プレーがとことん冴え渡っており絶好調だった。何をしてもうまくいくっていう感じでもう無敵なんじゃないかって思えたぐらいだ。


 そして練習が終わった後、部室で制服に着替えて俺は浩一と紫と一緒に帰宅する。今までは先に帰っていたけど、今日はユキの家による必要もない。むしろまっすぐ帰ってほしいと言われたから、その心遣いを守るべきだ。


 「今日の宏樹めっちゃ絶好調だったな。俺何にもさせてもらえなかったわ」


 「俺もびっくりしてる。今日はとことん上手くいったよ」


 「……浜地さんに応援されてたもんね、宏樹」


 「え!? い、いやそれは……」


 なんだか少し機嫌が悪い紫にそう言われて俺は動揺する。でも実際ユキが応援してくれたからあれだけ絶好調になったのかもしれないし……あながち間違いではないのかも。


 「そりゃあんな可愛い子に応援してもらったら元気になるよねー」


 「い、いや……俺はユキが約束を守ってくれたことに安心したからで……。朝はそれで集中できなかったし」


 だが俺としてはユキが約束どおり学校に来てくれたことが何よりも嬉しかった。そして安心したからこそ、朝と違って落ち着いてプレーできたんだろう。


 「約束? なにそれ」


 「あ、え、えっと……」


 「気になるなー教えて」


 だがついその約束の存在をぽろっと紫たちに漏らしてしまう。それに気づいた俺は誤魔化そうとするものの、紫が真剣な表情で彼に迫り追求してくる。一体どうしたんだ……なんか今日、めっちゃ圧があるというか……。


 「おいおいそこまでにしな紫。二人だけの約束なんだろ、そっとしておいてやれよ」


 だけど俺が困っていることを察した浩一が笑いながらそれを制止した。


 「……ま、そうだね。でもあたし浜地さんのことよく知りたいし、どんな約束したのかなあって気になったの。早くお友達になりたいからさ」


 「ほ、ほんとか紫!」


 「うん、せっかく学校きてくれたし、楽しんでもらいたいじゃん」


 紫からそんなことを言ってもらえたことに、俺は喜ぶ。なにせ紫は学校の人気者だから、何かと人脈も広い。だからこそユキが紫と友達になれば早く学校に慣れるきっかけになるかもしれないと思ったから。


 「なら俺も。浜地さん可愛いし」


 「あんたね……」


 「嘘嘘! 普通に友達になりたいだけだから! だからそんなに睨むな紫!」


 そんな二人のやりとりを見ながら、俺は友達に恵まれたなあと実感する。だってこんなことを言ってくれる人なんて……そうそういるもんじゃないだろうし。


 「……二人とも、ありがとうな」


 「ん? いやいや、俺がなりたいってだけさ。紫だってそうだろ?」


 「え……ま、まあうん、そうだよ。て、てかさー宏樹。浜地さんってどんなことが好きなの?」


 「ユキの好きなこと………………な、なんだろうな」


 「し、知らねーのかよ!」


 その指摘はごもっともだ。そう俺は思うものの事実知らないからどうしようもない。確かにユキとは長い付き合いではあるものの……。


 「い、いや……中学の時にちょっと気まずくなった時期もあったから……」


 「あ、もしかしてフラれたとか?」


 「…………」


 「え、図星!?」


 浩一が冗談のつもりでフラれたと言ったところ、まさかの正解を引いてしまい俺は古傷がズキッと痛み、浩一は焦り出した。そう、俺は中学の時にユキに告白して、見事フラれている。


 だからこそどうして毎日キスをする約束なんてしたのか……俺にはさっぱりわからない。ユキはいったい何を考えているんだろう……。


 「す、すまんな宏樹。さっきの会話はなかったことにしよう。紫もだぞ、これはなかった、いいな?」


 「うん、オッケー。にしても宏樹も誰かを好きになったりしたんだねえ……そりゃあんなに優しくするわけだ」


 「い、今は違う。好きだったから……幸せでいてほしいだけだ」


 そう、今はもう俺はユキに恋愛感情は持ってない。幼馴染として、幸せになってほしいだけだ。


 「ふーん。ま、ならあたしが明日話して聞いてみるよ。男には話しづらい趣味とかもあるかもしれないし」


 「じゃあ任せる。ほんと、紫は頼りになるなあ」


 「なっ! ほ、褒めても何もないから! そ、それじゃ私こっちだから。じゃあね!」


 なんだかまた急に紫は顔を真っ赤にして、さっさと帰ってしまった。なんか俺変なことでも言ったのかなあ……。


 「一体どうしたんだ?」


 「さあ? 腹でも減ったんじゃね。あ、俺たちもどっかでラーメン食べね?」


 「いや、俺も家帰るわ」


 別に俺はラーメンを食べたくないわけじゃない。ただ、昼間にユキから家に帰ってすぐに休んでほしいと言われたから。せっかくユキが自分のために言ってくれたのだから、それを蔑ろにすることは俺にはできない。


 「チェ。でもめっちゃ食いたくなったから一人で食ってくる。んじゃな、宏樹」


 「ああ、また明日」


 そうして浩一とも別れて、俺はまっすぐ家に帰った。その後すぐにご飯を食べて、風呂に入って、すぐに寝ようとした。だけど……。


 【ヒロくん……んっ……んんっ】


 「……情けないな……俺……」


 どうしても、寝ようとすると昼間のキスを思い出してしまって……結局眠れなかった。


 ――――――――――――


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