一緒にお昼ご飯
朝礼が終わって、授業が始まる間の時間に俺はユキと少しばかり話をする。とは言っても……。
「え、えっとヒロくん……そ、その……えっと……っ」
ユキから何か話そうとしていたが、久しぶりに学校に来たこともあってか緊張していてモゴモゴと口を動かすことしかできていなかった。
「め、めっちゃ緊張してるねユキ。はいこれお茶、これ飲んで少し落ち着いたら話して」
そんなユキをみて俺はカバンからまだ飲んでいないお茶を取り出して、それをユキに渡す。渡されたユキはそれを受け取ってゆっくりをそれを飲む。
「……ありがとう。ご、ごめんねヒロくん、迷惑ばっかりかけちゃって」
「そんなことないさ、これぐらい大したことないし。それで、何か話したいことがあったんだろ?」
「う、うん……え、えっとね………………っあ」
「チャイム鳴っちゃったな。んじゃ、話は次の休み時間聞くよ」
タイミングが悪いことに、ユキが何かを言おうとしたその時ちょうどチャイムがなり、授業が始まってしまった。大事そうな話なので授業中話をするのはまずいと思い、これは次の休み時間に持ち越しておいた。
そして次の休み時間。
「浜地。休んでいた分の小テストどうするか決めるからちょっと来て」
「ひゃ、ひゃい!」
授業が終わるとすぐにユキは数学の女性教師に呼ばれてしまい、話すことができなかった。
「ユキ大丈夫かなあ……思いっきり噛んでたし。とはいえ俺が先生のとこついていくのはおかしいし……ん、どした紫?」
そんな独り言を言っていると、ふと紫と浩一が俺のとこに来ていたことに気づく。あれ、なんか紫めっちゃ驚いた表情してんな。
「ど、どうしたもこうも……あ、あんた浜地さんとどういう関係なのよ!? さらっとすごい親しげに話してたけど……」
「あ、俺もめっちゃ興味ある」
「浩一まで……。ユキと俺は幼稚園からの幼馴染だよ」
「あーなるほどな。納得」
「……へえ」
ざっとした俺の説明に浩一は納得し、紫も何か言いたいことはありそうだったものの、一応納得した表情を見せる。
「だから何かと不登校で心配だったんだけど……よかったよ。あ、そうだ。今日はユキと一緒に食べていい? 多分一緒に食べる相手いないだろうし」
「……ま、まあいいけど……浜地さん目立つよ? それだったら……」
「あ、ならいい手段があるぜ! ほらこれ」
紫が何か言おうとしたのを遮って、浩一はポケットから何かの鍵を取り出して、それを俺に渡す。
「なにこれ?」
「屋上の鍵。ま、どうやって手にしたのかは聞かんでくれよ。そこだったら目立たないだろうし、二人っきりで食べるにはうってつけだろ?」
「ふ、二人っきり!?」
俺の予定ではいつも昼ご飯を食べている紫、浩一と一緒にユキと食べるつもりだったのだが……どうやら浩一はそう考えてはいなかったようで、ニヤニヤとしながら話を進めていく。
「お前と二人っきりで一緒に食べるのが浜地さんにはベストだろうし。学校に慣れてきたら俺らとも一緒に食えばいいっしょ」
「……確かに。たまにはいいこと言うじゃんか浩一。それじゃあそうさせてもらうよ。紫も大丈夫?」
「………………うん。んじゃあたしは香苗(他クラスのサッカー部マネージャー)と食べとくね。浩一と二人っきりはきついし」
「言うと思ったわ……ま、俺も他のやつと食べとく」
「ありがとな、二人とも」
そんなこんなで話がまとまったところでチャイムがなり、駆け足でユキは教室から戻ってきた。それからまた授業が始まり、そして終わっていき……休み時間に入る。
「あのさユキ、今日のお昼一緒に屋上で食べない?」
「え!? ……い、いいのヒロくん? と、友達と食べなくて……?」
「許可とったし大丈夫。あ、でも無理はしなくていいよ」
「い、いく……! わ、私も……ひ、ヒロくんと一緒に……食べたかったから」
そこで初めて今日、ユキは笑ってくれた。俺と一緒に食べたいって言ってくれたことも嬉しかったから、思わず俺も笑みを返す。それから昼休みに入り……。
「わあ、結構広いんだなあ屋上って」
俺たちは屋上に来ていた。本来であれば鍵なんて生徒が手に入れることができないはずなので、誰もここでご飯を食べたりなんてしていない。俺たちはフェンスにもたれながら、二人だけの空間で弁当を食べ始めた。
「あれ、ユキお昼ご飯それだけ?」
ユキはコンビニのおにぎり一個だけをカバンから取り出して食べていた。
「う、うん……。きょ、今日いきなり学校に行くって言ったから……ママも弁当作れなくて」
「なるほど……なら俺の食べなよ。それじゃ足りないだろうし」
「え!? そ、そんな……ひ、ヒロくんの弁当……もらうわけには……」
「じゃあ俺がユキにあげたいって言ったら?」
「…………ずるい」
ことば巧みにことを運んで、俺はユキに弁当のおかずをあげる。そしてモグモグとゆっくりと……美味しそうに幸穂は食べていた。それを見て俺はまた嬉しくて笑う。
「美味しいね、これ……お母さんの手作り?」
「いや、今日は俺が作った。眠れなかったからまあ勢いで」
「そ、そうなんだ! や、やっぱりすごいねヒロくんは……すごく美味しかったよ。…………あ、あの……それと眠れなかったのって……」
「…………う、うん」
俺がなぜ眠れなかったのか、その理由をユキは察していたのだろう。お互いに昨日のことを思い出しては、顔を真っ赤にしてしまう。
「……い、いや……俺も初めてだったから……」
「…………私も」
あのことを思い出してしまうとつい気まずくなってしまい、会話が途切れてしまう。だが俺の方は聞きたいことが山ほどある。どうして俺とキスすることが学校に来ることにつながるのか、そもそもどうして不登校になったのか……などなど。
だがそれを本人に直接聞くことは嫌がるに決まっているので聞けない。なので俺は話題を逸らすため何か必死に考えているのだが……。
「……あ、あのね!」
先に口を開いたのは、ユキだった。
「わ、私……今日の分のキス、今したい」
「…………あ、きょ、今日の分のキス……そ、そっか。毎日だもんな。でも学校でしなくても、放課後ユキの家ですればいいんじゃ……」
「……ヒロくん、練習頑張ってたでしょ? 私……朝練見たよ。あ、あんなに朝でも頑張ってたら……きっと放課後も大変だろうし……すぐに家に帰って休んで欲しいの。だ、だから……時間がある今……キスしたい」
必死に今日ここでしたい理由を、恥ずかしがりながらユキは説明していく。俺としては別に気にしていないことだが、ユキがここまで自分のことを思って言ってくれていることを蔑ろにはしたくない。だから……
「……わかった」
ここでキスをすることを承諾した。幸いここは誰も来ない場所だし、誰かに見れらることもないだろうから。
「……ありがとう、ヒロくん。………はむっ……んんっ……んっ……んんっ」
そしてユキは昨日と同じように、俺の唇にキスをした。まだまだ慣れていないためぎこちなさはあるものの……それでも強く唇をくっつける。俺も二度目ではあるものの、慣れるようなものじゃないためまた理性を失いそうになるが……。
「んんっ…………ぷはあ…………はあ……はあ……ひ、ヒロくん……」
「……ゆ、ユキ……」
その前に、ユキの息が続かずキスが終わった。お互いに火照った顔を見つめながら……キスをした後特有の、妖艶な雰囲気に包まれているものの……昼休み終了十分前を告げるチャイムの音が、俺たちを正気に戻す。
「……そ、そろそろ戻らないと。行こっか」
「……う、うん……」
そして俺たちは、お互いに気まずい雰囲気を誤魔化しながら……教室に戻っていった。
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