異形『怪』道中

森林公園 様作


【あらすじ引用】

昭和初期を舞台に、初老の開業医と美少年の書生、謎の背広の男が異形にまつわる謎に巻き込まれてゆく。


元軍医の忠治(ちゅうじ)は、軍時代の部下で政府の仕事をしている島根(しまね)の頼みにより、奇妙な事件に駆り出されることがしばしば。伴う書生の千太郎(せんたろう)は剣の腕が立ち、いつしか『ちぐはぐ』な三人での珍道中が多くなる。


そんな中、忠治はそれぞれの事件により、過去を思い出すことが増えてゆき……。


【物語は】

ある診療所を舞台に幕を開ける。選び抜かれた表現で時代らしさを醸し出しているのが、印象的な作品だ。主人公が開業医をはじめた経緯などが、モノローグによって描かれている。

時刻はとうに夜中を回っていた。そんな折、主人公の思考を停止させるように、扉を叩く音が。格子戸に映った姿、時刻が時刻であることもあり彼はゾッとするのだった。


【物語の魅力】

時代らしさに力を入れている作品。冒頭では、ある出来事が描かれている。匂わせで終わっているが、これは何かの伏線なのだろうか?

明確な何かは書かれていないが、冒頭に日付が書かれていた為、恐らく過去の出来事だろう。この出来事が以降、彼の人生にどう関わって来るのか気になる点である。


一話の終わりから続く二話。繋ぎ方が巧いと思う。この物語はミステリーを思わせる部分があり、ホラーとミステリーは方向性が似ているということに改めて気づかされた。

ホラーとは”何か分からない”から怖いと感じるもの。ミステリーとは”何か分からない”から好奇心をそそられるものである。


特にこの作品は、時代らしさに拘りを感じるため話にのめり込んでしまう。表現だけでなく、空気感も良い。時間に常に追われるような現代社会の雰囲気ではなく、勤勉、真面目といわれる日本ながら、融通が利くと思われる部分があるのでそう思わせるのだろうか。


【登場人物の魅力】

主人公の性格はとても分かりやすく言動に表れており、周りの者からも彼についての印象が語られている。よく出てくる登場人物は四人となるのだろうか。主人公が世話をするようになった少年は、とても変わっており、食対して執着がある。どんな理由からそうなってしまったのか、気になる部分だ。

もう一人は、主人公の部下であり、主人公の気性などについてもよく知る人物。だからこそ悪戯と呼べることができるのではないだろうか?

そのため作中ではコミカルに感じる部分もある。

そんな三人にアクセントを加えているのが、通いの家政婦の役目も兼ねている看護婦(補足*2002年3月より看護師と統一されている)。

個性的な三人な為、バランスが面白いと感じた。ユーモアも感じる作品である。


【作品の見どころ】

やはりその時代らしさに拘りを感じる。表現の仕方、言葉遣い、時間の流れ方など。そこに加えて、登場人物それぞれの個性も際立つ。


作中に登場するモチーフが、馴染のある物であるところは親しみやすい。

例えば、人魚の肉にまつわるエピソード。食べると不老不死になるという”伝説”は、一度は耳にしたことのある人は多いのではないだろうか。

検索をしてみると『人魚の肉を食べて800歳まで生きた娘』という記事が出てくる。この八百比丘尼(やおびくに)は、日本の伝説上の人物。特別なもの(人魚の肉など)を食べたことで不老長寿を獲得した比丘尼である。【web調べ】地方によって呼び方が違うが、それだけ各地に残されている伝説という事になる。

このように、多くの人が何となくでも耳にしたことのあるモチーフを扱い、それをオリジナルエピソードへとしている部分も見どころであり、魅力だと思う。


この先、彼らはどのような事柄や事件に遭遇していくのだろうか?

あなたもお手に取られてみませんか?

彼らのその先を是非その目で、確かめてみてくださいね。

おススメです。

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